元旅人の王宮騎士
16
ユリシスを先頭に、こちらの王族から数メートル離れた位置で立ち止まった。
「お初にお目に掛かります。アルバトル王国から参りました、ユリシス・アルバトルと申します。以後お見知り置きを」
「よく参られた。申し訳ないが、我が国に滞在している間は息子と娘に城や町を案内して貰って欲しい」
「は。お忙しい中出迎えていただいた事に、心より感謝を」
「うむ。ゆっくりして行ってくれたまえ」
ふう、出迎え終了。相変わらず堅っ苦しいやり取りだな。
再び同僚とアイコンタクトを取り、それぞれの護衛の仕事に戻った。
警戒態勢が解かれ、この場にはアリシアと王子、そしてユリシスとそれぞれの護衛だけが残された。
ユリシスの近衛騎士たちは、グレン団長に連れられて立ち合いの場となる訓練場に案内されている。
「さ、まずは僕らの自己紹介から始めようか。僕はルーク・フィーゼリアだ。よろしく」
「妹のアリシア・フィーゼリアです。以後お見知り置きを」
「改めまして、ユリシス・アルバトルです。こちらこそよろしくお願いします。それにしても、アリシア王女はお美しい」
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞なんてとんでもない!貴女程美しい方なんて初めてお会いしました」
「ふふ、お上手ですね」
「いやはや、口で言っても信じてもらえそうにありませんね。やはり行動で示さなくては」
そう言ってアリシアの手を取ろうとしたので、その手をちょっと強めに叩いた。
当然一介の護衛がそんなことをすれば不敬どころの話じゃない。
一気にその場の空気が張り詰めて、先ほどまでの和やかなムードが嘘みたいに消えて無くなる。
「貴様、どういうつもりだ?」
まあ、そんな雰囲気やらなんやらは知ったことではないが。
「うっせーよバカ。ユーリお前その女癖、やっぱり治ってなかったみたいだな」
「なに?・・・待て、顔をよく見せてくれ」
「やめろ、見せるから近づいてくんな」
「ゼン。お前ゼンか!?生きていたのか!」
「勝手に殺すな」
「しょうがないだろう!消息を経ってはや3年。冒険者で3年も音沙汰が無いのなら、死んだと思われて当然だ」
「冒険者の情報なんて耳に入れてないと思ってたよ」
「友人が危険な仕事をやっているんだ。気になって当然だろう?」
ん?なんか泣きそうになってない?ってそりゃそうか。死んだと思ってたんだもんな。いきなり生きて現れたら驚くよな。
随分心配してくれたみたいだしな。
「悪い、心配かけたみたいだな」
「全くだ!こちらから連絡する手段が無いのだぞ?それなのにお前は1度も連絡を寄越さないんだからな」
「悪かったって。この通りピンピンしてるから」
「えっと、どうなってるの?」
「ん?ああ、ユーリは俺の友達なんだよ。社会勉強とやらで、こいつが冒険者をやってた頃にパーティ組んでたんだ」
「へぇ、でも態度は改めた方がいいんじゃ無い?」
「それはなりません。ユリシス様が拗ねてしまわれますので」
「おい、余計なことは言うな」
「失礼しました」
「って訳だ。これで良いんだよ」
「知り合いとは聞いてたけど、ここまで仲が良いとは思わなかったなぁ」
あれ、何か言いたげなんだけど、なんだろう?って王子もなの?なに?俺なんか問題発言とかしたっけ?
「ゼン。どうやらオレと話す時くらい砕けた接し方を求めているらしいぞ」
「えぇ。王子はともかく、アリシアには同じように接してると思うんだけど?」
「まだ硬いもん」
「いや硬くないだろ。なんならユーリよりゆるいぞ?」
「あだ名で呼び合ってるのに?」
「え?ああ、これはあだ名じゃなくて冒険者の時の名前だよ。ユーリは名前が通ってるからな。偽名で登録してるんだよ」
「じゃあ、ユーゼンはどっちが偽名なの?」
「冒険者の方。今みたいにどこかに定住するつもりだったから、後々名前から色々調べられるのを避けたかったんだ」
「それじゃあ、ユーゼンって呼んでる僕らの方が特別って事で良いのかい?」
「まあ、そうなりますね。冒険者になって以来、本名名乗ったのはアリシアと出会った時だけですから」
「それはつまり、アリシアと出会った時にこの国に定住する事を決めたと?」
そういうわけでは無いんだが、どう言えばいいかな?
いや確かにこの国で冒険者稼業をしてる時から、この国で根を張っても良いかもしれないとは思ってたけど、アリシアと出会った時にはまだ決めかねてたからなぁ。
「さすがにそこまで単純思考じゃないですよ。ただ、なんか偽名を名乗るのを躊躇ったというか、偽名で覚えられたく無かったというか・・・うーん」
「ユーゼンにしてはハッキリしない言い方をするじゃないか」
「いや〜なんて言ったらいいか分かんなくて。えっと、アリシアの側に居られるなら、定住しても良いかなって程度だったんです」
「え!?ちょ、な、なに言ってるの??」
えぇ、なんで俺そんな顔真っ赤にして怒鳴られないといけないの?
変なことは、言ってないな。言ってないのになんで?
ていうか「なに言ってるの」は失礼だろ。
「なにって、あの時本名を名乗ろうと思った理由だけど」
「ユリシス殿、ユーゼンは以前からこうだったのかい?」
「ええ、普段は鋭いくせに、自分の感情が絡むと途端に鈍感に・・・」
「なんて都合の良い感覚なんだ」
おいそこ2人、やれやれみたいな感じで首を横に振るな!
あーなんか一気に疲れた。とっとと話進めよう。
「ほら、いつまでもここに居ないで移動しましょう」
「ああ、そうだね。ではまず訓練場から行こうか」
え、待って。今行くともれなく俺たちも立ち合いに参加させられるんですけど?
同僚と一緒に全力で首を横に振って抗議したが、見ないフリをされた。
護衛が直接抗議したら考え直してくれるんじゃないかと同僚に目線で訴えてみるが、こちらもダメらしく、もう無理だ諦めろと、静かに首を横に振られてしまった。
半ばヤケになりながら向かった訓練場では、たった今からグレン団長とユリシスが連れてきた近衛騎士のトップが立ち合いを始めるところだった。
まあ、立ち合いの結果だけ言ってしまうと、グレン団長の圧勝だった。それはもう足元にも及ばないほどに圧勝だった。
これでも手を抜いてる方なんだから怖いよな〜。ていうか近衛騎士のトップの実力って、ユリシスより下なんじゃ・・・。
ユリシスの方を向くと、あからさまに視線を逸らされた。
あ、やっぱりお前の方が強いのね。
グレン団長もどうすりゃ良いか分かんなくなっちゃってるじゃん。弱すぎて。
色々迷惑かけてるし、助け舟を出そう。
「団長。しばらくここに留まる事になったんですが、大丈夫ですか?」
「ん?おう、好きなだけ居てくれて構わねーぞ。その代わり、ついでだからお前らは立ち会いに参加してけ」
「「は」」
同僚を巻き込む形になってしまったので一応謝っておく事にする。
「すまん」
「いや、団長にはお世話になってるからな。これくらいは構わないさ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
王子が護衛に指定してるだけあって、話がわかる良い奴だ。
普段、王子に振り回されてるだろうからこれぐらいはどうって事ないだけかもしれないが。
前者であると信じよう。前者であると願おう。王子がそこまで奔放ではないと信じて。
「ちょっと行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
「王子、セバスさん。ユーリがアリシアに手出そうとしたら、俺の責任でぶん殴って止めてください」
「分かったよ」「そのつもりでございます」
「ぅおい!?」
抗議の声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
「お初にお目に掛かります。アルバトル王国から参りました、ユリシス・アルバトルと申します。以後お見知り置きを」
「よく参られた。申し訳ないが、我が国に滞在している間は息子と娘に城や町を案内して貰って欲しい」
「は。お忙しい中出迎えていただいた事に、心より感謝を」
「うむ。ゆっくりして行ってくれたまえ」
ふう、出迎え終了。相変わらず堅っ苦しいやり取りだな。
再び同僚とアイコンタクトを取り、それぞれの護衛の仕事に戻った。
警戒態勢が解かれ、この場にはアリシアと王子、そしてユリシスとそれぞれの護衛だけが残された。
ユリシスの近衛騎士たちは、グレン団長に連れられて立ち合いの場となる訓練場に案内されている。
「さ、まずは僕らの自己紹介から始めようか。僕はルーク・フィーゼリアだ。よろしく」
「妹のアリシア・フィーゼリアです。以後お見知り置きを」
「改めまして、ユリシス・アルバトルです。こちらこそよろしくお願いします。それにしても、アリシア王女はお美しい」
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞なんてとんでもない!貴女程美しい方なんて初めてお会いしました」
「ふふ、お上手ですね」
「いやはや、口で言っても信じてもらえそうにありませんね。やはり行動で示さなくては」
そう言ってアリシアの手を取ろうとしたので、その手をちょっと強めに叩いた。
当然一介の護衛がそんなことをすれば不敬どころの話じゃない。
一気にその場の空気が張り詰めて、先ほどまでの和やかなムードが嘘みたいに消えて無くなる。
「貴様、どういうつもりだ?」
まあ、そんな雰囲気やらなんやらは知ったことではないが。
「うっせーよバカ。ユーリお前その女癖、やっぱり治ってなかったみたいだな」
「なに?・・・待て、顔をよく見せてくれ」
「やめろ、見せるから近づいてくんな」
「ゼン。お前ゼンか!?生きていたのか!」
「勝手に殺すな」
「しょうがないだろう!消息を経ってはや3年。冒険者で3年も音沙汰が無いのなら、死んだと思われて当然だ」
「冒険者の情報なんて耳に入れてないと思ってたよ」
「友人が危険な仕事をやっているんだ。気になって当然だろう?」
ん?なんか泣きそうになってない?ってそりゃそうか。死んだと思ってたんだもんな。いきなり生きて現れたら驚くよな。
随分心配してくれたみたいだしな。
「悪い、心配かけたみたいだな」
「全くだ!こちらから連絡する手段が無いのだぞ?それなのにお前は1度も連絡を寄越さないんだからな」
「悪かったって。この通りピンピンしてるから」
「えっと、どうなってるの?」
「ん?ああ、ユーリは俺の友達なんだよ。社会勉強とやらで、こいつが冒険者をやってた頃にパーティ組んでたんだ」
「へぇ、でも態度は改めた方がいいんじゃ無い?」
「それはなりません。ユリシス様が拗ねてしまわれますので」
「おい、余計なことは言うな」
「失礼しました」
「って訳だ。これで良いんだよ」
「知り合いとは聞いてたけど、ここまで仲が良いとは思わなかったなぁ」
あれ、何か言いたげなんだけど、なんだろう?って王子もなの?なに?俺なんか問題発言とかしたっけ?
「ゼン。どうやらオレと話す時くらい砕けた接し方を求めているらしいぞ」
「えぇ。王子はともかく、アリシアには同じように接してると思うんだけど?」
「まだ硬いもん」
「いや硬くないだろ。なんならユーリよりゆるいぞ?」
「あだ名で呼び合ってるのに?」
「え?ああ、これはあだ名じゃなくて冒険者の時の名前だよ。ユーリは名前が通ってるからな。偽名で登録してるんだよ」
「じゃあ、ユーゼンはどっちが偽名なの?」
「冒険者の方。今みたいにどこかに定住するつもりだったから、後々名前から色々調べられるのを避けたかったんだ」
「それじゃあ、ユーゼンって呼んでる僕らの方が特別って事で良いのかい?」
「まあ、そうなりますね。冒険者になって以来、本名名乗ったのはアリシアと出会った時だけですから」
「それはつまり、アリシアと出会った時にこの国に定住する事を決めたと?」
そういうわけでは無いんだが、どう言えばいいかな?
いや確かにこの国で冒険者稼業をしてる時から、この国で根を張っても良いかもしれないとは思ってたけど、アリシアと出会った時にはまだ決めかねてたからなぁ。
「さすがにそこまで単純思考じゃないですよ。ただ、なんか偽名を名乗るのを躊躇ったというか、偽名で覚えられたく無かったというか・・・うーん」
「ユーゼンにしてはハッキリしない言い方をするじゃないか」
「いや〜なんて言ったらいいか分かんなくて。えっと、アリシアの側に居られるなら、定住しても良いかなって程度だったんです」
「え!?ちょ、な、なに言ってるの??」
えぇ、なんで俺そんな顔真っ赤にして怒鳴られないといけないの?
変なことは、言ってないな。言ってないのになんで?
ていうか「なに言ってるの」は失礼だろ。
「なにって、あの時本名を名乗ろうと思った理由だけど」
「ユリシス殿、ユーゼンは以前からこうだったのかい?」
「ええ、普段は鋭いくせに、自分の感情が絡むと途端に鈍感に・・・」
「なんて都合の良い感覚なんだ」
おいそこ2人、やれやれみたいな感じで首を横に振るな!
あーなんか一気に疲れた。とっとと話進めよう。
「ほら、いつまでもここに居ないで移動しましょう」
「ああ、そうだね。ではまず訓練場から行こうか」
え、待って。今行くともれなく俺たちも立ち合いに参加させられるんですけど?
同僚と一緒に全力で首を横に振って抗議したが、見ないフリをされた。
護衛が直接抗議したら考え直してくれるんじゃないかと同僚に目線で訴えてみるが、こちらもダメらしく、もう無理だ諦めろと、静かに首を横に振られてしまった。
半ばヤケになりながら向かった訓練場では、たった今からグレン団長とユリシスが連れてきた近衛騎士のトップが立ち合いを始めるところだった。
まあ、立ち合いの結果だけ言ってしまうと、グレン団長の圧勝だった。それはもう足元にも及ばないほどに圧勝だった。
これでも手を抜いてる方なんだから怖いよな〜。ていうか近衛騎士のトップの実力って、ユリシスより下なんじゃ・・・。
ユリシスの方を向くと、あからさまに視線を逸らされた。
あ、やっぱりお前の方が強いのね。
グレン団長もどうすりゃ良いか分かんなくなっちゃってるじゃん。弱すぎて。
色々迷惑かけてるし、助け舟を出そう。
「団長。しばらくここに留まる事になったんですが、大丈夫ですか?」
「ん?おう、好きなだけ居てくれて構わねーぞ。その代わり、ついでだからお前らは立ち会いに参加してけ」
「「は」」
同僚を巻き込む形になってしまったので一応謝っておく事にする。
「すまん」
「いや、団長にはお世話になってるからな。これくらいは構わないさ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
王子が護衛に指定してるだけあって、話がわかる良い奴だ。
普段、王子に振り回されてるだろうからこれぐらいはどうって事ないだけかもしれないが。
前者であると信じよう。前者であると願おう。王子がそこまで奔放ではないと信じて。
「ちょっと行ってくる」
「うん。いってらっしゃい」
「王子、セバスさん。ユーリがアリシアに手出そうとしたら、俺の責任でぶん殴って止めてください」
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