野生でもお嬢様は育ちますか?
これからと反省
暫く泣き続けた私たちでしたが、漸く落ち着いたので椅子に座りなおして今後の事について話し合います。タルフェさんが冷めてしまったどんぐり茶を入れ直してくれました。
「ゴ、ゴホン!で、では露子の今後について話そうと思う」
そう切り出すタルフェさんの顔は真っ赤で、私とチルちゃんがクスクスと笑っていると、困った様に頬を掻きます。その姿は、とても可愛らしいと思ってしまいました。
「まず、これから露子は……」
「ハイ!ハイハイハーイ!」
チルちゃんが元気よく手を上げて、タルフェさんの話を遮ります。
「なんじゃ!まったく、人が話しているというのに!」
「ママ!何か忘れてない?」
「はて?何か忘れておったか?」
「あぁん!もう!ママ!コレだよ、こ・れ!」
全然ピンときていないタルフェさんに、痺れを切らしたチルちゃんが自分の右眼を指差しました。
「眼帯……おお!そうじゃった!露子に渡す物があったんじゃ!ちょいと待っておれ!」
「やっと思い出したの……」
タルフェさんは、何かを呟いた後に急に大声を出し何処かへ行ってしまい、その姿を呆れた様にチルちゃんが見送っています。
「私になにか頂けるのでしょうか?」
「えへへ、ママが戻ってきたら分かるよ!」
一体何をくれるんでしょう?
チルちゃんに聞いても「内緒~!貰ってからのお楽しみ!」と言って教えてくれませんし、大人しく待つしかありません。暫くするとタルフェさんが手に何かを持って戻ってきました。
「待たせたな!ワタシ達二人から露子に贈り物じゃ!受け取ってくれ」
そう言ってタルフェさんが、狼のレリーフが付いた黒い眼帯を私の手に握らせてくれました。
「わぁ!すごく綺麗です。これを私に?いいのですか?」
「ははは、いいも何も露子の為に作ったものじゃからな!」
「みてみて~お姉ちゃん!これね、チルとお揃いなの~!」
「まぁ!本当です。うふふ、お揃いですね!」
「よし、露子よ!着けてやるから、それを貸してみるのじゃ。」
「はい。お願いします!」
タルフェさんが私の後ろへ周り、失くなってしまった左目にそっと眼帯を着けてくれました。
「わぁ!お姉ちゃんすごく似合ってる!」
「ふむ、悪くないな!」
「そうですか?でも、自分では見ることが出来ませんので似合っているかどうか……」
二人が諸手を挙げて褒めてくれるので自分の姿を見てみたいというと、タルフェさんが手鏡を貸してくれました。
「かなり昔に人間の町から分捕ってきたものじゃ!それを使って見てみい」
分捕ってきたって……それじゃまるで泥棒さんみたいじゃないですか
私が苦笑いをしながら鏡を覗くと、そこには幼少期の頃と何ら変わらぬ姿の自分が映っていました。黒い髪に黒い瞳、変わったのは背と左目の眼帯くらいでしょうか。この姿を見ているとなんだか懐かしい気持ちになります。あと少し……海賊さんになったみたいで強くなった気になります。私はその勢いのままに、先程から疑問に思っていた事を聞いてみました。
「あのぉ……そういえば、タルフェさんが先程から人間、人間とおっしゃっているのですが、獣人は人間ではないのですか?」
「ん?獣人は亜人だから人間じゃぞ!それがどうした?」
「え?ということは、獣人であるタルフェさん達も人間なのでは?」
「あ~……そのだな、私たちは獣人ではないぞ」
「え、そうなのですか?でも、普通の人という訳ではないですよね?」
「その、つまりな……獣人ではなく魔物なんじゃ」
「ふぇ?魔物なのですか?魔物ですか!?」
「驚いたか?」
「えぇ…すごく驚きました。こんなにお優しい魔物がいるなんて!私、魔物とは怖い方達だと思っていましたので」
「くっくっく、驚く所はそこであったか!ワタシも露子と同じことを思っておったよ。こんな人間がおるとわな、とな。」
クツクツと愉快そうに笑うタルフェさんは、頬杖を突きながら優しい目で私を見ています。一見、魔物とは思えない風貌のタルフェさんとチルちゃんが、何故そんなに楽しそうに笑っているのか解らず話を聞くと、この世界における人間と亜人、そして魔物の柵を話してくれました。
人間は排他的で同じ人間や亜人を迫害し、魔物とは敵対している事。
亜人は人間を遠ざけて一部の魔物と共生する者がいる事。
魔物は知性が低くなる程、本能に従って生き物を襲い、逆に高いと他の生き物と共生する者が多くなるという事。
「非道いです。何故人はそのようなことを……これでは共生している魔物の方がまだ文明的ではないですか」
「そう言えるだけ露子の心は澄んでいるんじゃ。しかし、間違えてはいけないぞ。魔物はいくら知性が高かろうが魔物であると。中には小賢しいやつもおるからな。」
「小賢しいとは?」
「簡単な事じゃ、人の住処に紛れて悪事を働くのじゃ。人に化けてな」
「今のタルフェさんの様にですか?」
「そうじゃが、か、勘違いするでないぞ!あくまでもワタシは、人間と一緒に暮らす方が互いに利があると思ってじゃな……」
しどろもどろしながら説明するタルフェさんが可愛くて、少し意地悪したくなってしまいました。
「そういえば先程タルフェさん、分捕ってきたとかなんとか……」
「ち。ちがうのじゃ!あれには、訳があるのじゃ!聞いてくれ」
タルフェさんは心外だ!と言わんばかりに声を荒げて弁明の言を紡ぎます。地雷でしたかね?少し、意地悪をなんて考えた自分を咎めたくなりました。
「実は昔、人の町で暮らしていた事があってな。その時もこうして人間に化けて、冒険者を生業として暮らしておったのじゃが、そうよな自分で言うのもアレじゃが、私の容姿は優れた方であろう?」
「は、はい!」
「チルのママは世界一キレイだよ!」
本当に自分で言いましたね。でも、言っていることに間違いは何一つなく、タルフェさんは絶世の美女だと私もそう思います。寧ろ、謙遜されると逆に嫌味というか…日本人としては、謙虚は美徳なのですが少しばかり癪に触るかもしれませんね。
「ふふ、二人ともありがとう。それでだな、ワタシは冒険者としての戦績も凄くてな、それこそ王都からスカウトが来るくらいじゃった!しかし、それがいけなかった…」
私は、冒険者のなんたるかを知る訳ではないのですが、聞けば聞くほど素人でも解る程には、タルフェさんの冒険者としての戦果は凄まじく、尚且つこの美貌です。さぞ、順風満帆な生活だったのでは?と思ったのですが…私の喉がゴクリとなります。
「まぁ、一言で言うならば目立ち過ぎた。嫉妬と恨みを買ってしまってな。謂れのない事をよく言われた。この異常な戦績は有力な貴族に春を売っているからじゃとか、女の癖にじゃとか、終いには好きな男を取られただの……訳がわからなかった」
「う、うわぁ……」
「ママ、可哀想……」
「それでも、ワタシは耐えていたんじゃ。人との生活を守る為に…しかしな。ある時、ワタシでも耐え難い事が起きたのじゃ。当時ワタシは、チェリッシュと名付けたスライムをペットにしていてな。周りの人間に疎まれ始めてからの唯一の話し相手じゃった。赤くて可愛いスライムでの……本当によく懐く奴でな……」
スライムってあのスライムですかね?と言いますか、スライムってペットに出来るんですね
赤いスライムと聞いて、某国民的ゲームのベス的なナニカを思い浮かべて確かに可愛いかもとタルフェさんの顔を見ます。しかし、昔を思い出すタルフェさんの顔には、美しい想い出とは裏腹に悲痛さが滲み出ており、チェリッシュと名付けられたスライムが、どれだけ当時の彼女の支えになっていたか容易に想像ができました。
「その……チェリッシュちゃんは?」
「殺されたんじゃ。ワタシが討伐依頼を受けている間にな……依頼を完了して住んでいた家に帰ると核を潰されたチェリッシュがおったよ……いつもならドアを開けると這い寄って来ていたのだがな、もうそれは動かなくなっていたんじゃ……あまりの光景に悲しいのに涙すら出んかったよ」
「非道い……それで犯人は見つけたんですか!」
「勿論じゃ、隣の家の女じゃった。ワタシが問い詰めると、「あんたが悪いんだ!夫があんたに色目を使うようになった!」じゃと……それに、「アレはスライムでしょ?魔物なんだから殺しても問題ないじゃない!何が悪い!」とも言っておったな。確かにスライムは低級の魔物じゃが、害はなくて懐くし少しじゃが知能も在る……その時、遂に堪忍袋の緒が切れてしまっての。文字通り化けの皮が剥がれて、町の中で暴れまわってしまって、今じゃ立派なお尋ね者じゃな!ははは……分捕ってきたっていうのはその時じゃ」
タルフェさんの乾いた笑いの分だけその悲しみが伝わってきて。私はどう返したら良いのか解りませんでした。誰かが嫌だからとか、魔物だから殺して良いとかそんな事があって良い訳がなく、その価値は本人にしか解らず、他人が安易に傷つけて良いものではありません。誰かと生活を共にするという事は、お互いに相手を思い遣っていかなければならないと私は思います。確かに、暴れてしまったタルフェさんは世間一般の常識では良くなかったのかも知れませんが、ここまで追い詰められたら私でも絶対に平常ではいられませんし、私はタルフェさんに非があったとは到底思えませんでした。寧ろ、ここまで酷い目に合わされても、人間の私に優しくして下さるタルフェさんを凄いとすら思えてしまいます。
「湿っぽい話をしてしまったが、昔はワタシも人間と暮らしていたという話であって、言い訳かもしれぬが理由もなく人間の町を襲ったんではないのじゃ!それだけは解っておくれ」
「ごめんなさい!」
私は、勢いよく頭を下げてタルフェさんに謝罪しました。
「ど、どうしたのじゃ急に」
「私、最初から分捕ってきたとかの話はどうでも良かったのです!タルフェさんは、ここまで優しくしてくれていたし、気を使ってもくれていました。それだけで……それだけでタルフェさんが信用に値する方だってことは解っていたんです。なのに無理に昔のことを思い出させて、悲しい思いにさせる必要なんてなかったのに……私……本当にごめんなさい」
少し意地悪をだなんて、浅はかな自分の言動に幻滅してしまいます。
「私、これからもタルフェさんを信じます!絶対に最後までタルフェさんの味方であると誓います!」
「チルもママのこと大好き!絶対に味方だよ!」
私とチルちゃんの決意表明にタルフェさんは小さく「ありがとう」と返しました。
「あぁそういえば、また話が逸れたな。露子の今後のことだったか。露子や、後で村に挨拶に行こう!どれくらいになるかは判らぬがここにいる間、露子の面倒はワタシが見ることになっておるのじゃ。」
「はい!って、えっ!?私はここに居ても良いのですか?」
「うむ、ワタシが連れてきたのでな。最後まで面倒を見るのが筋であろう!」
タルフェさんがそう育児宣言をし、ニカっと笑いました。
子供を育てるのは一人でも大変だと聞きますのに、私までご厄介になっていいのでしょうか。これは絶対に迷惑は掛けられません!お手伝いをしっかりしなくては!
「あの、ありがとうございます!もしあれでしたら、今からでも村の方に向かっても良いのですけれど……」
「あ~!チルも村に行きたい!チルとお姉ちゃん、ペリト君、ミウイちゃんの四人で一緒に遊びたいの!チルおはじき持っていくね!」
迷惑は掛けられないので早速行きましょう!と言う私の横で、チルちゃんが指を折りながら色の付いた綺麗な石をポッケから取り出しました。
まぁ!おはじきってなんだか懐かしいです。昔、小学生の頃よくやりました。へぇ~この世界にも在るんですね!あっ!でも流石にガラス製では無いんですね!
チルちゃんにおはじきの石を見せてもらって、なんだか懐かしい気持ちになり童心に還るような感じがして心が弾みます。二人でこの石が可愛いとか、これがお気に入りとかキャッキャと話の華を咲かせているとタルフェさんから待ったが掛かりました。
「会話が盛り上がっている所すまぬがチルや、お昼ごはんを食べたら何をするんじゃったかの?」
え?何かすることがあるんですか?お祈りとか宗教的な何かでしょうか。といいますか、今ってお昼だったんですね。てっきりまだ朝だと……時計がないから解らなかったです。
「お……お昼寝……です」
タルフェさんがジトーっとを見つめ、それにビクリと反応したチルちゃんが恐々としながら答えます。
あ~、お昼寝でしたか!チルちゃんはまだ小さいですものね。ふふふ、納得です!
「おお~そうじゃったな!お昼寝じゃ!解っておるならさっさと寝んか!ん?な~にを自分には関係ないような顔をしておるのじゃ!露子もじゃぞ!」
「えっ!私もですか!?」
「当たり前に決まっとるじゃろ!村に行くのはその後じゃ。露子の部屋で二人で寝ればよかろう」
私は高校生だから関係ないと思い、ちぇ~とバツの悪いチルちゃんを微笑ましく眺めていましたが、タルフェさんに「お前も寝ろ!」と怒られてしまいました。
「やった~!お姉ちゃん一緒に寝よ~!」
「あ、あの!私の部屋って……さっき寝起きした場所でしょうか?」
「そうじゃ!ほれ!さっさといかんか!」
タルフェさんに四の五の言わずさっさと行けと背中を押されて、私の部屋が用意されていたことに驚きましたが、そもそも全然眠くないと渋々ながら、嬉しそうなチルちゃんと一緒に部屋に戻り布団に入って目を閉じます。
あぁ、不思議です。さっきまで全然眠くなかったのに、布団に入った瞬間から……なんだか……眠く……なってきま……した……。ほん……とうに……幼児の体……って……不思……議……で……す……
「ゴ、ゴホン!で、では露子の今後について話そうと思う」
そう切り出すタルフェさんの顔は真っ赤で、私とチルちゃんがクスクスと笑っていると、困った様に頬を掻きます。その姿は、とても可愛らしいと思ってしまいました。
「まず、これから露子は……」
「ハイ!ハイハイハーイ!」
チルちゃんが元気よく手を上げて、タルフェさんの話を遮ります。
「なんじゃ!まったく、人が話しているというのに!」
「ママ!何か忘れてない?」
「はて?何か忘れておったか?」
「あぁん!もう!ママ!コレだよ、こ・れ!」
全然ピンときていないタルフェさんに、痺れを切らしたチルちゃんが自分の右眼を指差しました。
「眼帯……おお!そうじゃった!露子に渡す物があったんじゃ!ちょいと待っておれ!」
「やっと思い出したの……」
タルフェさんは、何かを呟いた後に急に大声を出し何処かへ行ってしまい、その姿を呆れた様にチルちゃんが見送っています。
「私になにか頂けるのでしょうか?」
「えへへ、ママが戻ってきたら分かるよ!」
一体何をくれるんでしょう?
チルちゃんに聞いても「内緒~!貰ってからのお楽しみ!」と言って教えてくれませんし、大人しく待つしかありません。暫くするとタルフェさんが手に何かを持って戻ってきました。
「待たせたな!ワタシ達二人から露子に贈り物じゃ!受け取ってくれ」
そう言ってタルフェさんが、狼のレリーフが付いた黒い眼帯を私の手に握らせてくれました。
「わぁ!すごく綺麗です。これを私に?いいのですか?」
「ははは、いいも何も露子の為に作ったものじゃからな!」
「みてみて~お姉ちゃん!これね、チルとお揃いなの~!」
「まぁ!本当です。うふふ、お揃いですね!」
「よし、露子よ!着けてやるから、それを貸してみるのじゃ。」
「はい。お願いします!」
タルフェさんが私の後ろへ周り、失くなってしまった左目にそっと眼帯を着けてくれました。
「わぁ!お姉ちゃんすごく似合ってる!」
「ふむ、悪くないな!」
「そうですか?でも、自分では見ることが出来ませんので似合っているかどうか……」
二人が諸手を挙げて褒めてくれるので自分の姿を見てみたいというと、タルフェさんが手鏡を貸してくれました。
「かなり昔に人間の町から分捕ってきたものじゃ!それを使って見てみい」
分捕ってきたって……それじゃまるで泥棒さんみたいじゃないですか
私が苦笑いをしながら鏡を覗くと、そこには幼少期の頃と何ら変わらぬ姿の自分が映っていました。黒い髪に黒い瞳、変わったのは背と左目の眼帯くらいでしょうか。この姿を見ているとなんだか懐かしい気持ちになります。あと少し……海賊さんになったみたいで強くなった気になります。私はその勢いのままに、先程から疑問に思っていた事を聞いてみました。
「あのぉ……そういえば、タルフェさんが先程から人間、人間とおっしゃっているのですが、獣人は人間ではないのですか?」
「ん?獣人は亜人だから人間じゃぞ!それがどうした?」
「え?ということは、獣人であるタルフェさん達も人間なのでは?」
「あ~……そのだな、私たちは獣人ではないぞ」
「え、そうなのですか?でも、普通の人という訳ではないですよね?」
「その、つまりな……獣人ではなく魔物なんじゃ」
「ふぇ?魔物なのですか?魔物ですか!?」
「驚いたか?」
「えぇ…すごく驚きました。こんなにお優しい魔物がいるなんて!私、魔物とは怖い方達だと思っていましたので」
「くっくっく、驚く所はそこであったか!ワタシも露子と同じことを思っておったよ。こんな人間がおるとわな、とな。」
クツクツと愉快そうに笑うタルフェさんは、頬杖を突きながら優しい目で私を見ています。一見、魔物とは思えない風貌のタルフェさんとチルちゃんが、何故そんなに楽しそうに笑っているのか解らず話を聞くと、この世界における人間と亜人、そして魔物の柵を話してくれました。
人間は排他的で同じ人間や亜人を迫害し、魔物とは敵対している事。
亜人は人間を遠ざけて一部の魔物と共生する者がいる事。
魔物は知性が低くなる程、本能に従って生き物を襲い、逆に高いと他の生き物と共生する者が多くなるという事。
「非道いです。何故人はそのようなことを……これでは共生している魔物の方がまだ文明的ではないですか」
「そう言えるだけ露子の心は澄んでいるんじゃ。しかし、間違えてはいけないぞ。魔物はいくら知性が高かろうが魔物であると。中には小賢しいやつもおるからな。」
「小賢しいとは?」
「簡単な事じゃ、人の住処に紛れて悪事を働くのじゃ。人に化けてな」
「今のタルフェさんの様にですか?」
「そうじゃが、か、勘違いするでないぞ!あくまでもワタシは、人間と一緒に暮らす方が互いに利があると思ってじゃな……」
しどろもどろしながら説明するタルフェさんが可愛くて、少し意地悪したくなってしまいました。
「そういえば先程タルフェさん、分捕ってきたとかなんとか……」
「ち。ちがうのじゃ!あれには、訳があるのじゃ!聞いてくれ」
タルフェさんは心外だ!と言わんばかりに声を荒げて弁明の言を紡ぎます。地雷でしたかね?少し、意地悪をなんて考えた自分を咎めたくなりました。
「実は昔、人の町で暮らしていた事があってな。その時もこうして人間に化けて、冒険者を生業として暮らしておったのじゃが、そうよな自分で言うのもアレじゃが、私の容姿は優れた方であろう?」
「は、はい!」
「チルのママは世界一キレイだよ!」
本当に自分で言いましたね。でも、言っていることに間違いは何一つなく、タルフェさんは絶世の美女だと私もそう思います。寧ろ、謙遜されると逆に嫌味というか…日本人としては、謙虚は美徳なのですが少しばかり癪に触るかもしれませんね。
「ふふ、二人ともありがとう。それでだな、ワタシは冒険者としての戦績も凄くてな、それこそ王都からスカウトが来るくらいじゃった!しかし、それがいけなかった…」
私は、冒険者のなんたるかを知る訳ではないのですが、聞けば聞くほど素人でも解る程には、タルフェさんの冒険者としての戦果は凄まじく、尚且つこの美貌です。さぞ、順風満帆な生活だったのでは?と思ったのですが…私の喉がゴクリとなります。
「まぁ、一言で言うならば目立ち過ぎた。嫉妬と恨みを買ってしまってな。謂れのない事をよく言われた。この異常な戦績は有力な貴族に春を売っているからじゃとか、女の癖にじゃとか、終いには好きな男を取られただの……訳がわからなかった」
「う、うわぁ……」
「ママ、可哀想……」
「それでも、ワタシは耐えていたんじゃ。人との生活を守る為に…しかしな。ある時、ワタシでも耐え難い事が起きたのじゃ。当時ワタシは、チェリッシュと名付けたスライムをペットにしていてな。周りの人間に疎まれ始めてからの唯一の話し相手じゃった。赤くて可愛いスライムでの……本当によく懐く奴でな……」
スライムってあのスライムですかね?と言いますか、スライムってペットに出来るんですね
赤いスライムと聞いて、某国民的ゲームのベス的なナニカを思い浮かべて確かに可愛いかもとタルフェさんの顔を見ます。しかし、昔を思い出すタルフェさんの顔には、美しい想い出とは裏腹に悲痛さが滲み出ており、チェリッシュと名付けられたスライムが、どれだけ当時の彼女の支えになっていたか容易に想像ができました。
「その……チェリッシュちゃんは?」
「殺されたんじゃ。ワタシが討伐依頼を受けている間にな……依頼を完了して住んでいた家に帰ると核を潰されたチェリッシュがおったよ……いつもならドアを開けると這い寄って来ていたのだがな、もうそれは動かなくなっていたんじゃ……あまりの光景に悲しいのに涙すら出んかったよ」
「非道い……それで犯人は見つけたんですか!」
「勿論じゃ、隣の家の女じゃった。ワタシが問い詰めると、「あんたが悪いんだ!夫があんたに色目を使うようになった!」じゃと……それに、「アレはスライムでしょ?魔物なんだから殺しても問題ないじゃない!何が悪い!」とも言っておったな。確かにスライムは低級の魔物じゃが、害はなくて懐くし少しじゃが知能も在る……その時、遂に堪忍袋の緒が切れてしまっての。文字通り化けの皮が剥がれて、町の中で暴れまわってしまって、今じゃ立派なお尋ね者じゃな!ははは……分捕ってきたっていうのはその時じゃ」
タルフェさんの乾いた笑いの分だけその悲しみが伝わってきて。私はどう返したら良いのか解りませんでした。誰かが嫌だからとか、魔物だから殺して良いとかそんな事があって良い訳がなく、その価値は本人にしか解らず、他人が安易に傷つけて良いものではありません。誰かと生活を共にするという事は、お互いに相手を思い遣っていかなければならないと私は思います。確かに、暴れてしまったタルフェさんは世間一般の常識では良くなかったのかも知れませんが、ここまで追い詰められたら私でも絶対に平常ではいられませんし、私はタルフェさんに非があったとは到底思えませんでした。寧ろ、ここまで酷い目に合わされても、人間の私に優しくして下さるタルフェさんを凄いとすら思えてしまいます。
「湿っぽい話をしてしまったが、昔はワタシも人間と暮らしていたという話であって、言い訳かもしれぬが理由もなく人間の町を襲ったんではないのじゃ!それだけは解っておくれ」
「ごめんなさい!」
私は、勢いよく頭を下げてタルフェさんに謝罪しました。
「ど、どうしたのじゃ急に」
「私、最初から分捕ってきたとかの話はどうでも良かったのです!タルフェさんは、ここまで優しくしてくれていたし、気を使ってもくれていました。それだけで……それだけでタルフェさんが信用に値する方だってことは解っていたんです。なのに無理に昔のことを思い出させて、悲しい思いにさせる必要なんてなかったのに……私……本当にごめんなさい」
少し意地悪をだなんて、浅はかな自分の言動に幻滅してしまいます。
「私、これからもタルフェさんを信じます!絶対に最後までタルフェさんの味方であると誓います!」
「チルもママのこと大好き!絶対に味方だよ!」
私とチルちゃんの決意表明にタルフェさんは小さく「ありがとう」と返しました。
「あぁそういえば、また話が逸れたな。露子の今後のことだったか。露子や、後で村に挨拶に行こう!どれくらいになるかは判らぬがここにいる間、露子の面倒はワタシが見ることになっておるのじゃ。」
「はい!って、えっ!?私はここに居ても良いのですか?」
「うむ、ワタシが連れてきたのでな。最後まで面倒を見るのが筋であろう!」
タルフェさんがそう育児宣言をし、ニカっと笑いました。
子供を育てるのは一人でも大変だと聞きますのに、私までご厄介になっていいのでしょうか。これは絶対に迷惑は掛けられません!お手伝いをしっかりしなくては!
「あの、ありがとうございます!もしあれでしたら、今からでも村の方に向かっても良いのですけれど……」
「あ~!チルも村に行きたい!チルとお姉ちゃん、ペリト君、ミウイちゃんの四人で一緒に遊びたいの!チルおはじき持っていくね!」
迷惑は掛けられないので早速行きましょう!と言う私の横で、チルちゃんが指を折りながら色の付いた綺麗な石をポッケから取り出しました。
まぁ!おはじきってなんだか懐かしいです。昔、小学生の頃よくやりました。へぇ~この世界にも在るんですね!あっ!でも流石にガラス製では無いんですね!
チルちゃんにおはじきの石を見せてもらって、なんだか懐かしい気持ちになり童心に還るような感じがして心が弾みます。二人でこの石が可愛いとか、これがお気に入りとかキャッキャと話の華を咲かせているとタルフェさんから待ったが掛かりました。
「会話が盛り上がっている所すまぬがチルや、お昼ごはんを食べたら何をするんじゃったかの?」
え?何かすることがあるんですか?お祈りとか宗教的な何かでしょうか。といいますか、今ってお昼だったんですね。てっきりまだ朝だと……時計がないから解らなかったです。
「お……お昼寝……です」
タルフェさんがジトーっとを見つめ、それにビクリと反応したチルちゃんが恐々としながら答えます。
あ~、お昼寝でしたか!チルちゃんはまだ小さいですものね。ふふふ、納得です!
「おお~そうじゃったな!お昼寝じゃ!解っておるならさっさと寝んか!ん?な~にを自分には関係ないような顔をしておるのじゃ!露子もじゃぞ!」
「えっ!私もですか!?」
「当たり前に決まっとるじゃろ!村に行くのはその後じゃ。露子の部屋で二人で寝ればよかろう」
私は高校生だから関係ないと思い、ちぇ~とバツの悪いチルちゃんを微笑ましく眺めていましたが、タルフェさんに「お前も寝ろ!」と怒られてしまいました。
「やった~!お姉ちゃん一緒に寝よ~!」
「あ、あの!私の部屋って……さっき寝起きした場所でしょうか?」
「そうじゃ!ほれ!さっさといかんか!」
タルフェさんに四の五の言わずさっさと行けと背中を押されて、私の部屋が用意されていたことに驚きましたが、そもそも全然眠くないと渋々ながら、嬉しそうなチルちゃんと一緒に部屋に戻り布団に入って目を閉じます。
あぁ、不思議です。さっきまで全然眠くなかったのに、布団に入った瞬間から……なんだか……眠く……なってきま……した……。ほん……とうに……幼児の体……って……不思……議……で……す……
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