人間不信様のハーレム世界

和銅修一

魔帝の称号

「何あの気色悪いモンスター」
 トートは初めて見たギランカに怖気ずいていた。
 他の生徒も同様に顔を真っ青にしている。
「皆ものしっかりせい! 奴らを倒さねば都市におる者達が危険にさらされるのだぞ」
 都市に残っているのは魔道士でない子供や女ばかり、本部の役員や本部長もいるがこの大量の数を相手にすることは不可能。
 だからこそシグダリアが率いるこの生徒と教師たちが食い止めなくてはいけないのだ。
 それを老いた体で全員にできるだけ大きな声で伝えた。
「が、学園長……」
 トート、いや他の生徒や教師もこんな学園長は見たことがなかった。
 いつも温和で声を荒げることなく、優しい口調の人も戦いとなると豹変する。
「そ、そうだ! ここで俺たちが食い止めるんだ」
 一人の男子生徒が立ち上った。
「俺もやるぞ」
「私も!」
 続々と声を上げる生徒たち。ギランカへの恐怖は消え去り、闘志だけが湧き上がる。
「さすが学園長ね。一言でみんなの雰囲気が変わった」
 これも学園長の人徳があってこそだろう。
「これは私も負けてられないわね」
 これは本部からの緊急クエストだ。もちろん報酬はある。
 報酬は山分けだが、公平を期すために活躍が大きかった者がより多くの報酬が貰えるようになっている。
 ここに来る前の説明で学園長自身がそう言っていた。
 これは生徒のやる気を上げるためだろうが、今はその効果より学園長の言葉で都市のみんなを守るという使命感が生徒たちの原動力となっている。
「体の側面を狙うのじゃ。口だと魔力を吸われてしまうから気をつけよ」
 学園長のアドバイスが飛び交う中、魔道士とギランカ軍団の戦いは激化していった。



「ふぅ……」
 あれから一時間ほど戦いを続け、ギランカはほんの少し引き下がって行った。
 これを機に学園長が率いる本隊は後ろに下がって代わりに今は第二隊が前に出ている。
 だから学園長やトート、その他のみんなも体を休めて補助隊が傷を負った人の手当に専念している。
 しかし負傷者が少ないので第二隊の応援として行った者もいて補助隊は少なくなっている。
「流石、学園長ですわね。ここまで負傷者を抑えるとは」
 トートは素直に関心した。初めての相手、初めての団体戦でここまでできたのは彼の功績であると認めざるをなかった。 
 学園長の叱咤しったがなくては生徒は動けず、ギランカの餌となっていただろう。
「本当に凄いよね学園長は」 
 トートが学園長を感嘆していると小さな杖を持った細い体の男の人が隣に座ってきた。
「ケリア先生」
 ケリアと呼ばれたこの人はトートの担任の先生で優等生である彼女の様子が気になって話しかけてきたのだ。
「どうだった初めてのギランカは」
「正直に言いますと、凄く怖かったです。見た目というよりもあのモンスターから放たれる雰囲気が……。ですが学園長のおかげでなんとかなりましたわ」
「魔帝の称号は伊達じゃないねいたいだね」
「先生、その魔帝とはなんですか?」
「学園長が昔、ある戦争で武功をあげてお偉いさんからもらった称号だよ。その称号のおかげで魔道書は簡単に入るし、クエストにも困らない。本当に衰えないし僕には一生勝ち目がない凄い存在だよ」
 何か遠いものを見るように学園長の方を向いた。
「確かに学園長はお強いですけど、ケリア先生も負けず劣らないと聞きましたよ」
 学園長を除けば学園最強の教師と彼は生徒から密かに囁かれている。
「あのドラゴンもお一人で倒したとか」
 これは噂ではない。ちゃんとケリア一人でクエストを受けて成功して帰ってきている。
 普通ドラゴンは魔道士や剣士が何人も集まってパーティーを作って戦わなくては勝てないほどのモンスターだ。
 それをたった一人で倒してしまうのだから彼はとても優秀な魔道士と言える。
「いやいや、あれは運が良かっただけさ」
「またまた、ご謙遜をなさって」
 本当にこれは彼の悪い癖でもある。
 自分に自信がないのな悲観的というか、誰に対しても腰が低い。
「でもねそう思っちゃうんだよ。僕の世代は学園長の活躍を聞いて育ったもんだからね。あの人は次元が違うよ」
「例えばどんな活躍をなさったんですか?」
 トートは非常に興味があった。学園長がどんなことをしてきたのかを。
「そうだね一番有名なのはさっき言った魔帝の称号を貰った時の戦争の時だね。あの戦争は隣の国の王が心を操るという魔道書を手にしてしまったから発生したんだ。久しぶりに解放されたその魔道書は王の体を利用して酷いことをしていたらしい。そして矛先は学園長の故郷の国に向けられたんだ。魔道書はモンスターの心や騎士の心を操ってその国を襲わせたんたんだけど学園長がそれを鎮めて魔道書を破壊したんだ。さらに驚くことにその時の学園長は君たちぐらいの若い時だったんだよ」
 まるで少年のような目で学園長の伝説を語るケリアは楽しそうで、少し寂しそうだった。
「ほ、本当に凄いんですね学園長は」
「そう。だから老いて弱っていてもこっには魔帝がいるんだから負けるはずがないさ」
「そうですねありがとうございますケリア先生」
「うん、じゃあ僕は用事があるから」
 立ち上がって汚れを落してからケリアは学園長の方へと歩いて行った。

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