腹下したせいで1人異世界転移に遅れてしまったんですが

けん玉マスター

30話 小宮&松山side 腹が減っては戦ができぬ

「グルル…」
由希の目の前には血に飢えたブラッドウルフの群れが牙をむき出しにしてこちらを眺めていた。
「…こんなの…どうしろってのよ…。」
「グル…」
「…お、お手…。ははは…なんてね…。」
「ガウッ!」
「…!」
由希は爪を振り下ろしてきたのを間一髪でかわした。
「…あ、危な…。」
「グルルルル…ガウ!」
「…魔結界!」
振り下ろした爪と結界が衝突する。
「…くっ!」
結界に弾かれ、ブラッドウルフは後ろに飛ぶ。
「…お、落ち着いて!私は別にあなた達になにかしようってわけじゃないのよ!」
「グルルルル…。」
くっ…通じるわけないか…。
そうだ…アイテムボックスの中に確か…。
由希はアイテムボックスの中から干し肉を取り出す。
餌付けが効くかどうかも謎だわ…。でも…一か八か…。
「…ほ、ほら!干し肉よ?」
「ガウ!」
ブラッドウルフの群れは一斉に飛びかかって来た。
「…やばっ!…くっ!」
由希は遠くに向かって干し肉を投げた。
ブラッドウルフな干し肉に一斉に飛びつく。
「…はあ…はあ…死ぬかと思った…。」
少ない干し肉を取り合うように食べている。
「…ってそれじゃ足りないか…。貴重な食料だけど…仕方ないわよね…。」
由希はアイテムボックスの中から残りの干し肉全てを取り出す。
「…ほら、まだまだ沢山あるわよ?」
ギンッ!
ブラッドウルフは一斉にこちらを向く。
「…お、落ち着いて…!そんなにがっつく子にはあげないわよ?」
「グルルルル!」
「…つ、通じるわけないかぁ…。」
シュン…
「…え?」
ブラッドウルフは7匹全て借りてきた猫のように大人しくその場におすわりした。
あれ?意外と物わかりがいいのね…。
「…じゃ、じゃあ一列に並んで?」
「ガウ…」
「グル…」
「…ワン!」
7匹は仲良く列を作り始めた。
先程までは警戒して耳を立てていたブラッドウルフだったが今はペタンとなっている。
か、可愛い…。ていうか1匹犬がいたような。
「…い、いい子達ね。はい、どうぞ。」
「ガウゥ…」
な、撫でても…大丈夫かな?
由希はそーっと頭に手を近づける。
フサ…
その瞬間、由希の頭から警戒という文字が消えた。
「…か、か、いや、きゃ!きゃわいい!!」
由希は興奮しながらブラッドウルフに飛びついた。
「ガ、ガウゥ?」
「…よーしよしよし…!沢山食べなさい!ふふふ…可愛いなぁ〜!」
「グル…?」
「…私は松山由希っていうの!よろしくね?」
「…ガウ?」
「…ワン!」
こうして私は何とかブラッドウルフの群れに混ざることが出来た。
…と思う。


ブラッドウルフとの生活1日目。
「…あなた達、ご飯はどうしてるの?」
「ガウ…。」
「…?」
てか話しかけても分かるわけないか…。
すると1匹のブラッドウルフが吠えた。
「アオーン!」
「…ど、どうしたの?」
するとその遠吠えに気付いた蝙蝠こうもりが一斉にに天井から飛び立った。
ブラッドウルフの群れはそれに飛びつく。
「…な、なるほど…。これが食事って訳ね。っていけない!私も食料確保しなきゃ!」
もちろんアイテムボックスの中に保存食などの食料はある。しかしこれは由希が強くなるために、由希自らが望んだ試練である。
…甘える訳には…いかない!
由希は飛んできた蝙蝠を剣で斬りつけた。
何とか2匹落とすことが出来た。
「…でもこれって魔物…だよね…。」
人間は魔物を食べることは出来ない。
考えたらかなり厳しい試練である。
「…どうしよう…。火…通せば大丈夫かなぁ?」
しかし万が一のために食べるのは危険だろう。
ぐうぅ〜…。
由希の腹からは可愛らしい音が鳴る。
考えたら…一昨日の夜から何も食べてないなぁ…。
由希の目の前ではブラッドウルフが美味しそうに蝙蝠を食べている。

…お腹…空いた…。

その後寝じろを変えたブラッドウルフについて行き、そこで一夜を過ごすことになった。
ぐうぅ…
だめ…耐えなきゃ…!
由希はブラッドウルフの毛並みに頭を置き、眠りについた。


ブラッドウルフとの生活2日目。
ブラッドウルフの朝は早かった。時間は分からないが、3時間程しか寝ていない。まず朝かすらも分からない。
ブラッドウルフの群れは移動を始めた。
その後はブラッドウルフは群れでミノタウロスを襲撃し、朝ごはんにした。
由希も身体強化魔法や、付与魔法で援護をした。
目の前には息絶えたミノタウロス。
「…やったわね!みんな!」
「ガウッ!」
「ワンワン!」
「…ふふふ…。ほら、早く食べないと駄目になっちゃうわよ?」
「クゥン…。」
1匹のブラッドウルフは肉を噛みちぎり、由希の元に運んできた。
「…私は食べられないのよ。ありがとう。気持ちだけ貰っておくわ。」
「クゥン…。」
「クゥン…。」
「…あなた達…。」
他のブラッドウルフも心配するように肉を運んできた。
「…だ、駄目なのよ…。分かって?ね?」
「クゥン…。」
しかしブラッドウルフの群れはつぶらな瞳で由希を見ている。
「…うっ…。」
確かにお腹がすいて死にそう。でも…魔物の肉は…人間には食べられない。
でも…。この子達は食べて欲しいみたいね…。
ぐうぅ…
「…っ…」
このままじゃ…もたない…。
「ワン…」
「クゥン…。」
今も尚ブラッドウルフは由希を心配そうな目で眺めている。
「…そうね。迷ってる暇なんてないわね…。」
「クゥン…」
「…いただくわ。」
「ガウッ!」
「ワン!」
「…ふぅ…。」
由希は一息つく。
そして。
もぐ…。
ミノタウロスの生肉にかぶりついた。
「…不味い…。…臭い…。」
とても食べれる味じゃないわね…。
しかし久しぶりの食事である。
不味いと分かりながら由希は全て平らげた。
「…あーあ…直感に身を任せてやっちゃったけど…大丈夫かしら?」
今のところ体に異常はない。それどころか、食べたことによって少し元気になった気がする。
ブラッドウルフの群れは再び歩き出した。
この日の寝床は小さな洞穴だった。
ブラッドウルフは皆、由希に身を寄せてくる。
ふふふ…かなり懐いたわね…。
私もそろそろ…!
突如体を激痛が襲った。
「…っ!…まさか…今になって…ぐうっ!」
「ガウッ?」
「ワンワン!」
「…だ、大丈夫…よ。落ち着いて…!…くっ!」
体が張り裂けるように痛い。
「…ぐっ!…うう…あ…」
ダメだ…落ちる…。
由希はそのまま意識を失った。


ペロ…
ん?
ペロペロ…
由希は顔に感じた違和感で目を覚ました。
顔を舐めていたのはブラッドウルフの群れだった。
「…あなた達…。ずっと見ててくれたの?」
「クゥン。」
「ガウ!」
「…ふふ…ありがとう。…っ…」
体中が痛い…。
何とか生き延びれたみたいね…。なんだったのかしら?あれは。
こうして3日目が幕を開けた。

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次は小宮様視点です。
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コメント

  • 水廼女神

    松山さん可愛いぃ

    4
  • 黒鉄やまと

    ユキは人間やめるのか

    2
  • 自称クズ

    魔物の力使えるようになってくのか?

    3
  • たくあん

    きゃわいいって言ってる由希さん、かわ……いや…きゃわいいぃぃぃぃぃ!!

    4
  • かつあん

    松山さん待ってました!すぐブラッドウルフ立ちと仲良くなれてよかったぁ〜。次回は小宮様編ということで楽しみにしてます!

    5
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