人間不信様のハーレム世界

和銅修一

会合前夜

「狼か、久しぶりに見たがなんか随分変わったな」
「違うそれはただの狼じゃない。モンスターだ」
 禍々しい姿のベアウルフは虚ろな目で何かを呟き始める。
「ニク…ニクニクニクニクニクニクニクーーーーーーーーーーーー‼︎」
「ほう、人間の言葉が喋れるとはお主上級モンスターだったか見た目が残念じゃったから雑魚モンスターの一種じゃと思っとったよ。すまんな」
「おい無駄だ、そいつ頭いかれてやがる」
 トリーの言う通り、このベアウルフはもはや理性などなく、ただの獣と化している。
「確かにそのようじゃな。同じ上級モンスターとして見逃してやろうと思ったがこんな汚くて臭い獣野郎には手加減など不要じゃな」
 アリアは自分の右手人差し指を軽く噛んだ。するとそしてそこから血がしたたり落とす。
「なぁ、知っておるか? ヴァンパイアは血を飲むだけじゃなくて、血を操ることもできるんじゃぞ」
 自慢げに笑うと血が滴る人差し指をベアウルフに向けて横一閃して血を飛ばす。するとその血は刃のように硬くなりベアウルフの表面を削った。
「ぬっ、はずしたか」
「な、なんだそりゃあ?」
 つい脊髄反射で口に驚きを出してしまうほどのそれは後ろのビルに激突して、切り裂いた。
「言ったじゃろ。ヴァンパイアは血を操れるんじゃよ。血を硬質化させて斬るぐらい簡単じゃ」
 指の血を舐める。そしてベアウルフにさらなる攻撃を加えるために距離を詰めてもう一度血の刃を飛ばした。
 今度は表面だけでなく肉を斬り、ベアウルフのお腹から血が吹き出た。
「ウォーーーーーーン‼︎」
 ベアウルフもやられっぱなしではない。その鋭い爪で何度もアリアの首を引っ掻きにかかるが、アリアは華麗によけていく。
 そしてお返しとばかりに縦に指を振り血の刃をもってベアウルフの左腕を地面に落とした。
「ガォーーーーーーーン⁉︎」
 何が起こったかわからないとばかりになげく。
「まったく、よく吠えるものじゃな。それだと疲れるであろう。楽にしてやろう」
 その一言の後に続いて動いた指で飛んだ血がベアウルフの首を引き裂き、残った体は音もなく崩れて消えていった。
 トリーはただその光景を眺めることしかできなかった。



「そう……ご苦労様」
 拠点に帰ってきた二人の報告を聞いて美鈴は頭が痛くなった。偵察が失敗したわけではない。別の問題が起こったのだ。 
 ベアウルフ、あれは本来こんなエリアには出てこないモンスターだ。灰山エリアで冒険者を待ち受ける血に飢えた化け物、中ボスクラスのモンスターという設定だ。
 だが、ベアウルフの生息地の灰山エリアはここから離れているはずなのにここにいた。
 餌を求めてなのかどうかはわからないが作戦の妨げになるかもしれない。
 が、アリアが倒してくれたので何の問題はない。もう一つの問題は悠斗たちから聞いたキングゴブラのことだ。
 まだ討伐していないとなると、ここに来る可能性があるかもしれない。
 しかし、それを討伐しようとなると時間がかかるし彼らを野放しにすることになる。
 だからこの二つのことはまず置いといて、目の前のバイオレンスキャッツのことだけを考えよう。
 その為にこの拠点にギルドメンバーと悠斗たちを集めた。
 悠斗が来たらなぜか護衛してくれたレイナが飛んで行った。シュエルとくっつかれているその姿を見て驚いてはいたが、それ以外はいつものレイナだ。
 だが美鈴はその悠斗の姿を見ているとイライラしてくる。
「そ、それじゃあ作戦の内容を伝えたいと思いますがそれほど難しいことではありません。会合のために集まった彼らを包囲してできるだけ倒せばいいんです。最優先すべきなのは参加者の安全確保。それが済んだらできるだけ攻撃して相手の人数を減らして逃げます」
 参加者はこの作戦のことは知らない。つまりただ単に会合を目的として来た者たちは何も知らないまま二つの勢力の戦いに巻き込まれるのだ。
 だが教えることはできない。その参加者の周りでバイオレンスキャッツのメンバーが四六時中見張っているからだ。
 状況は悪いが逃げるわけにはいかない。
「じゃあ、各自準備をしておいて。当日は決められた場所についてね」
「「「「オオーーーーーーーー」」」」
「お〜」
 多くの者が声を上げて気持ちを高ぶかせる中に一人、やる気のない声で手を掲げる者がいた。
 勿論、悠斗だ。この中で一番戦う理由が薄いからやる気もない。
 それでも実力は十分にあると知っている美鈴は文句が言えなかった。

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