奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…

和銅修一

素直になれない人たち


「彼女は部長として順調に活動しているみたいだよ。私も意外だったけど、ちゃんと規定の部員を集められたようだし今はパワースポットだけでなくこの学園の不可思議現象を調査していて依頼人が増えているみたいだ」
 あの後、俺の力を借りずとも琴陵は自分を変えていけてるようでそれは生徒会長を通して知ることとなった。
「そうなのか……。色々迷惑かけたみたいで悪い魅雨姉」
「いや、姉というものは弟のワガママを聞いてやるもの。師匠もきっとそうしていただろうしね」
「し、師匠って……」
 何やら俺の姉二人は知らない間に随分と親しくなったようで学園内でも楽しそうに談話しているのを見かけたことがある。
 その内容までは知らないのだが、この感じからして知らない方が幸せなのだろう。
「まあ、師匠とは明日でお別れになってしまうんだけど」
「そうか……研修期間はもう終わりなのか」
 何故かずっといるものだと思っていた。
 あの頃もそうだった。
 公園で迎えが来るで一緒に遊んでくれた。当時はそれに当たり前のように思っていたが、突然その当たり前は崩れた。
 別れというのは必ずあるものだが、子どもの頃はそれが出来ずに泣いたものだ。
 しかし、今回は違う。
「それで、お別れ会を開こうと思っているんだけど手伝ってくれるかな?」
「もちろんだよ魅雨姉。けど、お別れ会ってのはどうなの? 実習生じゃなくなってもまた会えるでしょ」
「いや、そうでもないみたいだよ。本人から聞いた話ではないのだけれどもボランティアで海外の学園に行くことが決まったらしい。いかにもあの人らしい」
「確かにらしいね」
 俺のお姉ちゃんはそういう人だ。
 困っている人がすぐに駆けつけ、優しく包み込む。俺にとってヒーローのような存在であり、初恋の人。
「それで、今みんなに聞いてみたところ同居者はほとんどが参加してくれるみたいだ」
「ほとんど?」
「ああ、赤石さんには関係ないと一蹴されてしまったんだ。逆に琴陵さんがやる気みたいだけど」
「まあ、一年とはそんなに関わりがないからな。強制参加させるわけにも……」
 同じ立場だったら関わってもいない人のお別れ会は気まずくて参加したくはない。とはいえ、盛大に送ってあげたいので人手が欲しいところはある。
「それもそうね。もし人手が必要ならこちらで用意するわ。問題は何処でするかになるけど」
「我が家で良いんじゃないか?」
 無駄に広いから人が集まっても問題はない。それに冷蔵庫には大量の食料が備蓄されているので今からでもご馳走が用意できる。
「そうなると他の生徒は呼べないわね。私たちが同居していると知れたら問題になるもの」
 美由お姉ちゃんには既にバレているのでそこは大丈夫なのだが、一般生徒にこのことはバレてはいけない。
「仕方ない。あんまり人数が多いと喋れないこともあるからな」
「それは恋の話とか?」
「な、何の話かわからないな」
 その時の俺は目が完全に泳いでいた。
 嘘をつけない正直者だから仕方ない。
「姉に隠し事はできないよ。といっても本当は華蓮から聞いただけなんだけど」
「我が妹ながら勝手なことを……」
「怒らないであげてくれ。あれは脅して無理やり話させたものだから」
 あの妹が根をあげるとはこの姉は一体どんな脅しをしたのやら……。
「初恋といっても子どもの頃の話だよ。今はもう関係ないって」
 そもそもその頃の記憶は曖昧だ。どんなことをして遊んでいたか覚えていない。
「本当に? もしかしたらもう二度と会えないのかもしれないのに?」
「いや、美由お姉ちゃんも今更昔好きでしたって言われても迷惑だろうし大丈夫だよ」
 だからこの過去の気持ちは奥にしまっておくべきだ。
 俺と美由お姉ちゃんのためにも。
「自分の気持ちに素直にならないと後悔することになるよ。これは生徒会長としてではなく、姉としての警告だ」
「……考えておくよ」
 心なしかいつもより小さな背中を見送りながら魅雨は姉としでもなく、生徒会長でもない目線で呟いた。
「自分の気持ちに素直になれないのは私もだけどね」


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