倍率400の戦士達
3.安全地帯
「なぁ、ハディ。その町とやらにはまだ着かないのか?」
あれから数時間森の中を歩き続けている。とてつもなく長い道のりの予感がするが、川が多いのが俺を救ってくれている。唯一の心の支えと言うべきだろうか。疲労がたまって限界に達し、心が折れそうなときに水が待っていてくれている。その繰り返しでここまでやって来た。
「もうすぐだよ。ほら看板が見えてきたよ。」
ハディが見ている方に目を向けると、遠くの方の地面に木製の看板が突き刺さっているのが見えた。特に目立つ汚れやシミが無く、清掃されているのが分かる。
  ──微生物も看板使ってるのかよ──
さっきから地味に生活感があって、この状況を信じざるをえなかった。本当に俺は小さくなってしまったのか。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。これ日本語じゃないぞ。」
気づいてみれば確かにそうなのだ。ここは日本であるが、さっきの落ち葉の中の1つという、非常に小さい空間である。領地は日本でも、もはや日本ではないのかもしれない。つまり、小さい生き物達が日本語を使っているわけがないのだ。(人間以外が文字を使用している時点で驚くべきことだが)
「当たり前だよ。いくら擬人化したとはいえ、言語は違うからね。」
「じゃあどうすんだよ。」
「彼らの言葉がわかるようになる魔法をかけてあげるよ。」
「そんな魔法もあるのかよ!  お前すげえな。」
「えいっ!」
ハディに魔法をかけてもらうと、一瞬視界が真っ白になった。五感が全て無くなり、極限に集中状態になったかのようだった。もとに戻ると、目の前にあった看板の文字が読めるようになっていた。
  ──読める。読めるぞ!──
その文字は確かに日本語に変わっており、不思議な感覚が胸の中を支配した。看板によると、町の名前はグラナというらしい。だが、その町への方向以外はなにも書かれていなかった。余分な情報は全て省かれている。
「グラナか。一体どんなところなんだ?」
「いわゆる安全地帯っていう場所だよ。グラナの町だけ、特別な理由があって敵が近寄らないんだ。」
彼は自信ありげに胸を張って答えた。そんなに自慢できる知識ではないと思うのだが……
「特別な理由…………ってなんだ?」
「なんでも聞いてばかりじゃつまらないよ。答えは自分の目で確かめてみれば?」
ハムスターの目は可愛げに見える。だが今のハディの目は悪戯心満載だった。ためらう必要があるのかは分からないが、一人で楽しんでいるように感じる。これがSというやつなのだろうか……
「さぁ、そんなことより早くいこうよ。日が暮れたら森は暗闇だよ。」
電灯や街灯が無い地域の夜は、俺も体験したことがある。まさに闇そのものだ。1m先の地面が見えない状況というのは、経験したものにしか分からない。当然だが危険である。スリルを楽しく感じる人は別だが。
「ついたよアキラ。これが安全地帯の町グラナだ!」
人の想像とは恐ろしいものらしい。俺はこのことを身をもって体験した。俺はてっきりグラナを都市、またはそれに近い大きめの町と思い込んでいた。門はゴツゴツとした石レンガを隙間無く積み重ね、町の中では店や広場が大いに賑わい、活気という言葉を肌で感じるような場所であると。
その現実とのギャップが俺を大きくガッカリさせたのだった。理想と違うとはまさにこのことである。
「ハディ、俺は今詐欺師に騙された人の気分だ。」
「サギシ?」
「いや何でもない。別に重要なことではないし、微生物に期待した俺がバカだった。」
おやじギャグを突然言ってみたりすると、相手が聞き取れない場合がある。そういう下らないことを聞き返された時の心境がこれに該当する。正直言い直したくはない。
「アキラ、とりあえず入ろう。いろいろ紹介することがあるしね。」
そうして、ただ柱が立っているだけの門をくぐり、グラナに入った。意外なことに、地面はちゃんと舗装されており、建物もきちんとしている。どっちかと言えば洋風なのだが、広場に鹿おどしが設置されているのを見ると、頭が混乱してくる。この文化はどこから取り入れたのだろうか。たまたま日本人の感性と微生物の感性が一致した可能性もある。人は決して多くはないが、割と賑やかなので安心した。誰もいない場合想定していたので、ハードル下がっていたのだ。
「んぅ?  見ない顔だぁね。きみは一体誰だぁい?」
変な口調で話しかけてきた人は、普通の町民とは違うただならぬ雰囲気を醸し出していた。外見はいろいろおかしいが、特に服装がゴージャスすぎる。どっかの貴族か富裕層と思われる彼は、ニコニコしながらこちらを見ている。
「やぁミト・コンドリア。久しぶりだね。」
「おぉやぁ?  そこにいるのはハディかぁい?  小さいから見逃しちゃうところだったぁよ。」
  ──ミトコンドリアだと!?──
その名は何度も聞いたことがある。俺の得意科目は生物なのだからな。やっぱり小さい世界では、教科書の中の名前と一緒なのか。
「あの、ミトコンドリアさん。俺はハディからここに連れてこられたんです。なんかここ大変みたいですね。」
「それなら話が早いぃね。ちなみに私は町長だぁよ。あと正確にはミト・コンドリアだぁよ。ミトとでも呼んでくれぇよ。それじゃあグラナを代表してお願いするぅよ。助けてねぇ。」
「いやそんなサラッと言われても困るんだけど……、俺は何をすればいいんだ?  魔王的な奴がいるとか、世界崩壊の危機とか?」
いまのところ、この世界が危なそうな印象が全く無い。何を助けて欲しいんだろうか。
「全部違うぅよ。さっそく本題に入るぅよ。」
それから約20分ほどミトの説明が続いた。変な口調はずっと聞いていると、ただの雑音にしか聞こえなくなってくる。なかなか辛いものであった。まだ頭の中であの声が流れている。彼はどこでそんな話し方を覚えたのか。どうでもいいけど、なんか知りたくなってきたじゃねぇか。
あれから数時間森の中を歩き続けている。とてつもなく長い道のりの予感がするが、川が多いのが俺を救ってくれている。唯一の心の支えと言うべきだろうか。疲労がたまって限界に達し、心が折れそうなときに水が待っていてくれている。その繰り返しでここまでやって来た。
「もうすぐだよ。ほら看板が見えてきたよ。」
ハディが見ている方に目を向けると、遠くの方の地面に木製の看板が突き刺さっているのが見えた。特に目立つ汚れやシミが無く、清掃されているのが分かる。
  ──微生物も看板使ってるのかよ──
さっきから地味に生活感があって、この状況を信じざるをえなかった。本当に俺は小さくなってしまったのか。
「おいおい、ちょっと待ってくれ。これ日本語じゃないぞ。」
気づいてみれば確かにそうなのだ。ここは日本であるが、さっきの落ち葉の中の1つという、非常に小さい空間である。領地は日本でも、もはや日本ではないのかもしれない。つまり、小さい生き物達が日本語を使っているわけがないのだ。(人間以外が文字を使用している時点で驚くべきことだが)
「当たり前だよ。いくら擬人化したとはいえ、言語は違うからね。」
「じゃあどうすんだよ。」
「彼らの言葉がわかるようになる魔法をかけてあげるよ。」
「そんな魔法もあるのかよ!  お前すげえな。」
「えいっ!」
ハディに魔法をかけてもらうと、一瞬視界が真っ白になった。五感が全て無くなり、極限に集中状態になったかのようだった。もとに戻ると、目の前にあった看板の文字が読めるようになっていた。
  ──読める。読めるぞ!──
その文字は確かに日本語に変わっており、不思議な感覚が胸の中を支配した。看板によると、町の名前はグラナというらしい。だが、その町への方向以外はなにも書かれていなかった。余分な情報は全て省かれている。
「グラナか。一体どんなところなんだ?」
「いわゆる安全地帯っていう場所だよ。グラナの町だけ、特別な理由があって敵が近寄らないんだ。」
彼は自信ありげに胸を張って答えた。そんなに自慢できる知識ではないと思うのだが……
「特別な理由…………ってなんだ?」
「なんでも聞いてばかりじゃつまらないよ。答えは自分の目で確かめてみれば?」
ハムスターの目は可愛げに見える。だが今のハディの目は悪戯心満載だった。ためらう必要があるのかは分からないが、一人で楽しんでいるように感じる。これがSというやつなのだろうか……
「さぁ、そんなことより早くいこうよ。日が暮れたら森は暗闇だよ。」
電灯や街灯が無い地域の夜は、俺も体験したことがある。まさに闇そのものだ。1m先の地面が見えない状況というのは、経験したものにしか分からない。当然だが危険である。スリルを楽しく感じる人は別だが。
「ついたよアキラ。これが安全地帯の町グラナだ!」
人の想像とは恐ろしいものらしい。俺はこのことを身をもって体験した。俺はてっきりグラナを都市、またはそれに近い大きめの町と思い込んでいた。門はゴツゴツとした石レンガを隙間無く積み重ね、町の中では店や広場が大いに賑わい、活気という言葉を肌で感じるような場所であると。
その現実とのギャップが俺を大きくガッカリさせたのだった。理想と違うとはまさにこのことである。
「ハディ、俺は今詐欺師に騙された人の気分だ。」
「サギシ?」
「いや何でもない。別に重要なことではないし、微生物に期待した俺がバカだった。」
おやじギャグを突然言ってみたりすると、相手が聞き取れない場合がある。そういう下らないことを聞き返された時の心境がこれに該当する。正直言い直したくはない。
「アキラ、とりあえず入ろう。いろいろ紹介することがあるしね。」
そうして、ただ柱が立っているだけの門をくぐり、グラナに入った。意外なことに、地面はちゃんと舗装されており、建物もきちんとしている。どっちかと言えば洋風なのだが、広場に鹿おどしが設置されているのを見ると、頭が混乱してくる。この文化はどこから取り入れたのだろうか。たまたま日本人の感性と微生物の感性が一致した可能性もある。人は決して多くはないが、割と賑やかなので安心した。誰もいない場合想定していたので、ハードル下がっていたのだ。
「んぅ?  見ない顔だぁね。きみは一体誰だぁい?」
変な口調で話しかけてきた人は、普通の町民とは違うただならぬ雰囲気を醸し出していた。外見はいろいろおかしいが、特に服装がゴージャスすぎる。どっかの貴族か富裕層と思われる彼は、ニコニコしながらこちらを見ている。
「やぁミト・コンドリア。久しぶりだね。」
「おぉやぁ?  そこにいるのはハディかぁい?  小さいから見逃しちゃうところだったぁよ。」
  ──ミトコンドリアだと!?──
その名は何度も聞いたことがある。俺の得意科目は生物なのだからな。やっぱり小さい世界では、教科書の中の名前と一緒なのか。
「あの、ミトコンドリアさん。俺はハディからここに連れてこられたんです。なんかここ大変みたいですね。」
「それなら話が早いぃね。ちなみに私は町長だぁよ。あと正確にはミト・コンドリアだぁよ。ミトとでも呼んでくれぇよ。それじゃあグラナを代表してお願いするぅよ。助けてねぇ。」
「いやそんなサラッと言われても困るんだけど……、俺は何をすればいいんだ?  魔王的な奴がいるとか、世界崩壊の危機とか?」
いまのところ、この世界が危なそうな印象が全く無い。何を助けて欲しいんだろうか。
「全部違うぅよ。さっそく本題に入るぅよ。」
それから約20分ほどミトの説明が続いた。変な口調はずっと聞いていると、ただの雑音にしか聞こえなくなってくる。なかなか辛いものであった。まだ頭の中であの声が流れている。彼はどこでそんな話し方を覚えたのか。どうでもいいけど、なんか知りたくなってきたじゃねぇか。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
52
-
-
17
-
-
22803
-
-
75
-
-
1978
-
-
24251
-
-
221
-
-
314
-
-
70810
コメント