Umbrella

高嶺

ガールズ・ターン

彼女のふわふわした後姿をおいかけた。


無造作にバレッタでまとめられた髪を
見つめながら、これは無造作に見えるように
時間をかけたものなんだよなーなんて
どうでもいいことを考えてしまった。


彼女の淡いピンクのTシャツが夕焼けに
溶けていく。




エマさんは、初めて出会ったあの瞬間からずっと「かわいいひと」だ。






エマさんの向かった先は、古びた公園だった。

あまりに寂れていて、きっともう子供たちも
来ないのだろう。

小さなすべり台と、絡まったブランコ。


それらが私には哀しく見えた。





エマさんはまず、ブランコに近づいていった。

誰かのいたずらでぐちゃぐちゃに絡まって、
それが取れなくなったようだ。


それをエマさんは何も言わずに解き始めた。


私も、ただ黙ってそれを見ていた。



しばらくして、よし!と明るい声がした。

エマさんは元通りになったブランコに腰かけて
もう片方に私を手招きした。


彼女の横に並んで座った。


エマさんはなんだかいい香りがした。





「あたし、すっごく嬉しいんだ」

突然、エマさんがそうつぶやいたから、
私は首をかしげた。


「雫ちゃんが来てくれてよかったよ」

こうも続けた。



突然なんだろう、という不思議さよりも
私が来てくれてよかった、という言葉に
密かに感動していた。



「ありがとう!!」

響きわたるような大きな声でエマさんが叫んだ。

そしてブランコに腰かけたまま、隣の私を
抱きしめた。

彼女に抱きしめられるのはこれで2回目だ。




ありがとうは、こっちのセリフなのに。

分かっているのに声が出なかった。


でもそんなことどうでもいいくらいに、
私はただ、きらきらと光る感情に戸惑った。







「雫ちゃん、恋バナしよ」

まるで少女のようにあどけない表情で、
エマさんが笑った。

「雫ちゃんは、好きな人とかいるー?」

私はぶんぶんと首を横に振った。
そんなの、いるわけない。


「可愛いなあ雫ちゃん。彼氏は?いた?」

ありえない話すぎて、思わず笑ってしまう。

だから今度は逆に聞く。


「エマさんはいるんですか?好きな人」


すると、エマさんは急に大人に戻ったような
目になった。


「どーなんだろうね。あたし、好きなのかなあ」


誰のこと、なんて野暮なことは聞かなかった。


これは大人の恋愛だ。



ふと、そんなことを思った。



「ごめんね、急に。帰ろっか」


立ち上がった彼女の背中を見ながら、ただ漠然とエマさんは大人なんだと感じた。


振り向いた彼女の目の奥に、深い深い色が
見えた。



エマさんは何かを抱えてる。



理由もなくそう思った。




いつか、話を聞けるだろうか。

エマさんが悩みを安心して言えるような私に
なりたい。


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