人間不信様のハーレム世界

和銅修一

人魚の涙

「おー、明るくなってんな。ミノスがやってくれたんだな。やればできるじゃないか」
 海の底にいるのにまるで夏の昼間みたいに眩しい。これなら暗闇で迷うことはない。
「でも眩しすぎますよ〜。あなたは寝てましたけどこうなる前にピカってなって大変だったんですかね〜」
 目が痛いと訴えてきたメルトは今だに目を開けることが出来ないでいる。人魚は地上に出ることがあまりないため、光には弱いらしい。
 仕方ないのでランタンは置いて行き、手を引っ張って誘導してあげている。
「大目に見ろ。魔法が出せただけでマシだ」
 あの学園長から聞いた話だが校舎が全壊しそうになりそうになった事もあるらしい。
 さらにミノスの母親も同じように騒ぎを起こしまくっていたと愚痴をこぼしていた。
 ならばこの程度なんら問題もない。この海が蒸発するよりかは可愛いものだ。
「それにしても何処に向かってるんですか?海は広いんですよ。闇雲に歩いても駄目なんですから私の目が回復するまで待ってくださいよ〜」
「当てはある。お前を待ってたら俺の仲間が心配するからな。まずはあいつらを安心させてやりたいんだよ」
 当てはここに来てからずっとつけているリンクリング。ここからいつもの赤い糸のようなものが出ている。
 これを辿ればきっと合流できるはずだ。
「優しいんですね。私の話もまともに聞いてくれましたし」
「別に普通じゃないか。話ぐらいなら誰にでも聞けるさ」
「でも私は異形なんですよ…」
 人の姿をしていてもそれだけで恐れられる。この世界では当たり前のことなのだが悠斗にはそれが理解出来ない。
「確かにそうだが俺にとってはその方が好都合だ。人間なんて信じられねーからな」
「……変わってますね」
 彼女には悠斗は人間を恐れ、異形にすがるおかしな人に見えただろう。
 だが実際そうなのだ。
 誰の目から見ても悠斗はおかしい。情緒不安定というわけではないのだが頭のネジが一つ外れてしまっているかのようで何故かそれが脅威に感じられる。



「ほら、あいつだ」
 メルトの目が回復して歩き続けること数分。見覚えのある顔がこちらに近づいて来ていた。
「悠斗様、ご無事で何よりです。それでお隣の方は?」
 あれ? なんか目が怖いけど気のせいだよな。きっと海の中だから調子悪いんだろう。
「ああ、こいつは人魚のメルトだ。一応姫様らしいが詳しい話は地上に出てからにしよう。いつまでもこんなところにいたくねーからな」
 酸木の効果が切れるのがいつか分からない以上長居は避けたい。
「そうですね。では私が案内いたします。ここまでのルートは記憶データに保存してあります」
 流石のメルトも人型の機械は見たことがないらしく後ろをついて行く間は黙り込んで様子を観察していた。
「着きました」
 十分程度歩いてやっとの思いで砂浜へと戻ると仲間たちが全員で迎えてくれた。
「あ! 帰って来たっすよ」
「神のご加護のおかげですね」
「何を言う。主の実力だ。神など関係ないわ!」
「あれ? 私の魔法は? 結構頑張ったつもりなんですけど…」
 やはり落ち着く。
 人間といるより彼女らと一緒にいて他愛ない話をする方が有意義な時間を過ごせる気がする。
 いや、気がするじゃないか。俺にとってこいつらと過ごす時間は大切な時間になっていたんだ。
「ふっ、相変わらずだなお前らは。先にこいつを紹介しておくぞ」
 レイナには既に紹介済みだが他のみんなにはまだ何も説明していないので人の姿になったその背中を押して前に出させるとぺこりと礼をした。
「メルトといいます〜。これでも一応人魚でお姫様やってます。そして突然なんですけど私たちを助けてください」
 突然のことで唖然としているがお互い自己紹介を終えて円になって座ることした。
「で? 具体的にはどういうことなのだ」
 真っ先に口を開いてたのはやはりアリア。
「はい。実はつい最近、私たちの住んでいるところに海賊が攻め込んで来たんです」
 悠斗が海を歩いて来たようにアイテムを使えばいとも容易くできてしまう。
「海賊?なんで海賊が人魚を襲ってんだよ。普通逆じゃないっすか。人魚は船を沈める異形って聞いたことがあるんすけど」
「それは昔のことです。今は人間と共存すると決めています」
「ならどうして襲われたのですか?」
「私たち……人魚が代々受け継いで来た宝を奪いに来たそうです。宝はどこだと叫んでいたので…」
「なるほど、ちなみにメルトさんは宝のありかについて何か存じておりますか?今後の対策に役に立つかもしれません」
「た、助けてくれるんですか‼︎」
 今の一言は流れ的にそういう意味だ。
 メルトは表情が一気に明るくなった。
「まあ、悠斗様がやると言っているのですからやらないわけにはいけません」
 他のみんなも頷いてくれている。
「ありがとうございます〜皆さん」
 その優しさにボロボロ涙を流した人魚は自分が話せること全てを話すことにした。

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