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元旅人の王宮騎士

矢崎未峻

11

 あー二日酔いじゃなくて良かった。
 最近にしては結構飲んだからちょっと心配だったけど、杞憂に終わったらしく朝から胸を撫で下ろした。
 ってあれ?うそ!寝坊した!?
 酒の力は怖いもので、昨日の疲れも相まって爆睡してしまい、すっかり寝坊してしまった。
 とはいえまだ急げば間に合うくらいの時間は残されているのでいつもならゆっくり準備するところを、かなり急いで準備してから部屋を出た。
 うへぇギリギリだ。ちょっと走らないと間に合わねーかも。

 結局、少しだけ走って間に合わせた。
 今日は事務仕事がある日なので自分の机に行くと、いつものごとく周りとは倍ほども量の多い書類が。
 淡々と処理をして団長の所に持っていく。

「団長、書類おいときますね」

「おう。ユーゼン、これ」

「?・・・ありがとうございます」

 数日後のユリシス来国時の大まかな予定が書かれた書類を渡された。
 これは多分あれだな。この予定から大きく外れた行動があれば要警戒ってやつだ。いや、もうほんとに、過保護。
 流し読みしながら机に戻ると、当たり前のように書類の山が。
 もはや慣れたもので、サッと処理して団長のところに持っていった。
 机に戻って、改めて渡された書類を熟読し、頭に叩き込む。

「ユーゼン、おはよう。今、グレン呼んで大丈夫?」

「サラさん。おはようございます。今はちょっと、大丈夫じゃないと思います」

「みたいね。あの書類の量はおかしいわ。・・・あの老害共が」

 最後の一言は聞かなかった事にします。

「急ぎの用事ですか?」

「んー、そうでもないかな。ただちょっと、久しぶりに、ね」

 あーなるほど。ちゃんと団長と話したいのね。痴話喧嘩じゃなくて。
 しょうがない、ちょっと助け舟出すか。

「団長、ちょっと休憩したらどうです?」

「ん?いや、まだいい。全部片付けちまいたい」

「ダメですよ。そんな事したら倒れますよ?どうせ急ぎの書類は終わってるんでしょう?」

「・・・分かった。少しだけ休憩する。って、サラじゃねーか。どうした?何かあったか」

「ああ、いや、そう言うわけじゃないんだけど、その・・・久しぶりにゆっくり話したくて」

 あ、これ団長負けるやつだ。いや、分かるよ。分かる。だってズルイじゃん、今のサラさん。
 ていうかそもそも団長自身、サラさんと話したかったっぽいよね。満更でもないどころかウェルカムな感じだ。
 なんていうか、見てられないな。こっちが恥ずかしくなってくるわ。

「サラ。今日、飯でも行くか」

「うん。ごめん、疲れてるのに」

「お互い様だ。仕事終わったら迎えに行く」

「分かった。待ってる」

 あからさまに嬉しそうな顔だな、2人とも。
 あーあ、休ませるつもりが焚きつける結果になっちゃった。
 サラさんが立ち去った後間も無く、仕事に戻った団長は、鬼気迫る様子で爆速で書類の山を片付け始めた。
 過去一早いな。
 ひらひらと1枚こちらに飛んできた処理済みの書類を見てみると、ミス一つない完璧な処理がされていた。
 その書類を持って行ったついでに他の書類も確認したら、いつもなら必ずと言っていいほどやらかすミスも無く、処理スピードからは考えられない程の正確さを誇っていた。
 これで団長は無自覚なんだから怖いよな。
 さて、本当はあまり良くないけど、団長を手伝うか。流石にこのペースでやり続けたらサラさんとご飯行く前に倒れる。
 団長が処理した書類を確認、分類、整理、手が空けば団長より先に書類を再確認、ミスがあれば直して団長に。このサイクルを繰り返すこと2、3時間。

「終わった、よな」

「はい、終わりです。お疲れ様でした」

「おう、お前もお疲れさん。サンキューな。マジで助かったわ」

「団長に死なれたら困るので」

「今回は洒落にならない量だったからなあ。否定はしない」

「「・・・ははははは」」

 お互い引きつった顔で、乾いた笑しか出てこなかった。
 それもしょうがない事だ。本来なら数ヶ月分ほどもある書類の山を数時間で片付けたのだから。
 この国の唯一悪い所はこれだよな。って言っても、働いてる側じゃないと分からない事だけど。
 こういった書類処理は各団に割り振られるものなのだが、老が、上役共の機嫌によって割り振られる割合が変わるのだ。
 そのため、昨日の出来事は全面的にうちの団に非があるとされたらしく、書類が大量に舞い込んできたのだ。
 それと、いつもならこういう時俺じゃなくサラさんが手を出してる事を考えると、恐らくサラさんの所にも大量の書類が割り振られているのだろう。
 ちょっと、流石に腹立つよな。アリシアに、いや、王子に言ってみるか。
 あともう一つ腹立つのが、副団長だよ。あいつなんで事務仕事一切やらねーんだよ!副団長は事務仕事免除なんて決まりねーんだよ!ふざけんな!

「団長、疲れてるとこ悪いんすけど良いですか?」

「なんだ?頭痛くならない内容にしてくれよ」

 すみません、それはちょっと無理かな。

「副団長ってなんで事務仕事しないんすか?」

「・・・からだよ」

「え?嘘ですよね?聞き間違いの可能性があるのでもう一回良いですか?」

 今とんでもない回答が聞こえた気がしたんだけど?

「出来ないからだよ。事務仕事が一切。オリバーより出来ねー」

 なん、だと。オリバーより出来ない?嘘だろ?それは最早何も出来ないと同義じゃないか。

「副団長って、なんで副団長何ですか?」

「老害共がそう仕立て上げたんだよ。あいつ、王宮剣術だけは出来るからな。それに人事に関して、国王はほとんど手を出せない」

 おいおい、いよいよもって上役は何様のつもりだよ。いい加減にしてくれ。振り回される身にもなれってんだ。
 てか、そりゃうちの副団長は無能って言われるよな。老害共が自分たちの都合の良い奴を操りやすい立場に座らせてるだけだからな。
 さて、そろそろ持ち場に行くか。結局団長の手伝いやってたら訓練に参加出来なかったけど、最も心強い証人が居るから難癖は付けられないだろう。
 案の定持ち場に行くと、同僚に訓練サボっただろ、と問い詰められたので団長を手伝ってたと言っておいた。
 そいつも今日は事務仕事がある日だったのであの惨状を知っていた。そのおかげで疑われる事も無かった。
 そういえば、結局アリシアの護衛は副団長だったな〜。アリシア、何もされてなきゃ良いけど。
 ・・・あぁ、アリシアに何かしたら副団長の首飛ぶか。物理的に。その報告が無いって事は何もないって事だな。

「暇だな」

「そうだな。ところでユーゼン、魔道師団長殿は何の用だったんだ?」

「あぁ、団長とゆっくり話がしたかっただけらしい。まあ、あの惨状だったから今晩ご飯に行く約束をしてたよ」

「なるほど。相変わらずだな」

「団長の無自覚もな」

「ははは、マジかよ」

「残念ながらマジだ」

 と、いうわけだ。あの2人、うちの団でも魔導師団でも公認の仲なのだが、中々くっつかない。今隣にいる同僚のように、ヤキモキしてる奴も少なくない。
 ま、かくいう俺もあの2人の応援はしてるからな。もう長いことヤキモキしてるわけなんだが。
 もちろん、俺たちみたいに応援するやつが居れば破局しろと願ってる奴らもいる。ちなみに、そいつらは漏れなくサラさんに惚れてる奴らだ。
 一応、そいつらの誰かにサラさんの気が向く可能性なんて、カケラたりともありはしない。とだけ言っておこう。

「やあ、お疲れ様」

「「お疲れ様です!王子!」」

「硬い硬い。もう少し緩く行こうよ」

 こっち向いて言わないで下さい。

「そういうわけには。ところで、何かご用が?」

「あぁ、うん。ちょっとね。困った事が起こったから。ユーゼンに助けてもらおうかと思って」

 まさかとは思うが、アリシア絡みじゃないだろうな。流石に半日で困った事になる想定なんてしてな

「実はアリシアがね」「待って下さい」

 まさかだったか。
 王子にみなまで言うなと視線で訴えかけ、次いで離れて大丈夫か同僚に目で確認を取る。
 いや、頼むからしばらく持ち場を離れさせてくれ、と訴えに近い視線を向けた。
 同僚の反応はというと、軽く笑って肩をすくめてみせた。オッケーらしい。

「悪い。ありがとう」

「代わりに一杯奢ってくれよ?」

「ははは、こいつで勘弁してくれ」

 銀貨を1枚握らせておいた。
 改めて同僚に行ってくることを伝えて、王子と一緒に王宮騎士団の執務室に向かった。
 念のため団長に許可貰っとかないと、後が面倒だからな。
 そう考えて脳裏に浮かんだのは、ことの発端であろう副団長の顔だった。

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