聖剣を抜いたのが僕でごめんなさい!
第三十二話 知りたくないから行かないのです。
「ほんならそろそろ帰るわ!」
第64第若獅子会議メンバーにリーンとタケルを加えた7人は気まずい雰囲気を拭い去れないでいた。
「何や暗いで!わいは大丈夫や!前線には立てへんかも知れんけど、必ず魔王討伐の力になって見せるで!」
無理に明るく振る舞って見せてるが、唇を噛み切った跡がある。1人だけ落ちた事が相当悔しかったのだろう。
相当な覚悟で挑んだシューゴに対して俺は、ここに来るまで選ばれた事にさえ不満を感じていた。
確かに聖剣を持っているのだから、選ばれるのは当然なのかも知れないけど、俺が今からやる気を出した所でシューゴのやる気には遠く及ばない気がするのだ。
俺は魔王が怖いし、前線で傷だらけになり、下手すりゃ死んでしまう事が恐ろしい。この世界は好きだけど、命に代えても守れるかと聞かれたらこれっぽちも自信が無い。
自分のような、体たらくな勇者が存在していいのか。
シューゴやリーンのような人間こそ本来勇者に相応しいのではないか。
彼を見ていると心が苦しくなってしまうのだった。
「特にユタロウ!頑張るんやで!」
「、、え」
「お前はダントツで弱い!ここに居るのがおかしいくらいや!だけど何故か誰もお前に勝たれへん。それはスキルの力だけやない。お前の存在そのものをこの世界が肯定してるからや!」
シューゴはまるで自分の思考を覗いているかのようだった。その言葉の全てが正解では無いのだろうけど、それに限りなく近い解答のように思えて、見えざる意思に呼応するように心臓が強く脈打った。
「世界が俺を肯定してるか、、」
「確かに!そうでもなきゃユタロウさんのようなビックリ強運人間は誕生しないですよ!」
シューゴを励まさないといけないはずが、何故か自分が励まされてしまっている。
これは覚悟なのか、ただモチベーションが上がっているだけなのか。かつてないほど熱い気持ちがフツフツと湧き上がる。
「よーし!俺は残るぞ!最後までこの場所にしがみついてやる!」
「そや!その息や!」
「ユタロウにしては、珍しくいい心がけじゃない!」
「ふん、、足を引っ張ったら承知しないぞ」
「僕も頑張ります!」
「しょうがないわねー。それじゃあ全員で最後までしがみついちゃいましょうか? 」
コンちゃんの最後の追い打ちで一致団結。唐突に2次審査を前にして最高のモチベーションとチームワークが生まれる。
はずだった。
「本当に皆なら全員で突破できると思うよ!」
「タケルさん?  」
べルルが言葉の使い方からタケルの異変に気付く。
「『皆なら』じゃなくて『皆となら』だろ? ははーん、、俺は余裕で合格出来るから心配無用って事か? 言いますねー!」
ユタロウが少しおどけて見せるも、タケルの表情は愛想良く微笑んだままフリーズしている。
「ごめん、、僕はここで試験を棄権するよ。魔王討伐の前にどうしても行かなきゃいけない場所があるんだ。」
「なな、何言ってんだよ!? 」
ユタロウは思わず声を出して驚くが、同様に一同も驚きを隠せなかった。
次の言葉をそれぞれが探しているとリーンが一歩前に出る。
「ついでに言っとくけど私もタケルと一緒に棄権よ!もう手続きは済ませてあるわ!表面上は2人とも『一次審査における精神障害があったため』ってなってるけど、それはデタラメだから心配しないで!」
もう訳が分からなかった。
2人揃ってこのタイミングで棄権だなんて、どういうドッキリだ。
病的な棄権とは言っても今回の招集レベルは『赤紙』。罰金にして最低でも10万グルド以上にはなるはずだ。
日本円に直したら1000万円以上って事になる。
「貴方達何を企んでいるの? まさか2人でランデブーってわけじゃ無いわよね?」
いち早く冷静さを取り戻したコングは、いつものように冗談交じりに問いただす。
タケルは珍しく少し考える間を置き、右手で頭を掻きながら慎重に言葉を選んでいた。
「しばらくは2人で行動を共にするってのは正解かな。ある意味ランデブーかも知れないね」
「ちょ、ちょと、ちょっと!何言っちゃってるのあんたわ!!そんなんじゃないわよ!!」
リーンは顔を赤らめ、素早く否定するも、ユタロウの顔を見るや気まずそうに視線を逸らした。
その表情に俺の心臓はキュッと何かに握り締められたように収縮したのだった。
リーンはいつも側に居るのが当たり前で、自分が1番彼女を理解している。そう思っていたのはもしかしたら、ただの慢心だったのかも知れない。
彼女だって年頃の女性なのだ。ふとした瞬間に心がけ揺れ動くなんてあって当然じゃないか。
ましてや相手が[タケル・リクドウ]なら尚更だ。名声・実力的にも文句の付けようがない理想のカップルだ。
俺は2人が棄権した意味より、2人がこれからしばらく共にする事に衝撃を受け、激しく嫉妬をするのだった。
「、、タロウ!ユタロウってば!」
リーンが自分の名前を連呼しているのに気付いた時には、彼女の顔が目と鼻の先の位置にあった。
彼女はそのまま口元を耳まで持って行くと、誰にも聞こえない様に囁きかけてきた。
「ユタロウには本当の事を話したい。今晩お城の裏にある湖の休憩小屋で待ってるわ。絶対来て、、」
そう早口で言い終わると。「あんたはいっつもボケっとしてるんだから!」と下手くそなフェイクを入れた。
「ま、わいはともかく!タケルとリーン王女の事や。何かしら大きなもん背負わされてんねん!ここは信じて見送ろうや!」
「まあ、そうね。国家機密に関わるのはなんか面倒くさいわ!はい!終わり終わり!」
コングのオネエ言葉には場を和ませる力があった。また、持ち前のリーダーシップも加わり、誰もそれ以上深入りはしなかった。
「ふん!帰りたい奴わさっさと帰ればいい!不毛な時間だ。俺は戻るぞ。」
「そうね。そろそろお開きにしましょうか。」
「せやな!ちょうど夜行犬バスの時間や。ほなさいならや!」
シューゴを見送ると、俺たちは軽く挨拶を交わした後、それぞれの宿舎へ戻った。
帰り道、べルルはタケルとリーンの棄権についてまるで陰謀論者の様に推理をしていたが、俺はそれを全く聞き流すのだった。
『今晩、お城の裏にある湖の休憩小屋で待ってる』
リーンは自分に何を話そうとしていたのだろう。
そう考えながら宿舎の窓から、昇る朝日を眺めていた。
一次審査通過者:94名
脱落者:106名
第64第若獅子会議メンバーにリーンとタケルを加えた7人は気まずい雰囲気を拭い去れないでいた。
「何や暗いで!わいは大丈夫や!前線には立てへんかも知れんけど、必ず魔王討伐の力になって見せるで!」
無理に明るく振る舞って見せてるが、唇を噛み切った跡がある。1人だけ落ちた事が相当悔しかったのだろう。
相当な覚悟で挑んだシューゴに対して俺は、ここに来るまで選ばれた事にさえ不満を感じていた。
確かに聖剣を持っているのだから、選ばれるのは当然なのかも知れないけど、俺が今からやる気を出した所でシューゴのやる気には遠く及ばない気がするのだ。
俺は魔王が怖いし、前線で傷だらけになり、下手すりゃ死んでしまう事が恐ろしい。この世界は好きだけど、命に代えても守れるかと聞かれたらこれっぽちも自信が無い。
自分のような、体たらくな勇者が存在していいのか。
シューゴやリーンのような人間こそ本来勇者に相応しいのではないか。
彼を見ていると心が苦しくなってしまうのだった。
「特にユタロウ!頑張るんやで!」
「、、え」
「お前はダントツで弱い!ここに居るのがおかしいくらいや!だけど何故か誰もお前に勝たれへん。それはスキルの力だけやない。お前の存在そのものをこの世界が肯定してるからや!」
シューゴはまるで自分の思考を覗いているかのようだった。その言葉の全てが正解では無いのだろうけど、それに限りなく近い解答のように思えて、見えざる意思に呼応するように心臓が強く脈打った。
「世界が俺を肯定してるか、、」
「確かに!そうでもなきゃユタロウさんのようなビックリ強運人間は誕生しないですよ!」
シューゴを励まさないといけないはずが、何故か自分が励まされてしまっている。
これは覚悟なのか、ただモチベーションが上がっているだけなのか。かつてないほど熱い気持ちがフツフツと湧き上がる。
「よーし!俺は残るぞ!最後までこの場所にしがみついてやる!」
「そや!その息や!」
「ユタロウにしては、珍しくいい心がけじゃない!」
「ふん、、足を引っ張ったら承知しないぞ」
「僕も頑張ります!」
「しょうがないわねー。それじゃあ全員で最後までしがみついちゃいましょうか? 」
コンちゃんの最後の追い打ちで一致団結。唐突に2次審査を前にして最高のモチベーションとチームワークが生まれる。
はずだった。
「本当に皆なら全員で突破できると思うよ!」
「タケルさん?  」
べルルが言葉の使い方からタケルの異変に気付く。
「『皆なら』じゃなくて『皆となら』だろ? ははーん、、俺は余裕で合格出来るから心配無用って事か? 言いますねー!」
ユタロウが少しおどけて見せるも、タケルの表情は愛想良く微笑んだままフリーズしている。
「ごめん、、僕はここで試験を棄権するよ。魔王討伐の前にどうしても行かなきゃいけない場所があるんだ。」
「なな、何言ってんだよ!? 」
ユタロウは思わず声を出して驚くが、同様に一同も驚きを隠せなかった。
次の言葉をそれぞれが探しているとリーンが一歩前に出る。
「ついでに言っとくけど私もタケルと一緒に棄権よ!もう手続きは済ませてあるわ!表面上は2人とも『一次審査における精神障害があったため』ってなってるけど、それはデタラメだから心配しないで!」
もう訳が分からなかった。
2人揃ってこのタイミングで棄権だなんて、どういうドッキリだ。
病的な棄権とは言っても今回の招集レベルは『赤紙』。罰金にして最低でも10万グルド以上にはなるはずだ。
日本円に直したら1000万円以上って事になる。
「貴方達何を企んでいるの? まさか2人でランデブーってわけじゃ無いわよね?」
いち早く冷静さを取り戻したコングは、いつものように冗談交じりに問いただす。
タケルは珍しく少し考える間を置き、右手で頭を掻きながら慎重に言葉を選んでいた。
「しばらくは2人で行動を共にするってのは正解かな。ある意味ランデブーかも知れないね」
「ちょ、ちょと、ちょっと!何言っちゃってるのあんたわ!!そんなんじゃないわよ!!」
リーンは顔を赤らめ、素早く否定するも、ユタロウの顔を見るや気まずそうに視線を逸らした。
その表情に俺の心臓はキュッと何かに握り締められたように収縮したのだった。
リーンはいつも側に居るのが当たり前で、自分が1番彼女を理解している。そう思っていたのはもしかしたら、ただの慢心だったのかも知れない。
彼女だって年頃の女性なのだ。ふとした瞬間に心がけ揺れ動くなんてあって当然じゃないか。
ましてや相手が[タケル・リクドウ]なら尚更だ。名声・実力的にも文句の付けようがない理想のカップルだ。
俺は2人が棄権した意味より、2人がこれからしばらく共にする事に衝撃を受け、激しく嫉妬をするのだった。
「、、タロウ!ユタロウってば!」
リーンが自分の名前を連呼しているのに気付いた時には、彼女の顔が目と鼻の先の位置にあった。
彼女はそのまま口元を耳まで持って行くと、誰にも聞こえない様に囁きかけてきた。
「ユタロウには本当の事を話したい。今晩お城の裏にある湖の休憩小屋で待ってるわ。絶対来て、、」
そう早口で言い終わると。「あんたはいっつもボケっとしてるんだから!」と下手くそなフェイクを入れた。
「ま、わいはともかく!タケルとリーン王女の事や。何かしら大きなもん背負わされてんねん!ここは信じて見送ろうや!」
「まあ、そうね。国家機密に関わるのはなんか面倒くさいわ!はい!終わり終わり!」
コングのオネエ言葉には場を和ませる力があった。また、持ち前のリーダーシップも加わり、誰もそれ以上深入りはしなかった。
「ふん!帰りたい奴わさっさと帰ればいい!不毛な時間だ。俺は戻るぞ。」
「そうね。そろそろお開きにしましょうか。」
「せやな!ちょうど夜行犬バスの時間や。ほなさいならや!」
シューゴを見送ると、俺たちは軽く挨拶を交わした後、それぞれの宿舎へ戻った。
帰り道、べルルはタケルとリーンの棄権についてまるで陰謀論者の様に推理をしていたが、俺はそれを全く聞き流すのだった。
『今晩、お城の裏にある湖の休憩小屋で待ってる』
リーンは自分に何を話そうとしていたのだろう。
そう考えながら宿舎の窓から、昇る朝日を眺めていた。
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