人殺しなのに飼われるだなんてありえない!

小豆しおん

第1話

「はぁ…はぁ…っ」
僕は、瀕死の怪我を負いながら森を彷徨っていた。
「くそっ…油断した…」
ターゲットは完全に1人だと思い込んでいた。まさかあそこで仲間が待っていたとは…。
撃たれた脚を引きずり、あの時肩をかすめた銃弾を恨みながら、ただ進んだ。

僕は、ヒットマンだ。自分で言うのもなんだが、腕は良い方である。ターゲットを殺し、報酬を得る。物心ついたときからずっと、そうやって生きてきた。それなのに、
「このザマか…ハッ、救われないね…」
脚が止まる。限界だとその場に倒れ込む。心地良い風が頬を撫ぜる。
「このまま…死ぬのかな…」
視界がぐにゃぐにゃと歪み始める。鼓動がうるさく響く。
会いたい人がいるわけでもない。何をしたかった訳でもない。このまま死んでしまってもまぁ、構わないか…そう思った時だった。
「!!」
足音がする。獣ではなさそうだ。
「(まさか…追ってきたのか…?)」
身を隠そうにも、身体に力が入らない。
「(くそっ…殺されるなんてカッコ悪いな…)」
近づいてくる足音に、僕は覚悟を決めた。
「……………」
光る金糸のような瞳。褐色の肌。そして…
「人狼…!?」
頭上に生えた耳は、狼のものとよく似ている。

人狼。人の様な容姿に、狼の耳を持つ。人の血を好み、性格は残虐非道。人間以上の力を持ち、たった1人の人狼により都市が壊滅した例も過去にある。

「…………なんだ、死にかけか」
人狼が口を開く。その声は低く、ゾワリと響く。
「随分不味そうだな、お前」
「……美味い不味いは分からないけど、脂肪はないと思うよ」
人狼が少し目を見開く。
「お前、俺が怖くねぇのかよ」
「怖い?僕に怖いものなんてないよ。こうして死を迎えることだって、恐怖なんてない。ただ僕は、受け入れるだけだよ」
実際の所、人狼に恐怖を覚えなかった。何にしろ、このまま僕は死んでいく。その事実を認識した時、怖いという感情が失われていったのかもしれない。
「お前、なかなか面白いな」
人狼がくつくつと喉を鳴らす。笑うことも出来るのか、本当に人間の様だ。
「何でもいいけど、食べるなら僕が死んでからにしてくれないか?死ぬことを受け入れてはいるけど、痛いのは勘弁してほしい」
「あー…死人の肉は不味いんだよな…」
「元々不味そうなものが更に不味そうになるのか…もう食べるのを諦めたら?」
この森林の肥やしになることを決めて、僕は目を瞑る。人狼が僕を死んだ後に食べることに合意してもらえれば良いのだが…。


「お前のこと、飼ってやるよ」

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