奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…

和銅修一

試合と約束

 テニスには硬いボールを使う硬式と柔らかいボールを使う軟式とがあるが、今回は軟式をすることになった。
 理由は興が中学の時やったのは軟式だからだ。高校の部活でも軟式をやっているだろう。
「先攻はお前に譲るよ」 
「もしかしてハンデのつもり?」
 どうやら舐められると勘違いしたらしく、鋭い目つきが更に鋭くなって俺を睨みつけてきた。
「そうじゃないって、お前がどれくらいできるか確認したいだけだ。遠慮するなよ」
 実はというとサーブが決まるかどうか不安だからなのだがそれは先輩として口が裂けても言えない。
「分かった、後でやっぱりなしとか言っても聞かないから」
 そういってボールを受け取ると配置についたので俺も後ろに下がる。
「じゃあ、始めるよ」
 審判がいないので晴奈のその一言が試合開始の合図となり、同時にトスを上げた。
 トスは真っ直ぐとしていて、そのままゆっくりと落下する。
 その先には晴奈のラケットが待っており、勢い良く叩きつけられてネットの上をする抜けてコートを抉った。
「マ……マジかよ」
 あまりにと早すぎて興はそれを見ていることにかできなかった。
 女子だからパワーショットではなく、横にラケットを振って回転をかけてくるかと思っていたので完全に出遅れた。
「次行くよ」
 待て、と言っても待ってくれそうにないのでラケットを構え直してそれを待ち受ける。
 今度は油断などはしない。
 ボールに意識を集中させて左に来たそれを体を捻りながら返すがコートに入らず、アウト。
「本当に兄貴に勝ったことあるの? 全然弱いんだけど」
「い、一年というブランクはきついんだよ。次から本気出す」
 とはいったもののかなりヤバイ。
 いとも簡単に二点取られ、流れは完璧にあちら側だ。巻き返すのは難しいだろう。
 それにまず、あの強烈なサーブだ。
 あれを返せない限り、試合にもならい。
「じゃあ、行くよ」
 無慈悲にも考える暇も与えてくれず、気づいた時にはトスが上げられていた。
 今度はもう少し後ろに下がってそれを迎え受ける。
 放たれたそれは速度が衰えることなく、真っ直ぐコートの中に吸い込まれて行く。
 バウンドをしてこちらに向かってくるが下がった分、時間ができ、その一瞬でラケットを動かしてやっとサーブを返すことに成功した。
 今度は手応えありだ。
「よしっ!」
 それにコースもたまたま絶妙でラインギリギリのところに着弾して、流石の晴奈も追いつけなかった。
「ふん、なかなかやるわね」
「ま、まぁな……」
 実はまぐれだなんて言えないが、反射的に見栄を張ってしまった。
 だがそんな偶然が続くはずもなく、結局その後は晴奈に翻弄されて3対0で完敗という結果になってしまった。
「はぁ、はぁ……。お前強過ぎだろ」
 後半は体力がなくなってクタクタだったので試合が終わってすぐその場で仰向けになって息を整える。
 やはり帰宅部を一年も続けると自然に体力がなくなってしまう。
 これも敗因の一つだろうが、やはり晴奈が強過ぎた。
 サーブもそうだがレシーブも完璧で、男顔負けのプレーをやってのけた。
「約束は守ってもらうからね」
 ふと目を開けると汗でシャツが濡れているので自前のタオルでそれを拭いている晴奈の姿があった。
 本人はどうも思ってないようだが何故か色っぽくて何となく目線を逸らしてしまう。
「あ…ああ、金のこと以外なら何でも言うこと聞いてやるよ」
 負けたからには男らしく約束は守ろう。
「ならあんたの家に泊めて」
「は? な、なんで?」
 このパターン、なんか前にもあった気がするけどこれがデジャヴというやつか?
「だってあんたの家学校に近いでしょ。でも私の家は遠くていつも困ってるの。最近は朝練なかってけど、なんか部長が急に明日から始めるとか言い出して……」
「だから俺の家……か。でもそれって早く起きれば済むことだろ? わざわざ俺の家に引っ越さなくても」
「鬱陶しい親父がいるからとにかく、家から出たいの」
 何故か他人事には思えない。
 そして俺の親父は家にすらいない…なんだか負けた気分だ。
「ん〜、何かそう言われると親近感湧くな。それにもう一人二人増えても変わらねーし別にいいか。でも一つだけ条件がある」
「何?」
「徹に会わせてくれ。あいつが入院してる病院を知らなくてな」
 一瞬、キョトンとした顔だったがすぐに元に戻りおもむろに俺の足を掴んできた。
「あ、うん引きずってでも連れてく」
「い、今じゃなくていいから!」
 こうして我が家に後輩が引っ越して来ることになりました。

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