《異世界魔法図書館へようこそ!》
9…[二重の魔法] 後編
人間の集団を2つに分け、それぞれに違った世界を見せる魔法。
[二重の魔法]。
どうやらそれは、あちらの世界で、僕たちが魔法を使えるということに気づかせないためのものらしい。
「本を開け、もう出ている。」
レイが言う。
何のことだろうと思って開くと、意味のわからない文字列が2、3行書かれていた。
「それは、[二重の魔法]の形式文、指定文は次のページに出ているはずだ。」
レイの言う通りに次のページも見てみると、
こちらには、同じような文字が1行書かれている。
「これ、呪文?」
今村さんが聞く。
「読めないぞこんなの。」
氷川の言う通りだ、こんなもの読めるわけがない。
レイが、あきれたように言った。
「君たちは…魔法を使うときにいちいち呪文を唱えるつもりだったのか?この命令文はまだ短い方で、長いものになるとページをまたぐ。そんなもの、毎度唱える方がどうかしてる。」
氷川が聞き返した。
「と、言うと?」
「魔法はおもに、おおまかな特性を決定する形式文、その他の威力や範囲を決定する指定文に別れ、合わせて命令文とされる。また今度にでも説明するが、はっきり言って指定文はそこまで厳密さを求められない。英語の文法と似ているが、その利用は極めて単純で、今言った順番に並べてしまうだけで構わない。」
「え、口に出さなくていいの?」
「必要ない。頭の中で、この文字列を思い浮かべれば良い。覚えられなければ、見ながらでも効果は変わらない。どちらかと言えば、君たちの想像力によって魔法の良し悪しが決まるだろう。」
想像力、か。
レイが一通り説明を終えると、皆に、こう尋ねた。
「この中で、金属アレルギーのやつはいるか。」
誰も答えない。
「全員、私のところへ来て手を出せ。」
みんなが手を出すと、レイは一人一人の手の上にキラキラ光るビーズのようなものを置いた。
キラッと光ったので、金属らしい。
その時。
手のひらから全身にかけて壮絶な痛みが走った。
何人かはふらつき、川崎さんは膝から崩れ落ちてしまった。
誰も痛いとも何とも言わないのは、あまりの痛みに声さえ出なかったからだ。
「落ち着け、じきにおさまる。」
レイは平然としているが、当の僕らはまだ冷や汗をかいている。
手のひらの上のビーズが消え、
痛みもだいぶ引いた時、レイがこう言った。
「さっきの命令文をイメージしながら、または見ながらでも良い。指と指の腹を合わせてを軽くこすれ、しゅっと。」
みんなが本を開き出したので、僕も見ながらすることにした。
さすがに、あれをイメージするというのは、出来そうにない。
指をこすり合せると、手がじわっと熱くなった感じがして、その後に何かが自分の周りをふわっと包んだような心地がした。
今村さんは勢い余ったのか、パチン!と良い音を出した。
僕と同じようなことになっているのだろう。
みんな口々に、おおーとか、すげぇとか言っている。
そして、レイも指をぴっと弾いた。
なにか、したのだろうか。
そして、みんなに向かってこう言った。
「今日の講義を終わる。これで君たちが、やつらにそう簡単に気づかれることもないだろう。」
「え、ねえ。その、やつらって何なの?」
今村さんが聞いたが、レイは聞こえないふりをして続けた。
「君たちを、あちらの世界へと返す。」
そう聞こえた瞬間、観覧車の時計が動き始め、
部屋全体がぱっと光に包まれた。
気づくと僕は、教室で黒板を消していた。
びっくりして黒板消しを落とし、白い粉がブワッと舞う。
「うっわ!」
後ろから声がする。
「汚ねぇな、何落としてんだよ!」
ぼーっとしながら振り返ると、宙を舞うチョークの粉の奥に、7組の廊下でホウキをじっと見つめる中村さんが目に入った。
そして、目が合う。
中村さんが、指で空中に四角を描いてから、何かを探すそぶりを見せた。
あ!
あの本が、『逃亡』が、ない。
[二重の魔法]。
どうやらそれは、あちらの世界で、僕たちが魔法を使えるということに気づかせないためのものらしい。
「本を開け、もう出ている。」
レイが言う。
何のことだろうと思って開くと、意味のわからない文字列が2、3行書かれていた。
「それは、[二重の魔法]の形式文、指定文は次のページに出ているはずだ。」
レイの言う通りに次のページも見てみると、
こちらには、同じような文字が1行書かれている。
「これ、呪文?」
今村さんが聞く。
「読めないぞこんなの。」
氷川の言う通りだ、こんなもの読めるわけがない。
レイが、あきれたように言った。
「君たちは…魔法を使うときにいちいち呪文を唱えるつもりだったのか?この命令文はまだ短い方で、長いものになるとページをまたぐ。そんなもの、毎度唱える方がどうかしてる。」
氷川が聞き返した。
「と、言うと?」
「魔法はおもに、おおまかな特性を決定する形式文、その他の威力や範囲を決定する指定文に別れ、合わせて命令文とされる。また今度にでも説明するが、はっきり言って指定文はそこまで厳密さを求められない。英語の文法と似ているが、その利用は極めて単純で、今言った順番に並べてしまうだけで構わない。」
「え、口に出さなくていいの?」
「必要ない。頭の中で、この文字列を思い浮かべれば良い。覚えられなければ、見ながらでも効果は変わらない。どちらかと言えば、君たちの想像力によって魔法の良し悪しが決まるだろう。」
想像力、か。
レイが一通り説明を終えると、皆に、こう尋ねた。
「この中で、金属アレルギーのやつはいるか。」
誰も答えない。
「全員、私のところへ来て手を出せ。」
みんなが手を出すと、レイは一人一人の手の上にキラキラ光るビーズのようなものを置いた。
キラッと光ったので、金属らしい。
その時。
手のひらから全身にかけて壮絶な痛みが走った。
何人かはふらつき、川崎さんは膝から崩れ落ちてしまった。
誰も痛いとも何とも言わないのは、あまりの痛みに声さえ出なかったからだ。
「落ち着け、じきにおさまる。」
レイは平然としているが、当の僕らはまだ冷や汗をかいている。
手のひらの上のビーズが消え、
痛みもだいぶ引いた時、レイがこう言った。
「さっきの命令文をイメージしながら、または見ながらでも良い。指と指の腹を合わせてを軽くこすれ、しゅっと。」
みんなが本を開き出したので、僕も見ながらすることにした。
さすがに、あれをイメージするというのは、出来そうにない。
指をこすり合せると、手がじわっと熱くなった感じがして、その後に何かが自分の周りをふわっと包んだような心地がした。
今村さんは勢い余ったのか、パチン!と良い音を出した。
僕と同じようなことになっているのだろう。
みんな口々に、おおーとか、すげぇとか言っている。
そして、レイも指をぴっと弾いた。
なにか、したのだろうか。
そして、みんなに向かってこう言った。
「今日の講義を終わる。これで君たちが、やつらにそう簡単に気づかれることもないだろう。」
「え、ねえ。その、やつらって何なの?」
今村さんが聞いたが、レイは聞こえないふりをして続けた。
「君たちを、あちらの世界へと返す。」
そう聞こえた瞬間、観覧車の時計が動き始め、
部屋全体がぱっと光に包まれた。
気づくと僕は、教室で黒板を消していた。
びっくりして黒板消しを落とし、白い粉がブワッと舞う。
「うっわ!」
後ろから声がする。
「汚ねぇな、何落としてんだよ!」
ぼーっとしながら振り返ると、宙を舞うチョークの粉の奥に、7組の廊下でホウキをじっと見つめる中村さんが目に入った。
そして、目が合う。
中村さんが、指で空中に四角を描いてから、何かを探すそぶりを見せた。
あ!
あの本が、『逃亡』が、ない。
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