Umbrella

高嶺

スタート

悲しくて涙が出るのは
心に雨が降っている、確かな証拠で
私の心はいつもどしゃ降りだ。

それでも泣けないのは、父が私に
魔法をかけたから。

私は、笑っていなきゃいけないから。










「じゃあ、これ」
さくらんぼさんに手渡されたのは、彼と同じ、  
深い臙脂色えんじいろのエプロンだった。

朝の光に照らされて、あざやかにきらめく。

「今日から、よろしくね」
さくらんぼさんがほほえむ。

エマさんが何度もうなずく。
祇園さんが軽く頭を下げる。




駄目な私は、いつまでもいつまでも過去を
ひきずっている。

忘れたいのに消えなくて

思いだすのは、あの日のことばかり。

家族のこととか、友達のこととか、
私はあたりまえの幸せを知らなくて、

だけど不幸と思いたくないから、
笑ってみせる。

私には何にも無いから。



さくらんぼさんもエマさんも祇園さんも
あの人たちとは、全然違うのに。

それでも怖い、と思ってしまうのは
私の心が汚れているからなんだろう。

大丈夫、大丈夫。

昨日私は、この人たちとなら働けるって
思ったんだ。

信じなきゃ。


深呼吸をする。

精一杯の笑みを浮かべて、私は。











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