VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい

夏月太陽

20.初めてのイベント


 取り敢えず、月曜から金曜まで、幸也 (マクロ)は、宣言通り勉強を頑張った。

 ところが、まだ5日間しかやっていないにもかかわらず、こんなことを言った。

「なんか、頭よくなった気がする……!」

 んなバカな。5日で頭よくなるんだったら、皆勉強で苦労しないし、今の文明はもっと進んでると思う。

 ただ良かったのは、やる気はまだ消失してないようで「来週もやるぞ!!」と意気込んでいた。


 ◆◇◆◇◆


 土曜日になり、朝8時頃、速人からメールが届き、読んでみると、『9時からからイベント始まるのでやりませんか?』と書いてあった。

 僕は、『良いよ。ところで、唐突なんだけど、シアンとブランが餌要らないみたいなんだけど、どういうこと?』と返事を送った。

 返事は、予め書いてたんじゃないかというくらい速くて、僕の返信の後すぐに返ってきたにもかかわらず、『それは、なつき度がカンストしたからだと思います。決して王だからではありません。たぶん、龍さんの体質のせいでテイムした時点でなつき度がカンストしてたんだと思います。それと、待ち合わせはギルドホームでお願いします。』と結構な量書いてあった。

 どんな打ち方したんだ……。それより、シアンとブランが餌要らないのは全テイムモンスターに当てはまる事だったということが知れて良かった。

 それから僕は、ばあちゃんとじいちゃんにゲームすることを伝え、ログインした。

 ログインした僕はシアンとブランを何時ものポジションにつかせて、ギルドホームにあるソファーに座って皆がログインしてくるのを待った。

「今日は、シアンとブランが大活躍するかもなぁ……」
「キュ?」
「クゥ?」

 僕の呟きに、シアンとブランが「なんの事?」といった鳴き声を出しながら首を傾げた。

「今日イベントがあってボスを倒すんだけど、その時にシアンとブランが大活躍しそうだなって話」
「キュキュ!」
「クゥクゥ!」

 説明すると、シアンとブランは「活躍はしても大活躍はしない!」と返してきた。

 どうしてか聞くと、主である僕を差し置いて大活躍するなんてそんな馬鹿なことは出来ない、ということだった。

 これはもう、なついてるんじゃなくてしもべになってるでしょ。僕のこと主って言っちゃってるもの。僕は友人くらいに思ってたのに……。

 それから暫く待って、9時十分前になるとハヤト達がログインしてきた。

「リュウさんって、待ち合わせの時、いつも早いですよね」
「相手を待たせるくらいなら自分が待ってた方が良いでしょ?」
「なにそれカッコいい」
「リュウさんは優しいですもんね!」
「でも、一時間前から待つのはどうかと思うわ。せめて30分前からにしたらどうかしら」
「相手が30分前に来る人だったらどうする?」
「それはそれで、すぐ会えるから良いんじゃないかしら」
「……それでも僕は一時間前から待つよ。待つのも楽しみの内だからね」
「まあ、自分が良いなら良いと思うわ」
「それより、早くイベントやりましょうよ! もうすぐ時間ですから」

 ハヤトがそう言うので、行くことにした。イベント用のステージがあるそうで、ハヤトが先導してそのイベント用のステージへ向かった。

 イベント用のステージは、岩場に囲まれた広い空間のような場所で、見ると岩場に一ヶ所洞窟があった。その岩場に囲まれた広い空間には、既に他のギルドの人達が集まっていた。

 とは言っても、マクロのギルド、クロスさんのギルド、ソーキさんのギルド、ヨシキのギルドと知っている人のギルドばかりで、知らないギルドは3つしかなかった。

「知ってる人ばっかだなぁ……もっと集まるものだと思ってたけど、少ないんだね」
「今このゲームをプレイしている人の8割は発売当初からプレイしてる人達ですから、マクロさん達がまたすぐ倒すと思って来ないんだと思います」
「ということは、あそことあそことあそこの3つのギルドは、マクロ達の事を知らないってこと?」
「または、知ってて余程の自信が有るかですね」
「なるほど」
「まあ今回は、マクロさん達ではなくリュウさんが早く倒しそうですけどね」
「いや、あまり目立ちたくないからシアンとブランに任せるよ」
「それはそれですぐ終わりそうですね」

 そんな話をしていると、急に音声が流れた。

《もうすぐイベントが始まるよ~! 皆、準備は良いかな~?》

「なにこの音声」
「軽めの話し方の方が緊張しなくて良いかなと思って」
「さすがに朝からあのテンションに付いていく人は居な……」
『うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
「超ノリノリッ!?」
「実はこの音声、前回の『ヤマタノオロチ』のイベントでも流したんです。そしたら思いの外ウケが良かったんです」
「ヘ、ヘェ~、ソウナンダ」

《じゃあ、今回のイベントの概要を説明するよ~! イベントがスタートしたら洞窟に入って雑魚モンスターを倒しながら最下層に居る『ヤマタノオロチ』を倒しに行ってくださ~い。途中に分かれ道が有るんだけど、それは一つのギルドが通ったら塞がれるので早い者順で~す。そして、一番早く倒した方には、なんと、なな、なんと!! 【オリハルコン】の防具一式が貰えちゃいま~す! 防具が貰えるように頑張ってね~!》

 そこで音声が終わった。本当に軽い喋りだった。それにしても、皆朝からなんであんなノリに付いていけるのかが分からない。僕は無理、絶対無理。そのノリには一生付いていけない自信がある……!

 そんなことを思っていると、空中にカウントダウンが表示された。

 カウントが10から0になるまで、ほぼ全員が声に出してカウントしていた。なにその一体感。カウントが終わったら競うんだから必要ないでしょ。

 そんなひねくれた事を思っていると、カウントが0になり全員が一斉に洞窟に入っていった。

「さあリュウさん、行きますよ!」
「あ、うん……」
「どうしたんですか? 早く行かないと一番になれませんよ?」
「なんか、テンション高い人達を見てたらテンション下がってやる気が出なくなった」
「なんですかその理論。取り敢えず、ちゃんと付いてきてくださいね」

 ハヤトにそう言われたので、一応付いていった。

 洞窟内は、何故か灯りが点いていて見易いは見易いけど、雰囲気が台無しな気がした。

 道中出てくるモンスターは、シアンにお願いして倒してもらい、僕達は比較的順調に進んでいった。

「というか、経験値入るんだね」
「だってこれ、イベントですから。プレイヤーに得になることを提供しないとイベントじゃないというのがうちの会社の考えですから。『ヤマタノオロチ』を倒したら【英雄の台地】で得られる経験値相当の経験値が貰えますし」
「大盤振る舞いじゃん」
「そうですよ。それがこのゲームの売りですから。それに、ギルドの誰かが倒せば、他のギルドメンバーにも同じ量の経験値が貰えるんです!」

 そうハヤトが自慢気に言った。

 それから暫く、出てくるモンスターを片っ端からシアンに倒してもらいながら進んでいると、音声が言っていた分かれ道に着いた。

 既に分かれ道は一つしか開いておらず、他のギルドは先へ進んだようだった。

「ちょっと、リュウさん! 一つしか開いてないじゃないですか!」
「大丈夫だよ。ほら、よく言うじゃん。残り物には福があるって」
「そんなんで大丈夫なはずないじゃないですか! これ絶対ビリですよ!?」
「いやいや、行ってみないと分からないよ?」
「そうだよ、行ってみようぜ!」
「そうね、なんかリュウさんは運が良さそうだし」
「私は、何時も何時でも、リュウさんの意見に賛成しますよ!」
「いやいや、さすがにそれはないでしょう。いくらリュウさんでも分かれ道でそんな奇跡が起こることは無いですって」

 ハヤトはそんなことを言った。そして分かれ道を、先程と同様に、出てくるモンスターをシアンに片っ端から倒してもらいながら進んだ。


 ◆◇◆◇◆


 そして、分かれ道を抜けるとそこには『ヤマタノオロチ』が鎮座していた。しかも、他のギルドの人達はまだ誰も居ないようだった。

 そんな光景を見たハヤトは、こう言った。

「そんなことは無かった……」

 たぶん、分かれ道に入る前の自分の言葉を否定したのだろう。フッフン、これぞ計画通り! と言っても、分かれ道の事を聞いたとき、選んで入るより残った道を行く方が楽だなぁと思って少し待ってみただけなんだけどね。

 それと、やる気が出なくなったっていうのも本当の話。だって、あんなに活気溢れた人達だと、自分のやる気が吸われる感じがするんだもの。

「ほらね。僕の言った通りだったでしょ?」
「そうですね。というか、リュウさん運良すぎです」
「シアンとブランをテイムしたリュウさんに運が無いって言う方が難しいだろ」
「そう言えばそうでしたね。忘れてました」

 アハハ、と苦笑いするハヤト。本当運が良かった。これでここに一番に到着出来てなかったら、ハヤトは必ず怒ったに違いない。

 そうこうしているうちに、一つのギルドが分かれ道を抜けてきてしまった。そのギルドは、トッププレイヤー様のギルドだった。

「よっしゃ一番……って、リュウ!? 俺達が洞窟に入ったときまだ外に居なかったか!?」
「あっ、トッププレイヤーのマクロ様。遅かったですね」
「なんだそれ、煽ってんのか!? それにしても、俺達の選んだ道、かなり入り汲んでたけどモンスターが出てこなかったから結構早く着いたと思ったんだけどなぁ……」
「僕らの道が、比較的短い道ではあるけど出てくるモンスターが多いっていう道だったんだけど、シアンが片っ端から倒してくれたからどうということは無かったかな」
「さいですか……」
「キュキュキュ……!」
「なんだお前、今、俺のこと馬鹿にしただろ!! 今のは俺にもわかったぞ!?」

 マクロの言う通りで、シアンはマクロに「それでもお前はトッププレイヤーか。そんなんだったら主の方が強いぞ」と煽り気味の言葉を、口を両手で押さえて笑いを堪えるようにしながら言った。

 相変わらずの演技力。本当にドラゴンなのか疑いたくなるくらい演技力が高い。

「シアン、そういうことを言うのは良くないから止めなさい」
「キュ~……」
「わかればよろしい」
「というか、そんなことをしている場合じゃないですよね!? すぐそこに『ヤマタノオロチ』居るんですから!」
「おっとそうだった。リュウ、今回も俺達が一番に倒すから見てろよ!」

 そう言ってマクロ達は『ヤマタノオロチ』の下へ行った。

「だって、どうする?」
「いや、もちろん戦いますよ!? なに呑気に聞いてるんですか! ほら、行きますよ!」

 ハヤトに怒られた。だからと言って、どうということはないけど、そんなに怒らなくても良いじゃないか。

 『ヤマタノオロチ』の下へ行くと、マクロ達が戦いを始めていた。シアンで『ヤマタノオロチ』を木っ端微塵にしようかと思ったけど、シアンばかりに戦わせるのもどうかと思ったので、止めておいた。

 ここは、ハヤト達には待っててもらって僕が出るか。経験値ギルドメンバーにも入るなら別に良いよね。

「ハヤト、僕が行ってくるから待っててくれないかな」
「えっ、良いんですか!?」
「マクロ達というか、マクロがもてはやされるのはちょっと気に入らないから」
「じゃあシアンとブラン預かっておくので、頑張ってください!」
「頼んだぞ、リュウさん! 【オリハルコン】の防具一式が掛かってるんだからな!」
「そこ、プレッシャー掛けない。リュウさん、気負わず頑張ってね」
「リュウさん、応援しますので頑張ってくださいね!」

 四人に応援された僕は、『ヤマタノオロチ』を倒すためマクロ達に倒される前に『ヤマタノオロチ』の下へ行くために全力で走った。

「あれ? リュウさんが消えた?」
「あっ、あそこ! もう『ヤマタノオロチ』の前に居る!」
「えっ? あっ、本当だ!」
「しかも、ブレス全部避けてない?」
「『ヤマタノオロチ』の防御が役に立ってない……だと……!?」
「ハヤト、それ悪役のセリフ」
「それはそうだよ! リュウさんだもん! あれくらいは朝飯前だよ!」
「はいはい、モモは少し落ち着いて。ずっと目がキラキラしっぱなしよ?」
「だってリュウさんが戦ってるんだよ!? しかも無傷で!! 戦ってる姿がカッコ良すぎるよ!」
「気持ちは分からなくもないけど、取り敢えず落ち着いて」

 僕が戦ってる間、そんな感じのやり取りが聞こえてきた。モモが半狂乱状態になってる様子だったのが心配になった。

 こっちはこっちで、僕が乱入するとマクロ達が色々叫んできた。

「おい、リュウ! 見てろって言っただろ!」
「お前が来たらすぐ終わっちゃうだろ!」
「だからお前はおとなしく観戦してろ!」
「リュウ君、お願いだ! 素直に観戦してて!」

 そんな叫びを僕は全て無視して『ヤマタノオロチ』の攻撃を避けつつ、近づいていった。

 ブレスは思ってた以上に広範囲で避けるのに苦労したけど、幸い無傷で全て避ける事が出来た。

 それに対して、『ヤマタノオロチ』の防御の電気は思ったより隙間が空いていたので、そこを縫っていくと『ヤマタノオロチ』の懐に入ることに成功した。

 そこからは単純な作業だった。取り敢えず斬っていればHPは減っていくので、全力で斬りつけた。

 ところが、さすがはイベントのボス。HPが中々減っていかない。と思ったら、そう言えば回復担当の首があるんだったということを思いだし、そっちを切り落としに行った。

 それから斬りつけると、先程よりも減りが速くなったので、再び全力で刀を振った。

 振り続けること数十秒、漸く『ヤマタノオロチ』のHPが0になり、『ヤマタノオロチ』は雄叫びをあげ、消滅エフェクトと共に消えた。

 倒して終えると、いつの間にか他のギルドもこの場所に居て、そして、周りの人達全員が走ってきて僕を胴上げし始めた。

 だから、なにこの一体感!? 知り合いだからか!? 知り合いだからなのか!?

 その後、知り合い全員から「やっぱお前は凄い!」的な内容の言葉を掛けられ、知らないギルドの人達には名前を聞かれ答えると、「ああ! 牛若丸か!」と久し振りに牛若丸と呼んでもらえた。

 そして、一番早く倒した報酬として【オリハルコン】の防具一式を受けとり、今日のイベントは終わった。

 これ、明日もやるとしたら僕は参加せず観戦するだけにしよう。防具一式2つも要らないし、目立つのはやっぱり性に合わない。

 それからは、全員【始まりの広場】へ転送されて解散となった。


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