人間不信様のハーレム世界

和銅修一

交渉

「よしっ。これだけあれば十分だろ。ほら、お前も早く支度を済ませろ」
 ワインが棚に並べられている貯蔵庫でヴァーボックが率いる海賊団を抜けることを決意した青年二人は慌ただしく荷造りをしていた。
「分かってるって。一応これを貰っときたかったんだ。ここじゃあ必要だろ」
 そう言って彼は数十個の実が入った小さな皮袋を見せつけてそれを更に大きな荷物袋へと詰め込む。
「それもそうだが急げよ。外が静かで逆に奇妙だ。俺たちがこうしている間に何かあったかもしやない」
 海賊の占拠した場所で笑い声一つ聞こえないというのは問題が発生したことを意味している。
「大丈夫だ。荷物はこれで最後だ。さっさとここから抜け出そうぜ」
 限界まで空気を入れた風船のようにパンパンに膨らんだ袋を軽く叩いてそれを背中に担いで貯蔵庫から出ようとその戸を開けると見知らぬ男性と表情が硬い少女が行く手を阻まれていた。
「なんだ、まだ子供じゃないか。ヴァーボックじゃないのか」
 子供、と言われて多少頭に来たが相手が大人である以上文句を言える立場ではない。
「他に怪しい奴はいないのか?」
「この二名以外動いている者は地下にいるメルトさん達だけです。他は悠斗様が気絶させたまま動く気配はありません」
 王都に誰もいない事を確認した時と同じシステムを再び使うが結果は変わらず、探し求めている者はいないらしい。
 ちなみに殺さなかったのは彼らから情報を引き出そうとしたからなのだが頬を叩いても起きる気配がなく、こうして青年の所まで来る羽目になったのだ。
「だ、誰だお前ら! 俺らはここから出るんだ。邪魔をするなよ」
 悠斗は背中に抱えられた袋を見て察した。
 道理であの場にいなかった訳だ。
「ふ〜ん。海賊やめて何処か行くつもりか?ならヴァーボックの居場所を教えてくれ」
 この王宮にいないとなると何処かに出かけたとしか考えられないが、その何処かが分からない以上悠斗達は手の打ちようがない。
「嫌です。確かに僕らはここをやめて抜け出すつもりですが、貴方たちにそれを教えてこちらに得があるとは思えません。それに下っ端の僕らに船長の居場所を聞くこと自体間違っています」
 何せ海賊は自由気まま。
 多くの命を預かっている船長であってもそれは変わらず、上層部の者でも知らないだろう。
「得はある。まずは上で待機している仲間にお前らに手を出さないように言おう。それと全てが終わったら報酬金を払うつもりだ」
 金ならレイナが吐いて捨てるほど持っているし今の彼らが自分の脅威になるとは思えないので最初から逃がすつもりだが海賊だった以上タダでは返せない。
「破格の条件ですが、僕らは船長が何処へ行ったのか知りません。なのでそこをどいてくれませんか?」
 海賊を抜け出すのはバイトを辞めるのとはまるで違う。
「え? 多分俺、船長がいるとこ知ってるぞ」
「本当か?え〜と……」
「カイだ! そんでもってこいうが俺の相棒のシャウ。それよりお前は誰だ!名乗りもしないで偉そうにしやがって」
「すまんな。俺は悠斗、それでこいつがレイナだ。カイはどうして船長がいる場所を知ってるんだ」
「牢屋の警護を任される前、この王宮の中を探索してたら地図を見つけたんだ。それが何なのかその時は分からなかったけどきっと宝の地図だったんだ。船長はそこに向かってるんじゃないのかな?」
「それって予想じゃないか。第一なんで一人でそんな所へ行くんだ。ここの警護にこんな人数でするのもおかしい」
 全て悠斗によって戦闘不能にされたが団員全員がここに配置した理由が分からない。
「ならカイが言ってる事はあながち間違ってないかもしれないな。そもそもお前らはどうしてヴァーボックが人魚族襲うのか聞いたことはあるか?」
「人魚達が隠し持っている秘宝を奪う為としか聞いていません」
 つまりはその秘宝についてはヴァーボック、それと人魚族の一部しか知らない。
「カイ、地図の場所を覚えているか?今すぐ出発したい」
 秘宝を奪われてからでは遅い。
 何としてでも先に秘宝を手にしたいのだ。
「覚えてるけど条件がある。終わったら俺が海賊としての一歩を踏み出す為に船をくれ。それもとびっきりデッカいやつ」
 オラスほどではないが、二人には勿体無いくらいの代物が何らかの方法で海の底で停泊していたのをふと思い出す。
「船か〜。詳しくはないがここら辺に赤くて大きなやつがあったな。それならどうだ」
 人魚族の物でも悠斗達の物でもなく、いきなり人魚を襲う野蛮人が乗っていた物だがそれでもいいか? と聞くと無駄に大きく縦に首を振ってカイは笑って答えた。
「交渉成立だ」
 握手を無駄に大きく上下に激しく動かしてカイとシャウと一時的に組むことになった。
 目的は海賊団船長ヴァーボックの討伐。
 多くの海賊が床に伏したまま動かない王宮の廊下を走り、四人は秘宝の元へと向かう。

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