《異世界魔法図書館へようこそ!》

とりりんご

11…異世界魔法図書館へようこそ!

今日は、やっと木曜日。

ただでさえ、嫌がらせが始まってからは1日1日が長く感じるのに、最近は出来事が濃厚すぎて時間感覚さえ正常か怪しい。

昨日家に帰ってから、もう1度あの本を開いた。

ぐちゃぐちゃと意味のわからない文字列が2、3行、もう1ページのほうにもさらっと書いてある。

たしか、1つ目の方が形式文。
2つ目の方が、指定文、合わせて命令文。

本を眺めながら、指をしゅっとこすってみる。

またあの包まれるような感触があった。

ここで疑問に感じたのが、この周りを欺く[二重の魔法]の持続性についてだ。

もしも、これが1時間くらいしか持たないのだとしたら、もう僕は終わりだ。

なにせ、家に帰ってから初めてもう1度やったのだから。

そのあたり、レイは何も言わなかった。


登校すると、また靴の中になにかー。

入っていない。

なにも…なにもない。

いつものように、かえの上履きを持ってきているのに、今日はそれを使わなくていい!

無意識にまわりを見渡してしまう。


誰が見ているというわけでもなく、みんなそれぞれ靴を履き替えたり、傘の水を切ったりしている。

今日は、どしゃぶりの雨だったが、
僕の心は朝から日本晴れだった。

朝のホームルームが始まった。

先生が言う、国語の先生で、おばちゃんだ。

「はい、おはようございますー。みなさんも気になっているかなとは思いますが、先日の大きな音について、警察の方から連絡が入ったので伝えます。現在操作を続けていますが、特に有力な情報は無いとのことです。近隣住民によると、みなさん上空から聞こえたとのことだったので、気象現象も視野に入れているそうです。
特に気にすることはないとの事なので、みなさんは普段通り生活して構わないそうです。」

「そんなにやばいの?」
「調べるほどに?」
「すっかり忘れてたんだけど」

周りから口々に聞こえてくるが、僕たちにとっては忘れようにも忘れられない。

あの音が、僕たちの抵抗心を消し去ったと言っても過言ではないだろう。



午前の授業を受け終わり、図書館へと歩いた。

もちろん、手に『逃亡』を持って。

中に入ると、

「あれ?3人?」

利岡君と、川崎さんしかいない。

「あ、えっと…神山君?」


「神山です。今日少ないね。」

利岡君が口を挟んだ。

「え、神山君、本読んでない?」

「え??」

そういえば、昨日開いたきり、今日はまだ見ていなかったな。

中を開くと、こんなことが書かれていた。

【本に触れてさえ入れば、どこにいようと構わない。 レイ】

自分で、レイって言ってる。

やっぱり気に入ったのかな。

「あ、覚えてるかわからないから一応。俺の名前、利岡 広。テニス部。よろしくね。」

「覚えてる、神山 輝樹。よろしく。」

「ヒロって呼んでよ。」

2人は、別にこなくてもいいけど、会えればと思って来たらしい。

そんなやりとりの後、川崎さんが

「ねえ、そろそろ本、さわっとこ?」

と言うので本に触れると、すぐに大広間へと飛ばされた。


強い光に、まだ目がチカチカする。

「全員いるな。」

目の前には、レイやみんなが立っていた。

「全員いるな。まあだいたい、チャイムの5分後くらいになると転送するから、それに合わせて本に触れてくれればいい。」

「おい、あの爆音。なんかひどく調べられてるぞ。」

氷川がレイに言った。

昨日のレンガ運びのせいだろうか、少し疲れているように見える。

レイが答える。

「そりゃそうだろう。あんな大きな音がなにもないところから鳴れば、専門の者は興味を持つだろうし、あちこちに観測機もあるんだ。だからこそ、やる価値もあった。科学では説明のできない、魔法のなせる技なんだとね。」

「わかった。ところで、今日はなにを?」

「せっかちだな。」

レイが黙って歩き出したので、みんなでなんとなく後をついていった。

「そうだ、レイちゃん。」

川崎さんが声をかけた。

「昨日の魔法って、解けちゃったりしないの?」

みんなそれを気にしていたのかもしれない。

それぞれに、うんうんと頷いている。

レイが前を向いたまま話した。

「心配することはない。君たちの昨日行使した
[二重の魔法]は、君たちを電池として効果を持続させるようにしてある。そういう魔法を、
同時にかけた。」

レイが昨日そういうそぶりを見せたのは、それだったのか。

あの、指をこすり合せる独特な動きを、確かにしていた。

みんながホッとした顔をした。

「さあ、ここだ。」

レイが壁の前で足を止めた。

よく見ると、ここだけすこし作りが違う。

レイがその壁に触れると、壁がサラサラと宙を舞うホコリへと変わった。

「すげぇ…」

ヒロが、つぶやいている。

レイが言った。


「異世界魔法図書館へようこそ!」


目の前には、どこまで続くかわからないほどの本棚が、ズラリと並んでいた。


コメント

  • 久留米天狗

    操作?捜査?どっちだろう?

    0
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