雪が降る世界

lemon

第53話 〜与えるものと、受けるもの〜 時夏said

学校…。
何ヶ月ぶりだろう。前とは違う。なんてこと、分かってる。はずなのに。
やっぱりまだ怖い。璃久がいてくれてほんとによかった。…まではいい。
よくある事なのか、俺が来てからなのかわからないけど璃久と加衣君がめちゃくちゃしょうもないことで毒吐きあってる。
「物理くらいできるだろ。何が理系だ。」
「だってムズいじゃん!…時夏に教えてもらおうかなー。」
「はぁ?お前が近づいたら時夏が穢れるだろうが。」
「こまでも穢れるっての!」
「俺は血縁だから同じ。なんなら俺だって今くすんでるからな。お前のせいで。」
「俺をなんだと思ってんだ…!」
「変態。」
まぁいつも通りといえばそうだけど…。
璃久は七海君に呆れられるほど聞いてるような気もしなくもない。文系に限り。
理系で物理がわかんないから…?
ここの進度がどうかわかんないけど、わりと独学でやってたからついていけるとは思う。…何かあったら璃久もいるし七海君もいる。
東京って怖いイメージがあってまた虐められたりしたら…なんて思ってた。
なんだ、そうでもなさそうじゃん。
そう言い聞かせてるのに、なかなか不思議な気持ち。前の学校の奴らはどう思ってるんだろうな。…進級して1度も行ってないから変わんないか。
切り替えも大事。頑張ろ。

更衣室…更衣室…。あれ、ここどこだ?
校舎広すぎ。おかしいな。教室出て左行ったらあるって…。あっ、よかった、見つけた。
…ん?ちょっと待って、ここ…。

あぶねぇ、女子の方だった…。じゃあ男子はどこにいるんだ。璃久と一緒に行けばよかった。

なんとか着替えをすませ、時間ギリギリでグラウンドに出た。
「ま、間に合ったー…。」
「お。場所わかったんだ。」
「もう…規模違いすぎ…。」
「今体育バレーやってるよ。」
「そうなの?俺やったことない。」
「え、嘘。」
「中学生の時ちょうどバレーする時期に骨折しちゃって…。」
そんなこともあったなと、思い出しながら顔が苦くなる。


「あ、これ得意。」
「やば、そんな一発でアタック出来るもん?」
「ぶちギレた時の布団叩き感覚。」
「え、時夏キレるんだ…。」
「いや布団可哀想。」
いつだったかな…。キレたのは覚えてるけど何にかはほとんど覚えてない。それほど重要じゃなかったのか。子どもらしくて笑える。
「でも…俺はアタック?よりレシーブの方がいいかもしれない。」
「そんなに威力あんのに?」
「目立つの嫌…。派手過ぎ。アタック。」
「誰もいじめないから…。」
「それはわかんないじゃん。」
「俺がもう十分目立ってる。心配すんな。」
そうは言ってもさ…。璃久はいい目立ち方してる。俺が見る範囲では…。
「璃久が目立ってるなんてこと向こうにいた時から知ってる。」
「そっか。ならなおさらじゃん?特進組はみんな勉強以外興味ねぇし。」
「二人とも可愛い〜。あースマホ欲しい写真撮りたい。」
「それただのストーカー。キモいからやめて時夏が怖がるだろうが。」
「いや…俺はもう加衣君には慣れたけど。」
「慣れるんじゃない…!つき飛ばせ。」
「こまひどい!!」
「黙れ変態。」


まず学校の感覚を取り戻すのに時間かかりそう。その次が加衣君で…。あとめちゃくちゃ心配なのは今の時期。
…修学旅行でいろんな県の人が東京に来る。俺の前の学校の旅行先も、ここだったはず…。家が駅に近いこともあって不安で仕方ない。良くも悪くも俺と璃久は目立つ。しかも学校帰りは七海君までいる。…変装なしスタイルで気づかない人いない。退院とこっちに来るタイミング被らないといいけど。
「ほんとに人多いな…。」
さすがに璃久は黒髪のウィッグをつけてる。…なぜか俺も茶色のやつを。
それでも気づく人は少なくない。
別にいいんだよ?ファンだしね。…でも会いたくない。
「自由時間とかに駅回る人もいるだろうから気をつけてよ…。」
「時夏もな。あれ、同じ学校のやつだろ?」
「えっ…!やだやだどっか隠れたい…!」
「へたに動かない方がいい。…気づかれたな、俺が。」
「やめてよそんな冗談…。今黒髪じゃんか。」
「いや…騒がれてる。田舎っぽい。」


「あれー、後原じゃね?」
「あっ、ほんとだ、似てる!」
今だけ低身長になりたい…!あいつら知ってる、ほんと嫌い…!
「え、じゃあ隣って駒井璃久?」

「どどど、ど、どうしよ璃久、バレた無理足動かない…。」
「落ち着け。こっち来たら適当にあしらえばいいから。」

「なーんだ、こんな所に逃げてたんだ?」
「べ、別に…逃げてなんか…。」
あ…声が…掠れてる…。
「悪いけど俺ら仕事で忙しいから。馬鹿の茶番はその辺にしといてよね。」
俺は仕事してないけどこの際璃久に丸投げしよう…。駄目だ、ほんとに駄目だ。
「おぉー!璃久が喋った!」
「行こうか。時間もない。」
「うん…。ごめん、お茶持ってる?」
「はい。大丈夫か?次あった時また声出なくなったら加衣も七海も春瀬も絶大なショック受けてみんな声出なくなるからさ。」
そんなことある…?

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