ヒーロー・メダル

佐藤次郎

提案

「俺はいつまでここで寝たらいいんだよ!」
威勢の良い癇癪が部屋に広がる。
もはや医務室を抜けて広間にも響きそうな勢いである。
その声の主は勿論アルスだった。

「落ち着いて落ち着いて。体自体には影響が無いから一晩ここで様子を見るだけさ。」
子供のように喚くアルスを宥めるのはジーナスだ。
彼の得意とする回復魔法を用いて傷や骨折は修復してはいるが、それでも安全の為、様子を見ることにした。

「それじゃあ僕はこれで。あ、そうそう。これを置いてくから好きに食べていいからね。」
ジーナスは持ってきた籠入りの干し果物の盛り合わせをベッドに隣接した机に置いて、部屋を去っていった。
その足で向かう先は詰所に隣接した大きな訓練場だ。

訓練場の門を開けると、そこには鎧を着せた藁人形が立ち並び、それに剣を振るう者がいれば、重い鎧を着たままグラウンドを走る者がいたりする。

その中の魔法・射撃訓練場という施設に彼は足を踏み入れる。
魔法・射撃訓練場というのは、文字の通り魔法や射撃を訓練するための施設だ。
中には藁人形が数十体ほど並べられている。

中に入ると、一人の緑色の宝石を乗せたスタッフを持った女がいた。
ジーナスはそれに話しかける。

「やぁ、調子はどうだい?」
「まずまずといった所ね。」
そう言い放つと彼女は魔法を発動させる。
緑色の宝石が輝くと次第に周囲から拳程の大きさの火の玉が7つ現れる。
火球ファイア・ボール
火の玉は横に並べられた藁人形に全て命中し、小さな爆発を起こした。

藁人形は燃え尽きたが、木で出来ているはずの床や壁にはダメージが一つもない。
これは魔法を扱う施設である以上、床や壁には魔法で保護されている為だ。

「すごいじゃないか!これなら四級も夢じゃないよ!」
普段は落ち着いた態度を取っているジーナスが興奮する。
魔法を扱う関係上これがごく自然であることから、魔法の発動者・ネルラも驚きはしない。
彼女は四級クラスが扱う魔法を発動させたにも関わらず、不安げな表情を見せる。

「けど、ねぇ...」
その言葉だけで察したジーナスはフォローを入れる。
「大丈夫。魔法は焦って生み出す物じゃないから。実際僕の〈疲労回復リカバリー・フロム・ファティード〉だって思い付こうとして思い付いたわけじゃないんだから。」

魔法検定四級を合格するには魔法の知識の他に二つの条件がある。

一つは四級クラスが発動出来る魔法の発動。これに関してはネルラはクリアしているがもう一つが問題だった。
オリジナルの魔法を生み出す事。それもただ魔法を生み出すのでは無く、ある程度利便性があるものでなくてはならない。
その為、一から魔法を生み出す能力と柔軟な発想力が必要であった。

彼女はオリジナルの魔法の構想を練っている最中だが、中々に妙案が浮かんで来なかった。

「それならば、王立魔法学院に行ってみたらどうだい?沢山の魔法に触れる機会があるから良い刺激になると思うよ?」
「王立魔法学院?」
ネルラは首を傾げて問いかける。
「ここからなら歩いて三十分くらいの魔法学校さ。魔法検定五級以上なら誰でも出入り自由だから、多くの魔導士と協力しながら検定合格を目指せるよ。どうだい?」

それは、思っても見なかった提案だった。

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コメント

  • 虹ウサギ

    久しぶりの更新うれしいです!!

    1
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