村人から世界最強の魔王へ

金田拓也

7少女の願い

私は私の能力が嫌い。『アリス、お前の能力はみんなを幸せに出来るんだ』と、魔王や権力者達が私に言ってきた。私もそうだと思っていた。でも、実際は違った。私の“想像したものをなんでも作れる”能力は、いろんな人を幸せにしてきたけど、それよりもたくさんの人を悲しませただけだった。いつだってそうだった。でも、どうすればいいのか私には分からなかった。
ある日、私はルシフェルに言われるがまま魔族を裏切った。
ルシフェルは、
「予言に導かれし真の王が現れる。そのお方ならお前の望みさえも叶えることは可能でしょう」
しかし、今まで何度も期待を裏切られてきた私が簡単に信じる事は出来るはずもなかった。
そして、少しするとルシフェルの言った通り魔王が、私達の本当の王が、連れてこられた。
だが、実際に現れた王がは、想像していた姿とはあまりにもかけ離れていた。
汚れを知らないような目をした少年だった。
彼は強くなるためにルシフェルとずっと、私が作った別世界で訓練をしていた。私はその姿をずっと見ていた。訓練が終わると何も言わずに帰る。これを続けていた。
私はある日彼に声をかけた。
アリス「少しいいかしら」
と言って、彼の横に腰掛け、続けた。
アリス「どうしてそんなに頑張っているの?」
少年は、声を掛けられた事をはじめは驚いていたが、すぐに真剣な顔になって答えた。
悠人「俺が強くなって王になることで助けられる奴がいるからだ」と言った。
それにアリスは、この少年、雨宮悠人に過去の自分を照らし合わせた。
アリス「やめたいとは思わないの?王になるって決めたのだってそれ意外の選択肢がなかっただけで、無責任を感じないの?」
悠人「もうやるって決めたんだ。そんな簡単に投げだす事は出来ない」
アリス「…簡単に?」
まるで自分が簡単に投げ出したかのように言った彼の発言に対して怒りが湧いてきた。冷静に考えればわざわざ怒るような事ではないのに、この時の私は怒りを抑えることが出来なかった。
アリス「何も知らないくせに。そのくせ綺麗事ばかり並べて。あなたも彼らと同じよ!結局理想通りにはならないわ!」
と、何もわかっていない彼に、あるいは何も知らなかった自分に対して、怒鳴ってしまう。
悠人は、初めてこちらを見つめて、
悠人「あぁ、そうだな。今はただの理想だ。何も知らない子供の綺麗事にしか見えないだろう。実際にそうだ。今はまだ何もできない」
と彼は言いながら拳を前に突き立てた。
悠人「だが!それは今はだ!強なって理想ばかりの綺麗事ではないっていろんな奴に教えてやる。お前にもだ!」
アリス「勝手な事を言わないで!私は!もう、諦めたの…私じゃあ、争いを終わらせることは、できないのよ」
悠人「なら俺が叶える。もう、お前が捨てた理想だろう。俺がやってもいいんだな!!」
アリス「…」
私は、彼に託すとは言えなかった。どうしても言葉が出ない。意識とは関係なく拳を強く握ってしまう。
もう、諦めたはずなのに、、、ひどく悔しい。
そんな感情が渦巻いて、自分でも何が何だがわからなかった。
悠人「なんだ。やっぱり諦めてねぇじゃねぇか」
そう言って悠人は手を伸ばして私の頬を手で触れた。そこで私の頬が濡れている事に私は初めて気づいた。
悠人「諦めた奴がそんな風に泣くはずがない。言い訳を並べて諦めるのは簡単だ。アリス大切なものをを失うな」
アリス「、、私に触らないで!!夢物語ばかり語らないで!私は間接的にたくさんの人間を殺してきた。私に近づいてくるやつはみんな自分しか見てない!あなたなんて信用できない!これは警告よ。私に近づいたら殺すわよ」
そう言うと、悠人の周りに剣が出現し、悠人を取り囲んだ。
悠人「信じられないなら殺せばいい。俺はそれを肯定する」
と、悠人は立ち上がるとなんの迷いもなく、アリスに近づいた。
アリスはさらに距離を取った。
何を考えているの。まさか本当に死ぬ気なの?いえ、そんなはずない。自分の事しか頭にないやつなんだ。防御魔法をしているのだろう。そう思いアリスは、剣を一本悠人めがけて動かした。
そこで、彼の魔法が発動するはずだった。しかし、その考えとは裏腹に、悠人はなんの抵抗もせず、剣が胸に突きに刺さった。
がはっと彼の口から血がこぼれ出た。
アリス「!?、、、あなた何やってるのよ?防御魔法は!?どうして身を守らなかったの!」
悠人「そんな事する必要はない。だって俺はお前を信じてるからな」
アリス「、、何を言っているの?剣が刺さったのよ。死んでいたのかもしれないのよ。なのにまだ私を信じられるの?」
アリスは動揺を隠しきれずに言うと。
それに彼はにっと笑うと
悠人「当たり前だろ。お前を信じてよかった」
アリスが言葉の意味が分からずに混乱していると悠人は続けた。
悠人「お前は近づけば俺を殺すと言ったが、俺は死んでないぞ。急所はズレてる。いや、わざとはずしたんだろ?それに、傷を負った俺をお前は心配してくれてる。これでお前を信じないやつはバカだ」
彼は、たかだか、私から信用されるためだけに、こんな行動に出た。今までそんな人は、見たことがなかった。
悠人「諦めなくてよかったと、俺が思わせてやる。だから理想を捨てるな。言い訳はもういい。お前の意思を聞かしてくれ。俺を信じてくれるか?」
出来るはずがない。こんなものはただの綺麗事だ。無知な子供の綺麗なだけの夢物語だ。でも、私は彼の綺麗な言葉を信じて見たくなった。だって…彼の顔があまりにも真剣で彼のこの目を信じて見たくなった。
アリス「、、あなたは馬鹿よ」
手で涙を拭うと、彼は私の次の言葉を待ってくれる、私の意思を考えてくれる。
アリス「私はこれから先あなたを信じて守る。裏切ったらただじゃおかないわ」
と、笑顔で言った。うっすらと目に涙を滲ませながら。
それに悠人は、
悠人「あぁ、そうだな。俺もお前を信じて守ってやるよ。、、あと、俺はそっちの顔の方が好きだぞアリス。」
と彼は優しく、少し照れながら言ってきた。その顔があまりにも素敵だった。胸の鼓動が今までに感じたことのない動きをしているのを感じた。ほんのり暖かくて、でも嫌な気分はしなかった。
悠人にとって人も魔族も彼にとっては大差はないと思う。そんな彼がどちらに付くのか、それとも別の選択をするのか私も見てみたいと思った。そして、ルシフェルは、悠人を使って何かをしようとしているけれどこの時の私にはよく分からなかった。ただただ、自分が常に望んでいた、アリスの作った何もかもを壊してくれる彼の存在にひどく惹かれた。こうして、彼と彼女は自分の過ちを忘れ、同じ事を繰り返していることにも気づかずにまた同じ過ちを犯そうとしていた。

それから悠人はとても強くなった。守りたいものを守れるくらいに。だが、私の醜い心は、悠人にとって一番大切な人間である、“ゆな”という少女に会わないでほしいと思ってしまう。
悠人が変わってしまいそうでとても怖い。だからいつまでも会わないでほしかった。
だが、その願いは無情にも届かなかった。

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