中二病は死んでも治らない

ocean

第2話

 僕の兄、佐藤守さとうまもるは四日前の八月二十八日、トラックに撥ねられ亡くなった。のだが...


 僕の目の前に、身長約170cm程でボサボサした蒼髪、ダークブラウンの眼をした穏やかな顔をした兄さん•  •  •がいた。


 「どうしたまさる、俺の顔に何か付いているのか?まさかお前、この俺の額に宿している刻印が見えると言うのか?!」


 何事も無かったかのように平常運行の兄。


 おかっぱで二本の触覚のような毛が飛び出している蒼髪の弟、勝が兄と同様ダークブラウンの眼をこすり再度目視。唾を飲み込み、一言。

 『どうして、いるんだよ...』


 唖然として勝。無理もない。死んだ人間が目の前にいるのだから。


  「む。いちゃ悪いか?むしろ感謝すべきではないのか?お前の部屋のベッドの下にある暗黒物質ダークマターを拝借するがてら、起こしてやったんだぞ。」


 『ベッドの下のエロ本はもう一週間も前に母さんにバレて捨てられたよッ!てか何でベッドの下にエロ本があるのを知ってたのさ!!....じゃなくって、何で兄さんがここにいるの!?死んだんじゃないの!?』


  勝の質問攻めに兄の守は呆れた顔で返す


 「フッ...この右眼に宿りし神の眼ゴッツアイからすれば、お前がどこに何を隠しているのかも、全てお見通しなのだよ。あと勝手に可愛い可愛い兄を亡き者にするな。不謹慎だぞ。」


 『いやいやいや、おかしいでしょ!兄さん四日前に猫と勘違いしたビニール袋を助けようとしてトラックに轢かれて死んだんだよ?!なんで生きてるのさ!?葬式だって、昨日家族だけだけど挙げたんだよ?!なんで平然としているのさ!?』


 未だにはてなマークの守。

 
 勝は下の階にある和室へ連れて行く。そこには守の仏壇と遺影。それを置かれているのを見て守は


 「.................い、えーい.....何で俺の写真が仏壇とセットになってるのかなぁ?....これじゃあまるで、俺が仏になってるみたいじゃあないかなぁ?可愛い弟くんよ。」


 『ああそうだよ!兄さんはもう仏になってるんだよ!ところがどっこい今じゃあどっかの誰かがリビングデッドの呼び声で兄さんを特殊召喚したんだよ!』


 「いや待て勝、リビングデッドは無いだろ、せめて使者蘇生に...」


 『そんな事どうでもいいんだよ!』


 未だに状況を理解出来ていない勝。


 守に死ぬ間際の事を憶えているか聞いてみたが、そんなの知らんの一言。


 少し落ち着いてから勝は額に手を当て、考える。


 『これじゃあまるで、逆に今までの事故や葬儀が嘘のようだ。...一体、何が起こっているんだ...。』


 「おいおい見てみろよ勝!壁!通り抜けられるぞ!反復横跳びレペティションサイドステップッッッ!!」


 壁を行ったり来たりすり抜け満面な笑みの兄、守。


 うぅ、こんな時でも兄さんは兄さんだ。


 そんな兄を哀れに思う弟、勝。

 
 『兄さん、気持ち悪いから少し落ち着いてくれ。』


 「フッ...アホ毛二本生やした弟の分際でこの俺に楯突くとはいい度胸だ!反論出来るものなら拳の一つや二つお見舞いしてみるがよい。ま、この俺に触ることが出来たらの話だがな!ふははははっ!」


 ぷっつん(憤怒の音)


『ドラァッッ!!』


 瞬間、怒りに任せた勝の拳が風を切り、守の顔面を直撃。


 「ぁがあ゛ぁぁッ!!」


 クリティカルヒット。和室からリビングまで盛大に吹っ飛ぶ守。


『こ、これが男女平等パンチ...や、やったか?これできっと成仏.....』


「いっっでぇぇええ!!何しやがる!てか何故触れる!?」


 リビングに据えている椅子や本棚を倒し盛大にもがく兄が、そこにいた。


 『何で成仏しない!?そうか、気合いが足りなかったか』


 「!?...やめてください許してください勘弁して下さい暴力反対僕は平和主義者ですですから本当に勘弁して下さい」


 結構痛かったのだろう。


 アルマジロを連想させるかのようにうずくまり、産まれたての子鹿のように小刻みに震え、床を涙で濡らす兄の姿が、とても見ていられなかった。


 ガチャ


 途端、扉を開ける音と共に若い女性の声が玄関の方から聞こえた


 「ただいまー....勝兄まさるにぃ、いるの?」


 『やばい!結季ゆきの声だ!てか帰ってくるの早くね?!とりあえずリビング片さないと!あと兄さん隠れて...』

 
 「結季ィ!助けてくれよぉ〜、勝が俺のことイジメてくるんだよぉ〜」


 (何してんだァ!)


 玄関にまっしぐらの守。引き留めようとするが、ぐるぐるパンチで振りほどかれる。散らかったリビング。不登校の次男、勝。死んだはずの長男、守。それを目撃した結季は、きっとショック死するであろう———が


 「何散らかしてんの、てか学校、居なかったよね。何してんの」


 百六十手前の背丈で容姿やや端麗。触覚のような毛を一本飛び出した黒髪ショートヘアの結季。その鮮やかな碧眼へきがんはリビングを一周見渡し、真ん中に立つ勝を睨む。


 ———と、結季の背後には


 しょんぼり。


 非常に悲しい顔をした守が立ち尽くして居た。


 結季には守のことは見えていないみたいだ。


 『あーごめんごめん!学校、なんか行く気無くってさ。夏休みボケがまだ抜けてないのかな?あーリビング?ちょっと盛大にずっこけちゃってさ、あははは....』


 てんやわんやの次男、勝。続いて


 『そう言えば、帰ってくるの早いね、結季。どしたの』


 「......今日、始業式だけ。...リビング、片しておいてよ。」


 素っ気無い態度で二階に上がる結季。


 ホッとしたのか勝、倒れていた椅子を戻し、座って大きな息を吐く。


 「うぅ...結季の奴、ずっと無視するぅ!まるで俺の事見えていないみたいだよぉ。」


 半べそにして守、リビングに戻り倒れていた椅子を戻し座り込む


 『いいから片付けろっ。...まだ定かではないけども、兄さんを見えるのは僕だけなのかもしれないな。なあ兄さん、本当に何も憶えてないの?』


 「ずずぅっ...だから何も憶えてないってぇ」


 テーブルに置いてあるティッシュを一枚つまみ鼻をかむ涙目の守。


  『とりあえず、兄さんが死んだ場所に行こう。きっと何か思い出すかもしれないし』


 早々にリビングを片付け、守と家を出る。
 

 「なあ勝、本当は暗黒物質ダークマターまだ持ってるだろ。見せろよ」


 『黙れ』


 二人は事故現場へと足を運ぶのであった———
 

 


 
 

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