人間不信様のハーレム世界

和銅修一

動く

「私たち人魚族は海の底で陸の人と接することなく、ひっそりと暮らしていたんですけど、突然大勢の海賊たちが攻めてきたんです」
「攻めてきた?海の底にか」
 海賊といったら海の上で戦う奴らだ。勿論、ゲーム内にも敵として出てきた事があるがあの時も船の上で戦うという趣向で海底に攻めてくるなんて聞いたこともない。
 それこそまるで海底エリアは関係ない。あそこは観賞用のエリアだった。
「はい〜。酸木の実をたくさん持って来て、水中用の船まで用意して攻めてきたんです〜。昔ほどの力がない私たちはその海賊にやられてしまい、逃げるのがやっとでした」
 伝説上の人魚は嵐を起こしたり、歌声一つで船を沈めたり出来たらしいが海賊に縄張りを追い出されるまでに衰退してしまったらしい。
 特にこのお姫様を見ているとどうしてもそう思ってしまう。
「計画的ですね。何らかの目的があって攻めてきたと考えるのが妥当でしょう」
 でなければ酸木など持ってこないだろう。その木の実一つで軽く一夜分の酸素をまかなえるのだから。
「海賊といったら宝っすよ。金銀財宝的なのを奪う為に攻めてきたんっすよ!」
「わざわざ、海底にか?準備に手間が掛かるし、何処かの城から盗み出した方が楽じゃし儲かるじゃろ」
 特に海賊や山賊というのは金にうるさいし、あまり深く考えずに行動する。
 そんな奴らなら少し危険でも儲かる方を選ぶはずだ。
「あの〜、それがリーダーのヴァーボックさんが大声で“宝は何処だ〜”って言ってましたからその人の言う通りだと思います〜」
「ほ、本当か?」
「本当です〜」
 まさかの正解に唖然としてしまい、横で当てた本人を自分でも驚いていた。
「海賊エリアか。あそこに宝があるなんて知らなかったな」
「多分、人魚族に代々伝わる宝の事だと思うんですけど……」
「その宝とはどんな物ですか?」
「すいません。それはお父様しか知らないんです。聞こうにも今はその海賊たちに捕らえられていて」
「そうか。お前らの住処を占拠して時間を掛けててでもその宝が欲しいらしいな」
 幸い、宝の在り方が分かるまではメルトの父は殺されないだろうが、海賊は残忍だ。知ればその首を刎ねるだろう。
「大体の事はわかった。時間が惜しい。今すぐ動くぞ。メルト、あの木の実はあとどれくらいある」
「え、え〜と四つです〜」
「なら十分だ。レイナ、お前は俺とメルトの三人で占拠されたこいつらの住処に偵察しに行くぞ」
「はい。悠斗様」
「残りは空から海賊が海にいないかをチェックしてくれ」
 ホグア以外の飛べない三人はオラスの背中に乗ってもらう。
「待ってくれ主。空の偵察なんて眼鏡っ娘一人で足りるじゃろ」
「アリアさん。これは悠斗様が決めた事です。それに木の実の数は限られてます。私は機械ですので必要ないですが貴方は違うでしょ」
 既に海賊がこの木の実を根こそぎ回収している可能性が高いのでメルトが持っている四つでこれからどうにかしないといけないと考えるべきで一人のわがままで減らす物ではない。
「むぅ……すまん。少々熱くなり過ぎた。しかしレイナよ。主に何かあったら許さんからそのつもりでおれよ」
 鋭すぎる目で睨みつける。
「承知しております。そちらも気をつけて」
「みなさん仲が良いんですね。羨ましいです〜」
「当たり前じゃ。ここにおるのは主を中心として集まったメンバーじゃから結束力はドラゴンの鱗より硬い。海賊なんて蹴散らしてやるわい」
 何故か仲間を睨んでいた人が胸を張って自慢をしているが、確かにこのメンバーは海賊とは違い、平等の立場で中々居心地がいい。
「争い事は避けて話し合いで解決したいのですが……」
「それは無理ですよ。海賊は自由奔放で人の話なんて一切聞かないと先生から聞いてますから」
 魔法学校でも一般常識をやるらしく、海賊もその一環として習っていたと言う。
「……そうですね。ここは心を鬼にしてメルトさん達を助けましょう。ですが、無闇な殺傷は控えて下さいよ悠斗さん」
 いつもの聖職者らしい事ばかり言ってくるがあの事件などがあってからは懲らしめなくてはやめない人もいると学習して、一方的に戦いを拒否することはなくなった。
「ああ、心掛けてみる」
 俺だって人を殺したいわけじゃない。この世界に法律がないから何でもしていいいわけではない。
 それでは奴らと同じだ。
 この世界でもやってはいけない事はあり、それはしない。それがここで生きる者としての務めだ。
「じゃあ、早速動くぞ。目的は海賊を追い払うことだ。あまり無茶はするなよ」
 各自、悠斗が決めた事を成す為にすぐに動いた。

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