奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…

和銅修一

妹帰還


「ただいま〜」
 よくわからないまま説得に成功して魅雨がこれからも住めるようになって嬉しいは嬉しいが疲労感が半端なく、我が家に着く頃には興はクタクタになっていた。
「ん? 誰か帰ってきたのか?」
 そう思ったのは靴が二つあったからだ。
 一つは魅雨のだろうが、もう一つは誰のかは知らない。
 俺は靴は学校用と出かける用しかないがどうやら女子というのはそうではないらしく、下駄箱は占領されてしまっている。
 使う時にそこから出して履いて行く感じでここにあるのはよく使われる靴くらいなのだが全く見覚えのない靴だ。
「八恵かな?」
 あいつなら金持ちだからお気に入りの靴も両手では数えきれないほどあるだろう。
 しかし、魅雨の話だと二人同時に出て行った感じだったから帰ってくるのも一緒なのではないか……と思ったが途中で解散したのかもしれない。
「お〜い、帰ったぞ〜」
 リビングへと続く扉を開くと突然腹に衝撃が走った。
「お兄ちゃん遅いっ!」
「か……華蓮」
 衝撃の正体は我が妹にして現役アイドルの天坂 華蓮による頭突きで腹を抑える俺とは裏腹に仁王立ちをしてプンプンという擬音が似合いそうな顔で怒ってらっしゃる。
「だ、大丈夫か興」
 倒れた音を聞きつけて慌てて近づいて来た魅雨が心配そうな顔をしている。
「ま、まぁ慣れてるから」
 慣れるのもどうかと思うがお陰で腹は丈夫になりました。
 復帰もたった数秒で済む。
「お兄ちゃん、私は今猛烈に怒っています」
 仁王立ちするこの妹は僕とは全く似ていない。
 特徴的なのはその二つに束ねられた派手なピンクの髪の毛でアイドルとしてダンスをしているからなのか、ウエストや足が細い。
今は中学生三年生ということになっているのだが実は俺と歳は変わらない。幼少期の頃、妹は大きな病にかかったことがあり、そのせいで数年学校に行けなかった時期があるからである。
 完治して現在はこうして天真爛漫でそんな過去があるなどとは思えないくらいに元気に育ってくれた。まあ、お胸はまるで成長していないのだが……そこに触れると何をされるかわかったものではないのでこれ以上はやめておこう。
「そうか。でもお前アイドルの仕事いいのか?」
 三人グループのセンターで大活躍をしているはずだが何故こんな所に?
「長期休暇もらったから大丈夫。それよりお兄ちゃん、魅雨ちゃんから聞いたよ。家をハーレムの場としているんだってね!」
「待て! その言い方なんか悪意あるぞ!」
 ただ三人が困っているからこの我が家を提供しただけでそんな野心はない。
「でもここにはお兄ちゃん以外に三人の女の子がいるんでしょ?」
「それはそうだが……」
 八恵、里沙に続いてついさっき魅雨がここに住むことが正式に決まってきたところだがやはり言い方に悪意を感じられる。
「私がいない間にこんな事になってるなんて……お兄ちゃんは私だけじゃ満足できないの!」
「待て! それだと俺がシスコンみたいじゃないか」
「え? お兄ちゃんはシスコンじゃないの?」
「なんでそんな驚く? 俺はシスコンではない。シスコンの称号は友和に譲る。きっと喜んでくれるだろう」
 実際、姉がいるんだから成立はする。
 それにあいつのことだから更なる高みにいることだってあり得る。
「おお、相変わらず友和さんの扱いがぞんざいだね、お兄ちゃん」
「いいんだよあいつは」
 どうせ聞いてはいないし、逆に触れてやらないことが失礼だ。
「それより、華蓮。長期休暇ってどれくらいだ?」
「う〜ん、と分かんない」
「分かんないってなんだよ。自分のことなんだからしっかりしてくれよ」
 ここも親父と似ているところだ。
 俺を頼りにしすぎている。青色の猫型ロボットだとでも思っているのか?
 とにかく、華蓮はまだ救いようがあるのだから今からどうにかしなくては。
「実は私がお世話になっている会社が不祥事起こしちゃって仕事どころじゃないんだって」
「それ大事じゃん!」
 結構というよりこれからのアイドル人生がどうなるか決まってきてしまう大事のはずなのだが華蓮は全く気にしていない様だ。
「ああ、テレビでもやっていたな。だが妹さんが悪いことをした訳ではないのだから心配する必要はないだろう。のんびりと休暇を楽しめばいい」
 これまでアイドルの仕事を休みなしで頑張ってきたのだからこういった時に休んでおいた方がいいだろう。
 お兄ちゃんとしては過労で倒れてしまうのではないかとヒヤヒヤなのでその案には賛成だ。
「はい! そのつもりです」
 どうやら言うまでもなく休む気満々だったらしく、元気良く答えた。
「なら部屋とかどうする? お前の荷物、倉庫にあるけど?」
 ベッドやら何やら虹咲グループのマークがついた倉庫にしまってあるが取り出すには業者を呼ぶしかない。
「え? 私お兄ちゃんの部屋に厄介になるつもりだったんだけどダメ?」
「ダ〜メ! 今日は里沙の部屋で寝ろ。荷物は後で八恵に頼んでどうにかするから」
 一人でベッドやらを持つのは不可能なので里沙の家から荷物を運んだようにまたあの人たちに来てもらうしかない。
「ブ〜、お兄ちゃんのいけず〜」
 頬を膨らませて口を尖らせるがその姿は怒っているようには見えず、ただ愛しい我が妹が可愛く文句言ってるだけにしか見えない。

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