第47話 ～ほっこり～

「ドイツ…ドイツ…なくねぇ？どこにあんだ？」
街の本屋さん。高校受験のときによく世話になった。
もうそろそろ祖国の勉強しとこうかと思ってさ。七海に聞くのが一番だがこれは内緒にするつもり。柄でもないし。
しかしなかなか見つけられない。ドイツ語？とか。若干記憶にあるんだがそれがどういう意味か…。とりあえずさっきから見えてるのはイタリアとフランスあたり。別にそこでもいいんだけど。七海って見かけによらず結構肉好きだもんなぁ。
「あっ、棚違う…！こっちか。」
ようやく目的の本にありついた。これで帰れる。まぁその前に病院には行くが…。



「七海ー、また悪くなったか。」
「またってなんだよ。仕方ねぇだろ。で？何か用？」
「次のロケ、フィンランドだって。」
「鬼かよ。俺も行くのか？」
「仕事仕事。大丈夫、俺らただのゲストだから。危ないやつは俺がやるからさ。」
「ゲストって危ないのするもんか？
だとしても内容による。」
「オーロラ。」
「…。」
やっぱ見たいよなー。雪見て喜んでんだから。
「じゃあ、スケジュールは俺が調整しとくから。それだけ、ちゃんと寝てろよ。」
「…分かった。」
まぁ七海のことだ。身の危険くらい分かるだろ。


「マネージャーさーん、大丈夫っぽいですよー。」
「よかったー！じゃあもう1つあるんだけど、それはどう？」
…。
「えーと…どうでしょう…。何ですか？」
「ほら、毎年あるじゃん。夏の怖いやつ。七海君が無理そうだったら君ひとりに…。」
誰だよオファーしたの…！しかもなんで受けたんだよ…！俺怖いの駄目だって。七海も心臓に悪いし。…あいつの分は心臓関係ないか。電話…。まとめて伝えてくれれば良かったのに。
「なぁ七海、心霊巡礼的なのがあるらしくてさ。お前来れなかったら俺ともう1人子役が行くのな？ここまで言えば分かってくれる？」
「へぇ…。俺の遺影ぐらいなら貸してやるが…。」
「お願い怖いから来て。」
「分かった分かった。もう1人って誰？」
「だから子役だっつの…。あぁ名前？」
「当たり前だろ。」
…。
「知らねーな。」


進級して浮かれてる間にピンチはやってくる。まぁ俺理系だから去年ほど記憶ゲーの科目はないが…。生物が消えてくれなかったんだよなぁ。これやってると医者ってほんとすげぇよ。
そうは言っても先のためにはやらなきゃいけない。
「こまー部活行こー。」
「あぁ…。余裕じゃん。」
「だって俺生物得意だし？」
「嫌味…。でも俺のが成績いくない？結果的に。」
「黙れチビ！」
「なっ、チビは言い過ぎだろうが！これでも170…！」
「十分小さいですー！」
「頭弱いよりはマシ！」



「七海いないと退屈すんなー。誰もつっこんでくれねぇ。」
あぁそうだった。俺も春瀬も基本スルーしてるから…。進んでボケやるのも気がひけるとは思うんだけど。
「黙って弓つがえとけ。」
「酷くね…？こまだって枕なくなって最近昼寝してないだろ。」
「七海いるからって毎日は寝てないから。」
「そんなに寝心地良かったの？」
ちょうど着替え終わったのか、タイミングよく話に春瀬が入って来た。あいつ同じクラスだよな？
「七海って意外にあったかくて俺の中ではお気に入り。」
「え…。こまは…女の子…？」
「ねぇなんでそうなんだよ。1回寝てみな？まじで凄いから。」
「じゃあお願いしとこー。」


────

「やっと回復したと思ったら…。これはどういうことだ加衣。」
「ほんとだ…。すっげぇ気持ちいい…。」
部室に行ったらホントに寝てた。俺も寝たい…。
七海は一応部活に顔は出すが活動自体は止められてる。そんなこんなでこのザマだよ。可哀想…。言わなきゃ良かったわ…。
「加衣、どいて。」
「んー？ちょっと無理かなー。」
「お前重いんだから七海への負担が大きいでしょ。」
しぶしぶ起き上がり大あくびをした。なんつー間抜け顔。バカ丸出し。
「久しぶりに俺も寝たい。いい？」
「うわぁ…そこで美人出すのは反則だねぇ。いいよ。」
やった、勝った。特にどうこうしたつもりはねぇよ？
「ちょ、七海！なんでそんな快諾してんの？！」
「えー、だって美人だから。」
「俺がブサイクみたいじゃん！」
「？違うのか？」
その時部屋にいた部員全員が、言うまでもなく吹き出した。七海は加衣がブスだと思っていたらしい。しかもサラっと言うからそこもツボだよ…。どんまい加衣。
「七海ひどい…。」
「？普通の人はこまと比べたらそうでもないと思うんだが…。」
「お願いだからこまと比べんな…。悲しくなるだろ。」
「まぁ俺外国人だしアルビノだしね。」
「別に、膝はこまが使ってるから肩くらい貸してやるよ。」
「やったーー！！」
「えっ、ふたりともずるい！俺も！」
「お、おい待て、3人は無理が…。」


「暑…。」
俺の頭の上で七海は小さく呟いた。