村人から世界最強の魔王へ

金田拓也

15真冬

真冬はゆっくりと音もなくゆなに近づき、背後に立つと、手を手刀のような形にすると
真冬「もらった」
そう言って勢いよくゆなに振り下ろした。

パンと乾いた音が響く。真冬の手刀はギリギリのところでゆなの右手に掴まれている。
真冬は手を動かそうとジタバダ動かすが、掴まれている右手は一切動かず、さらにゆなの右手に力が入ったのか、ついには堪えきれずに両膝を地面に着いた。

完全なる力負けである。誰もがその光景を見ていた。勇者に選ばれた者が勇者候補に完膚なきまでに負けた姿を。
これには一ノ瀬の爽やか笑顔も消え、四辻も興ざめだと言わんばかりの顔をしていた。周りの緊迫した空間を弱まっていく。

そうこうしているうちに、ゆなは真冬から手を離した。真冬の手首には握られていた跡がくっきり分かる、赤い跡が出来ていた。
真冬はゆっくりと立ち上がると、膝に付いている砂を左手だけで落とすと、何事もなかったように装い、首に巻いているマフラーを少し上げ、表情が見えないようにしていた。
そして、ゴホンと一度咳払いすると、
真冬「急用を思い出した」
そう言いどこかに行こうとしたところを悠人は真冬の首根っこを掴み、
悠人「…お前この状況でそれが許されると思ってんのか!」
真冬「…見てなかったの?私では無理よ」
この野郎開き直ってやがる。それが何かみたいな顔でこっちを見やがって、
悠人「お前勇者だろ?」
それに真冬はこちらをじっと見つめ、右手を上げ、赤い跡がついた自分の手首を眺めると、
真冬「…痛いわ」
こいつ!
そう思った刹那、真冬は突然何かを取り出し、ゆなに向かって投げる。
それは小型のナイフだと分かり、ゆなの方に振り返ると、その時だった。
ドン。誰かに背中を押され、数歩進み、転びそうになると、ふわっといい匂いがする。
ゆなが転けそうになった悠人を助けた。
ゆな「悠人!大丈夫?」
真冬「…依頼は果たした」
そう真冬が言って胸を張る。
一ノ瀬「いやぁ。何はともあれ、解決して良かった。…みなさん。お騒がせしました!次の試合までに30分の休憩を入れます!」
と一ノ瀬があたりの沈静化を始めた。
四辻「一ノ瀬様々だな」
と四辻が皮肉げに言うと一ノ瀬は、ニコニコしながら四辻を見た。
一条「君が僕の学校の生徒に手を出そうとするなら容赦はしないよ?でも、これが逆の立場ならもちろん君自身のことも僕が守って上げよう。君もこの学校の生徒だからね」

それに四辻は、胸糞悪りぃと言って何処かに行こうとした時だった。

「おいおい。それで終わりかよ。興ざめは俺っちのセリフだぜ」

そう言ってコロッセオの中心に何かが落ちる。一瞬遅れて報告が入る。
魔族、それも幹部クラスが来たと言う、あまりにも慌ただしそうな報告だった。

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