転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜
第62話 陰謀はそのままに
「殺せだと? 何を言っている」
「これは交渉ではなく命令ですよルインさん。貴方たちに選択肢はありません」
「目的は達した。俺をどうやって脅すつもりだ」
「脅しですか。確かにこれは脅しですね。あまり気は進みませんが、教えてあげます」
「きゃっ⁉︎ ちょっと何かこの建物変よ」
アルチナが指を鳴らすと足元がゆっくりと沈んでいく。
何事かと足元を見てみると石だと思っていた床は砂になっていた。
「砂で出来ていたのか。セリエ、すぐに転移を」
「やっています。ですが何かで妨害されているようでここでは転移は不可能です」
しまった。
どうやらこいつは綿密な計画を立てていたようだ。この建物のように大きなものを砂で作るには相当苦労しただろう。
違和感はあったが魔女が多くいるせいだと決めつけていたせいでこれには気づけなかった。
こうなると生殺与奪の権利はアルチナが握っているようなものだ。流石の俺もこの状態から全員を助け出せるとは言い切れない。
「とうとう本性を現したか。貴方の目的は何ですか。私を殺して何をしようというのですか」
「言ったら納得して死んでくれますか?」
「内容によっては」
嘘だ。
どんな理由があろうと殺されるのに納得がいく者なんていない。自己中心的な魔女なら尚更だ。
これは出来るだけ情報を引き出そうという魂胆だ。アルチナはそれを分かった上で彼女を殺そうとする理由を語り始めた。
「では時間もある事ですからお話しましょう。まずはメディアの野望についてからだと分かりやすいですかね」
「須藤隼人を利用して殺しをやらせたんだろ。自分に都合の良いように」
彼を使えば足がつかないし、万が一の場合は切り捨てる事ができるから。
力を求めた彼はまんまとその罠に嵌った訳だ。
「はい。ですが問題はメディアが最終的に何を目指していたのかです」
「何か目的があっての事なのか」
「僕は合理主義者ですし、無駄な殺生はしませんよ。彼女とは違ってね」
土の墓に視線を向けて呟くメディア。
確かにあの薔薇の魔女を殺す必要はなかった。そこ だけ見ても彼女は異常なのだと分かる。
「それでこいつの野望は結局、何なんだ」
「男性に魔法因子を植え付けて魔法兵団を設立する事。それがメディアの野望なの」
「魔法因子?」
ここに来て初めて聞く単語だ。
何かと慌ただしかったせいでこの世界に関する情報はあまり知らない。そこで隣でメディアが丁寧な説明を付け足してくれた。
「魔女だけが持っている特別な遺伝子の総称。しかし、男性にはない遺伝子でこれを植え付けると拒否反応で死に至る事もあり得る」
「そんな危険なものを須藤隼人に試したのか」
「理論は完璧。後は一度試して導入する予定だった。彼が現れたのはその時だ。無論、了承を得てのものだから勘違いしないで」
名前だけでなく彼は自分の命さえ賭けていた。まさに必死だったのだろう。
「しかし、何故それを止めようとする。お前には関係のない話だろ」
「いいえ、魔法因子は私たち女性にだけ与えられた特権。それをみすみす手放すなんて愚の骨頂です。なので責任者である貴方を殺して止めようかと」
「理由はそれか。相変わらず自分勝手だな。これが成功すれば望まない力を手にした者は救われる」
何も魔女全員が自分の現況に満足している訳ではない。魔女ならばそれなりの権力が約束されるがそれで幸せになるとは限られないのだ。平穏を望む者もいる。
「そのせいで権力を失っては私たちはどうなるか分からないわ。それにその力がこちらに向けられるとは考えなかったのかしら」
「僕たちには手を出させないように契約をさせれば良い。それに流石に全員を参加させるつもりはない」
「契約をしたところで意味はないわ。男なんて所詮、醜い生き物なんですから。さあ、ルインさん。お仲間さんの為にもメディアを殺してください」
男が醜い生き物なのはあえて否定しないでおこう。ここで俺が何を言っても説得力は皆無だからな。
「いや、殺さない。話を聞いている限りだと俺はこちらの方が正しいと思ったからこちら側につこう」
「つまり他の方々はどうなってもいいと?」
「まさか。長話をしてくれたおかげで準備は出来た」
全員を守る準備が。
ルインはずっと気づかれないように血を流して一定の量が出るまで待っていた。そしてそれは間に合い、その流した血で堅牢な箱が出来た。砂一粒すら入る隙間もない箱が。
他の皆とは離れていてこの話の中心であるメディアはこの中に入れられなかったが。
「血の箱? まさかこんな事も出来るなんて魔法みたいですね」
「魔女がそれを言うな。それよりどうする? これでもう俺はお前に従う理由はなくなったぞ」
立場逆転ーーではないがこれで彼女の砂の要塞はそれ程脅威ではなくなった。
「う〜ん。そうですね。貴方と普通で普通に戦っても勝てる気がしないので降参です」
「なんだ随分あっさりしてるな。こいつを殺すのがお前の目的だろ」
「別に今ここで殺さなくても大丈夫ですので。貴方を利用すれば楽に消せると思ったのに」
引き際をわきまえていると言えば聞こえは良いがルインからは上手くいかなかったから飽きたように見えた。
まるで子供みたいな返しだ。
「だったら俺らはもう帰るからこの建物と転移を妨害しているのを解除してくれ」
口では何とでも言える。
実際に行動に示してもらわなくて信じられない。特にこんな計画を立てる魔女相手では。
「建物は無理かな。最初から砂だから解除したら他の魔女さんたちにも迷惑がいくから。でも転移については多分、私が張った結界だからすぐに解除するけど」
「だそうだ。セリエ、そこからでも転移は出来るか確認してくれ」
「確認しました。転移可能になりました」
「それじゃあ、そっちの事情はそっちでどうにかしてくれ」
あくまで俺たちは須藤隼人を連れ戻しに来ただけでこの世界がどうなろうと関係はない。
「ええ、でもロニは置いてってね。私の可愛い娘だから」
「言われなくともあんな奴連れていくもんか」
最後まで読めない女だったが、どうやら娘への愛情は本物のようだ。それがもっと良い方向へと進むように祈りながら魔女の世界を後にした。
「これは交渉ではなく命令ですよルインさん。貴方たちに選択肢はありません」
「目的は達した。俺をどうやって脅すつもりだ」
「脅しですか。確かにこれは脅しですね。あまり気は進みませんが、教えてあげます」
「きゃっ⁉︎ ちょっと何かこの建物変よ」
アルチナが指を鳴らすと足元がゆっくりと沈んでいく。
何事かと足元を見てみると石だと思っていた床は砂になっていた。
「砂で出来ていたのか。セリエ、すぐに転移を」
「やっています。ですが何かで妨害されているようでここでは転移は不可能です」
しまった。
どうやらこいつは綿密な計画を立てていたようだ。この建物のように大きなものを砂で作るには相当苦労しただろう。
違和感はあったが魔女が多くいるせいだと決めつけていたせいでこれには気づけなかった。
こうなると生殺与奪の権利はアルチナが握っているようなものだ。流石の俺もこの状態から全員を助け出せるとは言い切れない。
「とうとう本性を現したか。貴方の目的は何ですか。私を殺して何をしようというのですか」
「言ったら納得して死んでくれますか?」
「内容によっては」
嘘だ。
どんな理由があろうと殺されるのに納得がいく者なんていない。自己中心的な魔女なら尚更だ。
これは出来るだけ情報を引き出そうという魂胆だ。アルチナはそれを分かった上で彼女を殺そうとする理由を語り始めた。
「では時間もある事ですからお話しましょう。まずはメディアの野望についてからだと分かりやすいですかね」
「須藤隼人を利用して殺しをやらせたんだろ。自分に都合の良いように」
彼を使えば足がつかないし、万が一の場合は切り捨てる事ができるから。
力を求めた彼はまんまとその罠に嵌った訳だ。
「はい。ですが問題はメディアが最終的に何を目指していたのかです」
「何か目的があっての事なのか」
「僕は合理主義者ですし、無駄な殺生はしませんよ。彼女とは違ってね」
土の墓に視線を向けて呟くメディア。
確かにあの薔薇の魔女を殺す必要はなかった。そこ だけ見ても彼女は異常なのだと分かる。
「それでこいつの野望は結局、何なんだ」
「男性に魔法因子を植え付けて魔法兵団を設立する事。それがメディアの野望なの」
「魔法因子?」
ここに来て初めて聞く単語だ。
何かと慌ただしかったせいでこの世界に関する情報はあまり知らない。そこで隣でメディアが丁寧な説明を付け足してくれた。
「魔女だけが持っている特別な遺伝子の総称。しかし、男性にはない遺伝子でこれを植え付けると拒否反応で死に至る事もあり得る」
「そんな危険なものを須藤隼人に試したのか」
「理論は完璧。後は一度試して導入する予定だった。彼が現れたのはその時だ。無論、了承を得てのものだから勘違いしないで」
名前だけでなく彼は自分の命さえ賭けていた。まさに必死だったのだろう。
「しかし、何故それを止めようとする。お前には関係のない話だろ」
「いいえ、魔法因子は私たち女性にだけ与えられた特権。それをみすみす手放すなんて愚の骨頂です。なので責任者である貴方を殺して止めようかと」
「理由はそれか。相変わらず自分勝手だな。これが成功すれば望まない力を手にした者は救われる」
何も魔女全員が自分の現況に満足している訳ではない。魔女ならばそれなりの権力が約束されるがそれで幸せになるとは限られないのだ。平穏を望む者もいる。
「そのせいで権力を失っては私たちはどうなるか分からないわ。それにその力がこちらに向けられるとは考えなかったのかしら」
「僕たちには手を出させないように契約をさせれば良い。それに流石に全員を参加させるつもりはない」
「契約をしたところで意味はないわ。男なんて所詮、醜い生き物なんですから。さあ、ルインさん。お仲間さんの為にもメディアを殺してください」
男が醜い生き物なのはあえて否定しないでおこう。ここで俺が何を言っても説得力は皆無だからな。
「いや、殺さない。話を聞いている限りだと俺はこちらの方が正しいと思ったからこちら側につこう」
「つまり他の方々はどうなってもいいと?」
「まさか。長話をしてくれたおかげで準備は出来た」
全員を守る準備が。
ルインはずっと気づかれないように血を流して一定の量が出るまで待っていた。そしてそれは間に合い、その流した血で堅牢な箱が出来た。砂一粒すら入る隙間もない箱が。
他の皆とは離れていてこの話の中心であるメディアはこの中に入れられなかったが。
「血の箱? まさかこんな事も出来るなんて魔法みたいですね」
「魔女がそれを言うな。それよりどうする? これでもう俺はお前に従う理由はなくなったぞ」
立場逆転ーーではないがこれで彼女の砂の要塞はそれ程脅威ではなくなった。
「う〜ん。そうですね。貴方と普通で普通に戦っても勝てる気がしないので降参です」
「なんだ随分あっさりしてるな。こいつを殺すのがお前の目的だろ」
「別に今ここで殺さなくても大丈夫ですので。貴方を利用すれば楽に消せると思ったのに」
引き際をわきまえていると言えば聞こえは良いがルインからは上手くいかなかったから飽きたように見えた。
まるで子供みたいな返しだ。
「だったら俺らはもう帰るからこの建物と転移を妨害しているのを解除してくれ」
口では何とでも言える。
実際に行動に示してもらわなくて信じられない。特にこんな計画を立てる魔女相手では。
「建物は無理かな。最初から砂だから解除したら他の魔女さんたちにも迷惑がいくから。でも転移については多分、私が張った結界だからすぐに解除するけど」
「だそうだ。セリエ、そこからでも転移は出来るか確認してくれ」
「確認しました。転移可能になりました」
「それじゃあ、そっちの事情はそっちでどうにかしてくれ」
あくまで俺たちは須藤隼人を連れ戻しに来ただけでこの世界がどうなろうと関係はない。
「ええ、でもロニは置いてってね。私の可愛い娘だから」
「言われなくともあんな奴連れていくもんか」
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