村人から世界最強の魔王へ

つくつく

14注目

砂漠に咲く一輪の光り輝く花。ふとそんなものを連想してしまった。しかしそれは自分だけではなく、あんなにも騒がしかった観客が固唾を飲んで見惚れていた。
その美しい花、アリスは、ゆっくりとコロッセオの中心に足を進めた。
そして、試合開始のゴングが鳴った。
アリスはカツンと右足で地面を打ち鳴らすと会場全体が揺れ始めた。
女子生徒「そんなバカな!?」
と女子生徒が驚きを隠しきれていない様子だった。
それもそのはず、アリスが行った地震は本来なら大規模な魔法で大人数で行うものである。しかしそれをアリスは鼻であざわらうかのごとく一人でやってのけたのだ。
そして、動揺している相手の足下から石の拳が突き上げられた。
アリスがゴーレムを召喚したのだ。
相手は3メートルほど飛び地面に叩きつけられた。
それをアリスは見向きもせずにその場を離れていった。残されたのは気を失っている相手と今更ながらの歓声だけだった。

悠人「お疲れ。、、少しやりすぎじゃないか?」
アリス「あら。私は今回の作戦にほとんど参加しないようなものだから、私が目立った方がやりやすいのではなくて?」
悠人「、、まぁな」
と悠人とアリスが小声で話していると、
真冬「すごい魔力量ね」
と抑揚のない声が聞こえてきた。焦らずにゆっくりと振り返ると思った通りの人物がいた。真冬だ。
「いつから?」と言う疑問が浮かび上がる。
アリス「いつからそこに?」
とアリスが聞くと
真冬「いま」
と言う答えが返ってきた。
真冬「振動系魔法を地面に直接使い地震を引き起こすのはたくさんの魔力がいる」
と真冬が言ったところで、雲行きが怪しくなったのが分かる。真冬に対して意識を集中させた。
真冬「それを一人で行うのはすごい。、、だから余計に気になった。あなた達はー」
と真冬が何かを言おうとした時、
ゆな「エリナさんお疲れ様です。すごかったです」
ミナ「うむ。見直したぞ」
とゆなとミナが駆け寄ってきた。そのおかげで真冬は一旦黙った。
やはり、1番の危険人物は真冬だろう。感情が全く読めず、底知れない何かを感じる。勇者と言うぐらいだからかなりの実力者であるのは間違いないだろう。何か掴めれば。と悠人が考えていると、
「なかなか、面白しれぇじゃねぇか?そそられたぜ」
と言う声にアリスは嫌悪をむき出しにしながらそちらを見た。それにつられるように声の主の方を見ると、オレンジ色の髪に目つきの悪い顔立ちが特徴の男子生徒、四辻蓮が立っていた。
アリスの横にいる悠人と目が合い
四辻「おい!カス。ちょっと余興がてら遊びに来てやったぜ」
と四辻が高笑いした。
悠人「あいにくと。今、お前の相手をしてやる暇もないんだ」
と肩をすくめながら答えた。
その時、悠人の頬を何かが掠めた。頬は少し切れ、赤い液体がすぅっと落ちていき、顎先までいき、地面に落ちた。
四辻「おい。、、なんで避けない?」
悠人は四辻が投げた針に反応ができなかったと言わんばかりに目を見開き驚いたように見せた。
その反応に四辻は苛立ちを見せた。
四辻「、、腑抜けめ。俺の見立て違いか?」
ゆな「、、悠人?」
とゆなが心配してか、悠人の頬を流れる血をじっと見ていた。
ゆな「、、悠人怪我したの?痛い?痛いよね」
とゆなは虚ろな目をしながらおぼつかない足取りで近づいてきた。
ゆな「、、可哀想に」
と言いながら優しく、悠人を抱きしめながら頭を撫でた。
なんだ?ゆなの様子がおかしい!と悠人は思いながらも、どうすればいいのか分からずになされるがままになる。否、それは悠人だけではなく、他の皆も動かないでいた。
やがてゆなはゆっくりと振り返り、四辻を見た。
ゆな「ーい。ーさない。許さない」
と、ゆなの濃密なまでの殺気にあたりが飲み込まれる。
さすがにこのままではマズイと思い
悠人「おい。ゆな!」
と声を上げると、ゆなは頭を撫でていた手を止め、悠人の目を見た。するといつも通り、ゆなが笑顔になり
ゆな「大丈夫だよ。悠人。後は私に任せて」
と言って、再び四辻に向き直った。
四辻「、、なんだ。お前が俺と遊んでくれるのか?」
と四辻は楽しそうに口角を上げた。
「こんなところで何をしているんだい?」
とやたらと爽やかな声が聞こえてきた。振り返ると金髪の男子生徒、この学校の生徒会長こと、一ノ瀬雪斗が立っていた。
四辻は、そちらを一瞥した。
四辻「、、今はお前に構ってる暇はねぇんだよ」
と言い、手でシッシと追い払うようにしながらゆなに視線を戻した。
随分と大変なことになった。そう言わざるおえなかった。いつのまにか、試合は中断され、会場中がこちらを見ていた。まぁ、勇者候補と四辻家が睨み合っている以上、それも当然のことに思える。そして、そのゆなをこんな状態にしたのは間違いなく、俺だ。力を隠すためとは言え、これだけ目立つぐらいならば避けた方が幾分かはましだったろう。しかしそれは結果論でしかない。今は二人を止めることを考えなければ。
今の現状、勇者候補と四辻家の戦いに一ノ瀬家ですら、止めれていない。
勇者候補や、名家よりも立場が上の賢者であるミナを期待を込めて見ると、ミナは慌てふためいており、あわあわと手を動かしていた。ミナは使いものにならない。と思い、横にいる勇者である真冬に視線を移動させると、真冬はぼーっと眺めており、そこでこちらの視線に気づいたのか、こちらを一瞥すると?と言うかのように首をひねった。
真冬「なに?」
とこのゆなも四辻もどちらも一歩も引かずに睨み合っている緊迫した状況で真冬は緊張感のない声を発した。
悠人「…」
それに悠人は無言の圧力で真冬を見ていると、真冬に意図が通じたのか、ぽんっと手を打つと人差し指を立て
真冬「後で言うことを聞いてもらう」
とそれが条件と言わんばかりに見つめてきて悠人はそれに頷くと、人間の最高戦力であり、切り札の勇者は、ゆっくりと動き出した。

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