一人が好きな俺が自転車サークルに入った結果。

沼口

春生小屋エンデューロ《ハーレム》6

 それは、実に単純な理由だ。
 このレースのミソであり、意識しなければいけない部分…俺はそれを把握していただけ。だからこそ、俺は常に一人で御影を牽き続けていた。

「俺と御影以外の選手は、必ずローテーションに加わっていた。勿論、俺の牽いている中央縦一列以外のな。つまり、奴らはローテーションをする中で、必ず横風を受けて走ってた。更には女性にも前を牽かせていたんだ、俺達が飛び出した時、男性はアタックに対応出来ても……女性はどうかな?」
「あぁ…そういうことか…。なるほどな、中央列を占拠してたのは、単に横風を受けない為だけじゃなく、集団内の他の選手にダメージを与える為だったのか…」
「そういうことだ。このハーレムカテゴリーにおいて重要なのは女性だ。栄光ある一位の称号を得られるのは女性。つまりエース……俺達男はアシストだ。なのにも関わらず、奴らは女性にも脚を使わせた。だから俺達に付いてこられなかった。考えてみれば当然かつ単純な事だがな」

 しかし、もう一つの正式なチーム《カミカゼ》の奴らは惜しかった。
 常に左端にいて横風を受けていたばかりに、知らず知らず体力を削られていたが、一人の女性は決してローテーションには加わっていなかった。
 一人の正式なエースを据えて走る。《カミカゼ》はそこが他チームとは違っていた。
 とはいえ、流石のハイペースに、奴らの女性陣もヘトヘトで、俺達に付いてこられなかった訳だが……。

 そうなるとやはり、驚くべきは――――御影だ。

 振り向き、俺は御影の表情を確認する。俺に気がつき、笑顔を作るが……別に笑って欲しくて見たわけではない。
 ロードレースのような有酸素運動を長時間行うスポーツでは、キツければキツイほど、それは表情に出る。
 息を上手くする為、口を開き、苦悶の表情を露わにする。しかし、御影は全くそれが無かった。
 俺が前の風除け、集団が横の風除けとなり、完璧に休めていたからというのもあるんだろうが……全く疲れの色を見せないとは、凄い体力だ。やはり、コイツは――

『さーて!残り時間までぇ〜残り1分となったわよ〜!この1分の間に〜?スタート地点に帰って、もう一周出来る選手はいるのかしらーん?』

 またも独特な実況が流れてくる。どうやら、レースはいつのまにか最終段階へと移行していたようだ。
 残り1分。俺達が今いるのはゴールまでの最終コーナー。つまり、

「まあ、色々驚かされたけど、一応納得はしたぜ。しかし、ここまで来たら過程は関係ねぇ……優勝はおそらく俺らに絞られた。分かってるとは思うけど、スタート地点に戻ってからが勝負開始だ…!」
「本当か?もしかしたら集団が追いつくかもしれないぞ?」
「へっ!冗談言って!」
「………だな」

 東条が芝居染みた感じに、俺の冗談を笑い飛ばした。
 …集団が俺達に追いつくことはもう無い。これは確実だ。
 最後にあれだけ加速したのだ、今頃集団は、東条達が飛び出した時とは比にならない程にバラバラになっていることだろう。

 つまりこれが――

『さあ!いよいよ終了時間5秒前よぉ〜ん!…5!4!3!2!1!――終了ー!さあ、今走っている周で終わりよー!最後の周回、頑張ってねぇ〜!
 そして〜…おっと、これは〜⁈一周多く走る、チームが2つ⁈……常に先行をして走っていたチーム《デモニック》と、土壇場で追いついた〜チーム《ゴールドムーン》よ〜!優勝を決める最後の闘いを行うのはぁ〜!この2チームよー‼︎』

 実況の通り、俺と御影、東条と高畑だけが、時間内にスタート地点に戻り、他の選手から一周多い周回へと突入していた。
 泣いても笑っても、この周で終わり……そう、つまりは――

「――ファイナルラウンドだ」

 俺は気合を入れ直し、そう呟いた。
 あと一周、約5kmで勝負が―――決まる。

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