人間不信様のハーレム世界

和銅修一

灼熱の暴君

「ここが天使共の拠点か。隠れる気ゼロだな」
 巨大な門に白い建物が並び建つ町。これはホグアが上空ですぐに見つけることが出来た。
「どうするっすか? 思ってたよりうじゃうじゃいるっすけど」
「別に多くても少なくても変わらない。正面突破だ」
 目の前の門には二人の天使が目を皿にして周囲を警戒している。だがそんな彼らにも死角はあった。
 それは頭上。
 空を飛べるが故にそこから敵が来るなどとは思いもよらず、一瞬にしてその場は一人の男に制圧された。
「さて、今ので俺らの存在に気付いてくれるといいんだがな」
 赤いコート、赤い髪、琥珀色の目。手にはガントレットが装着されているその男は悠斗とホグアがリンクした姿。
 灼熱の炎を上空から浴びせ、門番を黙らせて門の上に立ち拠点全体を眺めていた。
 確認するのは先ほどの攻撃で発した爆音に反応しない天使。
 よく見てみると真ん中にある白くて大きな聖堂。ここにいる天使だけが動きを見せない。
「あそこか。にしても思ったよりも来たな」
 エルがどれだけ天使たちにとって重要な存在なのかが伺える。
「何者だ! ここは我々天使の領域だ。それ以上蛮行を続けるというのならこちらもしかるべき対処を取らせてもらう」
 一体の天使が代表として悠斗へ近づき、低く大きな声で忠告をした。
 だがそんな事で止まる悠斗ではない。
「取れるものなら取ってみな。俺は今、最高に腹が立ってるんだ邪魔をするな」
 悠斗は怒りを込めた声で威嚇をして両手を広げて目の前に広がる天使の群れに向けた。コートはそれに応じてまるで意思があるかのように動き出しそれと同じような形へと変貌した。
 両手、そしてコートで出来た両手の中心に赤い球体が発生してそれはレーザーのように発射された、天使達を吹き飛ばした。
「やるな。まさかあれを咄嗟に防ぐとは。中々鍛えているようだな」
「き、貴様……。何が目的でこんな事を。神が黙っていないぞ!」
 忠告をしてきた隊長格らしき天使は先ほどの一撃で失くした右腕を庇いながら怒りと絶望が入り混じった表情を浮かべて叫んだ。
 だがそんな叫びを悠斗は笑い返した。
「神? 残念だがそいつは俺が殺す。その前にお前らは俺たちの前から消えてもらう」
「全隊員羽を展開! 命を賭してこの男を止めろ」
 残った天使はその一言で更に羽を輝かせ戦闘態勢に入ったがどの天使も次の瞬間戦意を失った。
 その原因は奮起させた本人が悠斗のコートに地面に叩きつけられ、それ以降ピクリとも動かなくなったのを目の当たりにしてしまったから。
「命? そんな言葉軽々しく口にするな。お前は人を殺したことがあるのか偽善者共。命を賭けて戦うなら命を奪う覚悟が必要だ。それが出来ていないお前らは敵ではない」
 圧倒的な力の差に群れていた天使も散り散りになり、残すは聖堂にいる者のみとなった。
「手応えがないな。あの二人は天使の中ですば抜けて優れていただけかそれともあの聖堂に強い奴が集まっているか……どちらにせよ行くしかないか」
 だがあの光線を放つ訳にはいかない。あそこの守りが厳重だということはエルがいるという事。外からの攻撃は出来ない。
 敵がいると分かっているのに中へと踏み入らなくてはいけない。罠を仕掛けられている可能性が高いがそれでも悠斗は歩みを止める事なく堂々と聖堂に入った。
「ここまで来るとは思いませんでした。しかし、今は我々天使の宿願叶おうというところ。邪魔はしないでいただきたい」
 孤島でのあの天使がそこにはいた。入るや否や武器を手に取り、悠斗へ殺意を表した。
「また会ったな天使。ここにいるのはお前だけか? だとしたら拍子抜けだな。襲って来た連中も逃げ出す始末だし」
「そうですか。ならば急がなければ行けませんね。あの人が来てしまう前に。しかし、貴方はエルさんを連れ戻しに来たようですが本人は我々に協力をしてくれると言っていますよ」
「は? 何を……」
 ただの虚言かと思ったが突然下から声が聞こえた。聞いているだけで穏やかになる不思議な声が。
 その声は明らかに連れ去られたエルのもの。聞き間違える訳がない。
「聞こえましたか。これは彼女の歌声、これが終われば奇跡が起こり世界は平和で満たされる」
「マジでお前ら何を企んでやがる」
「この世界から異形を消す。我々……いや全ての者の願い」
 無情にも誰に向けられた分からない歌声は静かな聖堂に響く。

「人間不信様のハーレム世界 」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く