Love is seasoning~調味料系女子~

ノベルバユーザー208187


『恋をするとね、色んな味があるのよ。』

5歳の私に母が昔話をしてくれた。

『一緒にいるとあまーい気持ちになって、
一緒に手を繋いで映画を観に行ったり。』

食べ終わった白い平らのお皿をふわふわの泡で包みながら母は、ゆっくりと物腰柔らかそうに話す。

『喧嘩したら、凄くからいもので気持ちを発散させたり。でも、その後しょっぱい気持ちになって、いっぱい泣いたりもしたの。』

手を止めて、『そんな事もあったのよね。』と少し視線を落として、語り続けた。

『お父さんからプロポーズを受けるまで1ヶ月かかった時は、もー待ちきれなくて…!
酸っぱいものが欲しくなったりしたわ。』

ふふっ、と肩をすくめて泡を流す仕草は、思出話が終わるようでもあった。


甘い。からい。酸っぱい。
5歳の私には、まだ知らない『味』だった。






甘い。と言えば和菓子や洋菓子が思い付く。

チョコレートは甘いのから苦いのまで。
ホイップクリームはなんにでも合う。
カスタードクリームは何度食べても変わらない味で、子供からお年寄りにまで好かれる。

でも、一番甘いのはお砂糖。
何も着飾ってなくて、そのままの姿。
逆を言えば、なにとでも合う。

変幻自在なお砂糖が一番甘い。
お母さんが言ってた甘い、というのは…
砂糖のような甘さなんだろうか?




辛いもの。
唐辛子、山椒、わさびのような舌がピリピリと痛くなったり、食べると汗が止まらなくなる。たまに汗が目に入ると涙が出てしまう。

カレーも甘口、中辛、辛口とあるけど、お母さんが言っていた辛さはきっと違うんだろうな。辛いのも好きだけど、誰かと居て辛いものを食べたくなる、なんて今までなった事がない。きっと、まだ知らない辛さだ。




しょっぱい味。
塩。醤油。海水。
夏になると塩分補給する為の飲料水や飴がお店に並ぶ。興味本意で食べたことある。
少しクセになるような味で、夏が近付くとこの味を求めて一袋買ってしまう。

日本人が好きな醤油。
醤油ラーメンや、醤油ベースの炒め物は日常茶飯事で食卓に並ぶ定番の1品。
友人は醤油に砂糖を溶かしたものにお餅をつけて食べたりしていた。(美味であった!)

けど、お母さんが感じたしょっぱい気持ちって、どんなものなのだろう?




酸っぱいもの。
梅干。お酢。レモン。クエン酸。
よく妊婦さんが酸っぱいものが欲しくなる、と本やテレビで見るけど、実際のところは経験してみないとわからないのが本音。

お母さんがお父さんからのプロポーズが遅くて、イライラしていて酸っぱいものが欲しくなった、という話は甘い・辛い・しょっぱい・どの味覚よりも理解が出来ない。

一番味わってみたいものかもしれない…。





お母さんはお父さんと出会ってから
色んな味を知ったと言っていた。

明日からは高校2年生になる。
まだ好きな人さえいたことのない私。

お母さんみたいな恋をしてみたい。
そして、色んな味を知りたい。

砂見 華子、16歳。
恋という味すら、未だ知らず…。

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