Umbrella

高嶺

ほんとのブルー

これが私の本当の話だ。
心に大きな傷をつけた、あの日の話だ。

私はさくらんぼさんとエマさんと祇園さんを
信じたい。

だから、知ってほしい。








夕焼けで赤く染まったグラウンドに、校舎の影が落ちている。

雲行きが怪しい。


誰もいないテニスコートに私は呼び出された。


そこにはひとつの影があった。

彼女だったらどうしよう...
不安と恐怖を抱えながらも、私はそこへ向かうのをやめられない。




「西野」

現れたのは青くんだった。



この前の教室でのことを思い出して、私は
無意識に固くなる。

彼は私をーーーーー





逃げ出したい。






でも彼は何かに怯えているようだった。
周りを気にして私の方に向き直る。


そして私の肩を強く掴んだ。

「西野!よく聞いてくれ。俺、実は…」



その時、聞き覚えのある笑い声がした。
すぐに分かる。

彼女のものだ。


それに気づいた青くんの手が震えているのが
分かった。私の肩にまで伝わる。

私たちはひたすら黙って、彼女に見つからない
ように息を殺した。


何人もの足音が過ぎていく。


ほっとしたように様子を見たその時、誰か
戻って来るような気配がした。

近づいてくる!



とっさに青くんが私を抱きしめて物置の影に
しゃがみこんだ。

突然のことに頭が追いつかず、私はただ
ぐるぐると混乱して、目を見開いた。


汗が額を流れる。
私は息をしないように口を手で覆った。

苦しい。




少しずつ足音が遠ざかっていった。

私たちは今度こそ立ち上がった。
なぜか息がひどくきれていた。




「青くん、何があったの?」

彼の様子が明らかにおかしい。


青くんは苦い表情をして、うつむいていた。
そして決心したように顔を上げる。



「西野、頼むからもう笑わないでくれ」


一瞬で体の芯が凍るような気がした。

どういうこと?
青くんは何を言ってるの...



「ねえ、青くんなんかおかしいよ!どうしちゃったの?」



「それが無理なら、悪い、西野。もうお前のことは助けられない」

「どういうこと...?」





青くんは苦しそうだった。

「西野は偉いよ。お父さんの言いつけを守って
 1度だって泣いたことがない」

空が暗くなる。


「だけど、それが他の誰かを傷つけているなんて 考えたことあるか」

彼が今、精一杯なのだと分かった。




「俺は西野をいじめから助けたいって必死なのに西野はどうしていつまでも笑ってんだよ?」



ーーーーー
「もう俺、これ以上無理だ」







こんなこと思いもしなかった。

誰にも迷惑をかけちゃいけないと、笑っていればいつか救われるからと、自分の本当の思いを
隠しながら生きてきたのに。


虚勢を張った精一杯の笑顔が青くんを
傷つけていたのだ。


私が「助けて」の一言を言えないせいでーーーー




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