冬の枝

村上

冬の枝


もうすっかり寒くなり、口癖の様に
「うー、寒っ」と出てしまう。
寒いのは苦手だ。しかし冬の朝は好きだ。
朝外にでた時の匂いが、静けさが、吐く息の白さが。そして…

「まーた言ってる」
もう聞き飽きたと、マフラーで口元は隠れてるいるが、少しだけ白い息をマフラーから漏らしながら、彼女は自分の横に並んで立つ。
「仕方ないじゃん、これはもはや季語だよ」
僕はまっすぐ前を、遠くを見つめながら、なるべくいつものように話す。
「それが季語なら冷蔵庫の中はいつも冬ね」
「なら、冷房がすごく効いた部屋に入った時も冬になるかな」
「それは涼しいでしょ」
しばらくの沈黙の後、くすっと2人して笑う。
いつものノリ、いつものテンポ、心地よさに哀しみが込み上げてくる。この感じはもう何回目だろう。
枯れ果て、残り数枚の葉を残す木々に止まる鳥達は楽しそうに会話をしているようだ。

「なんで泣いてるの…?」
気がつくと僕は泣いていた。
「…わかんない」
彼女のまっすぐな視線を横目に感じていると、さらに涙は止まらなくなる。
「やっぱり、ダメだ…」
「…ダメ?」
鳥達は飛び去り、止まっていた木の枝はぽきりと折れ、落ちていく。
そう、僕は心配なんだ。
君が冬の枝の様にぽっきりと折れるようで。
「ねぇ、やっぱり行くのをやめる事は…」
「…」
なんでそんな事を言うのか、無言で見つめる彼女の目から、そう言われてる気がして、それ以上先は言えなかった。
僕は誰よりも彼女の味方でいたい、彼女がやりたい事をやり、笑顔で過ごせる事を何よりも望んでいる。しかし今は自分の意見を言いたくて仕方がない。しかし…言えない。
今まではただ必死に自分の意見を言ってきたが、今回はもう…自分が折れた。
無言で涙を流しながら遠くを見ていると、ふと頬に柔らかく、熱い感触がする。
驚いて手を頬に当て、彼女を見やる。
マフラーをずらした彼女は唇をおさえ、頬はほんのり紅潮していた。

「…帰ってきたら一緒に遅めのクリスマスしようね」
今までにない展開に驚きつつも、嬉しく、そして悲しく、僕は何とかしぼりだした。
「…うん」
涙まじりの声だったと思う。しかしちゃんと彼女の目を見て言えた。
彼女はこれから部活の合宿に行く。そして死ぬ。合宿中の空き時間、崖から落ちそうになっている子供を助けようとして死んでしまう。
僕からすればここは過去。もう5回は繰り返している。一番濃密で、悲しさや幸せのある過去。
果たして何度繰り返せば、一番いいシナリオになるのだろう。そもそも僕はどうしたいんだろう。正解なんてあるのだろうか…。

冬の枝の葉は残り少ない。


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