倍率400の戦士達

てんとう虫

4.困惑する者させる者

ミト・コンドリアの話によると、この世界の問題点は一部の微生物の暴走らしい。簡単に言えば、親玉らしいミジンコを倒してしまえばいいのだ。敵のボスがミジンコと聞いたときは、笑みが溢れそうになった。だが、生物に詳しい俺はすぐに気づいた。細胞サイズの俺たちから見れば、ミジンコはかなり大きい。人間状態なら瞬殺なのだが、今の俺では体格差が真逆なのだ。

話が終わり、ミトさんはどこかに行ってしまった。ようやく一息つける安息の時間を手に入れたのだった。

「いやぁ、それにしてもお前の魔法の効果すげぇな。町の人が本物の人間に見えるぞ。」

特に理由も無いが、沈黙は辛いので俺のほうから話を切り出した。

「当たり前だよ。上下関係は大事にしないとね!  おっと口が滑っちゃった。」

ハディはあからさまに意味深な返事をしてきた。

「上下関係って……お前が上かよ!  救世主の俺のほうが立場的に上じゃない!?」

「救世主になるはずの、だけどね。まだ説明されただけで何もやってないじゃないか。だからまだ僕が上。」

こいつ本性を現し始めたな。意外に性格が攻撃的できつい。

「とりあえず町を案内とかしてくれよ。まだ分からないことだらけだ。」

ハディのほうも同じことを考えていたようで、すぐに賛成した。今のところ順調なのは確かなのだが、何か違和感を感じる。事がうまく進みすぎているというか、作られた話みたいというか、はっきりとは分からないが不安を感じる。

ハディが最初に案内してくれたのは、雑貨屋だった。グラナの入り口の門から遠くはなく、メインの道沿いにどっしりと店を構えていた。町は外見とは裏腹に、内部はしっかりした町だった。その雑貨屋は、よくある屋台のような構造をしており、店主が一人で経営する形式を用いていた。微生物にも『生計』という言葉が存在することを理解した。皆大変なんだな。
    雑貨屋では日用品の他に剣や防具といった、敵と戦うための装備品も販売していた。これには心底驚いたが、微生物の暴走が始まってから入荷したそうなので、納得した。要するに、好き好んでミジンコ討伐に行く物好きな人たちが買っていくのだろう。

次に案内されたのは宿屋。RPGでよくあるあれである。俺はそんなにゲームはしていなかったが、全くしていなかった訳ではない。基礎知識は身に付いているのである。今日はここに泊まっていくとハディが宣言していたが、一晩のお値段がなかなか高く、財布に暴行を加えてくるので拒否したかった。しかし、彼は説得が上手なのか、いつのまにか俺も了承していた。

最後に紹介されたのが中央広場。西洋では噴水があるのだろうが、この世界では噴水ならぬ噴土があった。文字どおり、土が噴水のように涌き出ていた。独自の文化が発展してきたのだろう。だが生憎、俺はその異様な光景から安らぎを一切感じなかった。むしろ心が落ち着かない。
    この広場で何人かの住民と話したが、皆性格が良すぎて困ってしまう。話しかけると笑顔で応対してくれ、どんな話題にものってくれる。逆にこっちが話しづらいくらいだ。

「これで主要な場所は全部かな。後の建物は民家だったり、散髪屋だったり、レストランとかだよ。」

床屋もあんのかよ。俺はこの個性的な町に慣れられるのかと不安になったが、住めば都とも言うし、時間の問題だろうと思った。一通り紹介されたが、まだ情報が足りない。情報というものの価値は高く、そう簡単には集められない。しかし、その努力を怠れば先に進めないのも事実なのである。

「まずは、ミジンコの居場所……かな。」

「確かにそれは大事だね。だけどそれは僕にも分からないんだ──ん?」

俺の質問に親切に答えようとしてくれたハディだが、なにか天敵でも見つけたような反応をした。その目はグラナの中央広場を挟んだ向かい側に向いていた。

「おいどうしたんだハディ?」

「な……なぜ……!?」

彼は明らかに困惑していて、警戒心が宿っていた。俺もハディの見ている方向に目を向けると、一人の女性が横切るように歩いていった。彼女は黒い髪を腰付近まで伸ばしており、不思議な雰囲気を纏っているようだった。だがその顔を見るより先に、奥の通りに消えてしまった。
    だが、なぜハディが戸惑っていたのか理解できない。特に大きく変わったところが無く、いたって普通の人に見えたからだ。そのうえハディが見ていた方向には彼女の他に誰もいなかったし、建造物もさっきからあったものしかない。

「おい、なんとか言ったらどうなんだ?」

「すまないね、何でもないよ。」

何でもない訳がないのだが、それ以上問い詰めることはしなかった。あまり踏み入れるべきではなさそうだし、他人のプライベートに口出しするような性格でもない。

「話は戻るんだが、敵の居場所が分からなければ、どうしようもなくないか?」

「よく考えるんだ。僕が知らなくても他に知っている人がいるかもしれない。例えばほら、暴走している微生物とか──」

確かにそのとおりかもしれない。敵のボスについては、その配下達が一番よく知っているはずだ。森から出てくるマイナスイオンを肌で感じながら、俺は救世主への道の構図を思い浮かべていた。

「あれ、そういえば敵からどうやって聞き出すんだよ。」

「忘れたのかい?  僕の魔法で君はこっちの言葉を習得したんだ。倒したあとにじっくり聞くといいよ。」

ハディの言う『じっくり』が拷問のように感じたのは俺だけだろうか。児童期くらいの声でその表現を使われると、結構恐怖をかmんじるんだが……

「とりあえず武器を買わないといけないよな。お前お金って持ってる?」

「お金くらい自分で稼いだらどうだい?  僕が汗水垂らして稼いだお金を簡単に貸すわけないじゃないか。」

「お前なかなかケチだな……」

つまり、俺は仕事をする必要ができたのだ。就職するまでまだ3年もあるとか思っていた昨日までの自分が懐かしい。普通に大学に通っていたが、まさかこんなことに巻き込まれるなんて想像もしなかった。

そうして未来の救世主──アキラは、日没までの時間を求人探しに当てたのだった。

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