ドキッ!となる瞬間って?

レモン

交換

「な〜、晴海〜」
「何よ、賢二郎」
 いつも通り、少し早めの朝。時間は7時半であり、八時半に着席のこの学校からすれば早いほうである。
「ノート見してくれや~。前回の授業寝てて全然書いていなかったんだよ~」
「はぁ~、何の教科なの?」
「数学!」
「はいはい。少し待ってね~」
 晴海が「数学。数学~」と言いながらカバンの中身を漁る。
「う~ん、もしかしたらロッカーかも。ちょっと取ってくるね~」
「おう~。いってら~」

     ※    ※    ※

「···よしっ!」
 誰も居ないロッカールームで、私は一人気合いを込める。
「えっと···賢二郎···これ!」
 そう言ってピンクの可愛らしい封のされた手紙。世間一般で言うとラブレターだ。そのラブレターを空気に向かって突き出す。
「うーん、これじゃないよね~。もうちょっとこ~。驚かせたいな~」
 一人悶々としていた私は、もう一度。今度は片手で少しだらしなく持ってみて、
「ほら、お前宛に手紙だぞ」
 と、言ってみて自分で爆死する。
「違う! これもなんか違う!!」
 じたばたと地団駄を踏む。
「そうだ! 下駄箱に入れれば···って駄目だ~。うちの学校ドアが付いてないから外からバレバレだ~」
 うなだれていると、目の前の教科書に目が入る。
「これだ···! これしかない!! よう~っしやるぞ~!」
 そう、気合いを入れ直すのだった。

     ※    ※    ※

「ん? どうしたんだ? 晴海」
「い、いや? 何でも無いよ~」
「?」
 ロッカーから帰ってきた晴海はの顔は少し赤かった。ロッカーってそんなに暑かったのかな?
「そ、それよりも···! ほら! ノート!」
「え? あ、おう。ありがとう」
「まぁ、いつものことだしね。そろそろ真面目に授業受けなさいよね~」
「そこで、また頼みたいことが!」
「···まさか、また教科書を貸してくれって言うんじゃ無いわよね?」
「すげえ! 当たってる!」
「当たってる! って言ってるんじゃないわよ。まったく···」
 呆れながらも手に持っていた教科書をとりだして、俺に渡してくれる。
「全く、違うクラスじゃなくなったら、こういうこともできないんだからね~」
「いいじゃん。いいじゃん。今は一緒のクラスじゃ無いんだし」
「はぁ~···」
 そんなやり取りをしていると、学校のチャイムが校舎内で響く。
「ありゃ? もうこんな時間か···。じゃあな~」
 いつの間にか晴海と同じクラスの生徒がちらほら増えてきた。
「ん。また次の休み時間にね」
「(ん? 晴海のやつ。また借りに来るかと思っているのか? そりゃ、また心外だ)」
 こうして、HRも終わって一時間目の始まり。数学の教科書を開くと、ハラリ···と紙、ではなく可愛らしい手紙が落ちた。
「何だ? こりゃ?」
 取り敢えず、拾ってみる。
「多分、あいつのだろ? なら中身は見ない方がいい···ん?」
 ふいに裏を見てしまい、そこで宛先が俺であることに気付く。
「???」
 訳も分からず、その場で考え込んでしまう。
「(あいつの教科書から、何で俺宛の手紙がくるんだ?)」
 悩んでいると、数学担当の教師に、
「よし。この問題、賢二郎。解いてみろ」
「う~ん、やっぱりラブレター···だよな~」
「賢二郎。どうして二時間数の式の答えがラブレターになるんだ?」
「···へ?」
「賢二郎? お前、何ボーッとしてる?」
「あ! えっと···。すいませんでした!」
「えー、じゃあ、このページを···」
 教師が別の方向を向き始めた直後に、手紙とにらめっこ状態になる。
「見るか」「見ないか」の葛藤が始まった。

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