奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…

和銅修一

思い出の場所


 里沙がデート先と選んだのはおよそ高校生が来るようなところではなかったが、興はその場所を良く知っていた。
「懐かしいなここ。っていうか、全然変わってないんだな」
 そこは二人が幼少期の頃によく遊びに来ていた公園。中学生になって以降はここに足を踏み入れることはなくなってしまった。
 長い間、疎遠だった友人と再会したような感覚であるがこうして来ることになったのは里沙がどうしても行きたいという要望があったからに他ならない。
「うん。でも、あまり使わられてないみたいで実はここ取り壊されちゃうんだって」
「そうなのか……。それはちょっと寂しいな」
 二人にとってこの公園は思い出の詰まった場所。そこがなくなってしまうというのは考えられさせるものがある。
「本当はなくなってほしくないけど、私たちはどうしようもできないからーーせめて最後に興くんと来たかったの」
 この公園は周りにこれといったものが何もなく、中の遊具も片手で数える程度しかないというありさまで子どもがいないのも納得の状況だ。
「八恵ならどうにかできるかもしれないがーー」
 あまり良い策ではないがお金で解決するという方法もある。これ以上、八恵にそういった借りを作るというのはよろしくないのだろうが里沙の悲しい顔を見ているとどうにかしたいと思って提案したのだが幼馴染は首を横に振る。
「大丈夫。そこまでしてもらう必要はないから。ずっとこのままは無理なんだよ。だから良いの」
 まるで自分に言い聞かせるように里沙は断言した。これは自分で考えての発言なのだろうと察した興はこれ以上問いただすのをやめにして公園を眺める。
「ほら、覚えてる? 興くん、あのジャングルジム好きだったよね」
 里沙が指差す方には俺の背丈よりも一回り大きな山があった。昔は天高くそびえ立っていたように見えたが、今となっては簡単に頂上まで手が届きそうだ。
「ああ、飽きもせずにやってたよ。今思うと何でこんなのに夢中になってたんだが……」
 あの頃、この頂上から見える景色は宝石のように輝いていた。それを見たくてこのジャングルジムを必死に登ったものだ。その度に里沙は不安そうな顔をしてこちらを見ていたっけーー。
「今となっては良い思い出だよ。この公園はなくなるけど、この思い出はなくならないから」
 形あるものはいつかなくなる。だが、この思い出はそうではないーーと里沙は口にするのだが実は俺は幼少期の頃の記憶が一部欠落している。
 その証拠として昔出会っていたはずの八恵のことを綺麗さっぱり忘れていた。自分でも何処から何処までを覚えていて忘れているのかを把握しきれていない。
 とはいえ、この公園で里沙たちと遊んでいたことはちゃんと覚えている。大人になったら忘れてしまうかもしれないがそれでも構わない。
 思い出というのは忘れてもふとした瞬間に蘇るものだ。
「ねえ、興くん。華蓮ちゃんから聞いたんだけど私たちあんまり青春を謳歌できてないんだって」
「あいつそんなことを言ったのか? 全く、最近動きが変だと思ったら妙なことを吹き込みやがって」
「興くんはどう思う?」
 純粋無垢な瞳でこちらに問いかけて来る。
 返答に困る内容ではあるが今回は俺から誘ったんだ。出来る限り里沙の要望に応えようじゃないか。
「まあ、俺の場合は我が家に引っ越してきた連中の世話やら何やらで忙しいからな。謳歌できてないと言われればそうなるかもしれないな」
「ふ〜ん。それじゃあ、今回のデートでそれを取り戻すつもりだっていうのは本当?」
「また華蓮だな。別に俺は青春を謳歌したいからっていう気持ちでお前たちを誘ったつもりはないよ。ただ自分の気持ちに決着をつけたくてな。善は急げってことでメールしたんだよ。そこにやましい気持ちは一切ない」
「そっか……。それじゃあ、最後の質問。華蓮ちゃんのことどう思ってる?」
「色々と手のかかる妹だけど、大切な妹だよ。それがどうかしたか?」
 それを聞いた里沙は神妙な面持ちを浮かべたが大きく首を振って笑顔に変えた。
「ううん。何でもない。それよりも今日の晩御飯どうしよっか?」
「そうだな……。せっかくだし、華蓮が好きなカレーにするか」
 二人はその後に買い出しに向かうのだが、その後ろ姿を見ていた妹は照れながらも呟いた。
「いや〜、やっぱりお兄ちゃんは詰めが甘いな。これは私が背中を押してあげないとダメかな?」

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