ひつじ、ひつじ。

ノベルバユーザー206812

1つの親ひつじ。

「みんなとても心配してたのよ。
どうしたの?」

そう聞くと鹿沼はボロボロを泣き出した。

「俺…俺…もう死にたくて…」

「あの…私で良ければ話聞くから…話してみて?」


怖さなどはもうなくなっていて、無意識に寄って肩を抱いてそっとさすって話を聞いていた。


鹿沼の家庭は鹿沼が物心ついた頃から母子家庭だったらしい。


母親は毎日毎日働き、鹿沼育ててくれたそうだ。


「俺もやっと働ける年になって働き始めた頃でした。母さんに病気が見つかって…もう手遅れでした。」


亡くなった日に医者が言ったそうだ。
早く手術しておけば助かったかもしれない、と。


「聞けば母さんはもう5年も前から病気の事を知っていて、でもそんな金ないからって手術を受けなかったそうです…。」


私も1人の母親として気持ちは分からなくもなかった。でも遺された子供の気持ちは…?


「それは…辛かったわね…」


私は肩を抱いてさすることしか出来なかった。


「俺がもっと早く気づいてあげていれば…俺なんかいなかったら母さんは幸せになれたんじゃないかなって…」


鹿沼はなおも泣きじゃくる。
まるで子供のようだった。


「それは…私ももし同じ状況だったら自分の身を削ってでも子供を守るわ。それに気づけたとしても、お母様も判断は変わらなかったかもしれないじゃない。あなたのせいなんかじゃないわ。」


「どうしてですか…?助かったら一緒にいきていけるのに。」


「母親はね子供を守りたい一心で生きているものなのよ。
自分の生きがいなの。子供たちが辛い顔をしているほうが死ぬよりももっと辛いことなの。
あなたは一緒に生きていたかったと思う、お母様もきっと一緒よ。でもね、自分が病気のまま生きて、あなたに重い重い枷をつけるくらいなら自由になってほしいと思うのが母親としての愛だったんじゃないかな。」


「母さんの愛ですか…」


「そう、私もきっとそうするわ。
だからねあなたは笑っていなくっちゃだめよ。お母様の愛に応えるために。」

鹿沼は下唇を噛みこみ項垂れた。

何も言わず、今度はさめざめと涙を流してごめんなさい…と小さく呟いていた。

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く