妄想妹との日常

木偶さん

俺の大好きな妹

 俺、九条榧斗には大好きで大好きで仕方ない人がいる。マイエンジェルこと俺の妹のリュカである。
 なんで兄が日本人名なのに妹が違うかって? 気にしたら負けってやつですわ。

 ちなみに俺の妹は10歳、今日3月20日が誕生日なのだ。学校の帰りにケーキを買って帰ろう。
 早く学校終わらねーかな......

「九条! この問題解いてみろ!」

 どうやらボーっとしていたのがバレたようだ。しかし、こんな問題俺にとっちゃ楽勝! 妹に勉強教えてあげるのに兄が馬鹿じゃダメだろう?

「3√6」

「......正解だ。じゃあ次の問題をーー」

 なんで間を開けたんだクソ野郎。間を開けて「くぅ......せいかい......」みたいに可愛くしていいのは俺の妹だ、け、だ!

 キーンコーンカーンコーン
 チャイムだ。まだ一時間目しか終わってないのかよ。早く帰りてぇーなー。

「榧斗、お前今日暇か?」

「今日はものすごく大事な用がある。なんてったって今日は俺の妹の誕生日なんだ。ケーキ買って祝うんだ。幸治と遊んでいる暇はない!」

 こいつは俺の友達の佐藤幸治。幼稚園からの腐れ縁ってやつだ。悪いやつじゃないし、喋ってても飽きない。たまにうざいと思うことはあるけど。

「つまり暇って意味じゃんか。カラオケでも行こうぜ?」

 こいつは頭悪いのか? 今用事あるって言っだろ。
 
 他のやつもそうだ。妹の用があるって言った時は「じゃあ暇じゃん」と言う。なんでだ。

「無理なもんは無理だ。俺の愛する妹が待っている」

「なあ、またの質問になるがお前大丈夫か? 主に頭とか頭とか頭とか......」

 頭悪いのはお前だろ、と思いながら次の授業の用意をする。幸治を無視して。

 残りの授業は楽だった。一時間目の数学教師が鬱陶しいだけなのかもしれないが。半分寝てても何も言われない。成績悪くないし。

「いらっしゃいませー」 

 俺は今ケーキ屋にいる。どれにしようか......去年はショートケーキだったから今年はチョコレートケーキにしようかな。

「ありがとうございましたー」

 店を出て急ぎ足になる。いつもの速さで家まで歩いて10分。1分でも早く帰りたい。そして可愛い可愛いマイエンジェルに会うんだ!

「ただいまー!」

「おかえりーおにーちゃん!」

「今日はリュカのためにケーキ買ってきたぞー。誕生日だからな」

「わー! おにーちゃん覚えててくれたんだ!」

「当然だろ?」

 
 普通は仲睦まじい兄妹に思える。しかしそうではない。リュカは榧斗の妄想の妹存在しない。榧斗も分かっている。リュカは存在しないと。でも思いたくない。今、この家には榧斗1人。父親も母親いない。

 ちょうど今日で366日。3月19日はリュカの誕生日の1日前ではなく両親の命日なのである。



榧斗(かやと)、幸治(ゆきはる)

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