倍率400の戦士達

てんとう虫

2.小人の見る景色

ここはどこだろう?

今は何時だろう?  

朝なのか夜なのか、この真っ暗な状態では何も分からない。意識もまだ朦朧としていて、完全に目が覚めたわけではないらしい。少しの光も差し込まないこの場所は、何か大きな箱の中に閉じ込められているかのように感じる。

だが箱の中にしては、頭の後ろが少し柔らかすぎる気がする 。そこで肩から踵にかけて感触があることに気づいた。

  ──俺は倒れているのか?──

頭の中で言葉を思い浮かべていると、だんだんと脳が活発になってきた。聴覚が復活し、音の存在を確認できる。水の音か滝の音か、気分のいい自然音が耳に集まってくる。小鳥のさえずりが聞こえ、現在が朝であることを物語る。

どうやら俺は目をつむっていたらしく、瞼の隙間から光を認識できた。下半分が外の光で、上半分が瞼の裏という微妙な視界は、俺にとって地味に幻想的であった。

「──眩しい」

やっとの思いで振り絞った言葉がそれだった。だがそれよりも、目の前に広がる光景に言葉を失った。

そこは見たことも無い景色で、アマゾンのジャングルとは違い、まるでアニメに出てくるような美しい森そのものだった。麗らかな雰囲気の中、木々が生い茂り、透明な水がサラサラと流れる川がある。少し先には、整えられているかのように草の高さが均一になっている草原が広がっていた。

本当ならこの神秘を見て感動できたらいいなと思う。だが、それは叶わぬ夢だ。今の状況で落ち着けるはずが無い。

「いや、ここどこだよ!」

俺は昇り始めた太陽(あの星が太陽なのか定かでは無いが)に向かって叫んだ。覚えている記憶を辿ると、あの怪しい落ち葉を蹴ったところまで覚えている。いったいあの後何が起こったんだ。

「──はっ!」

そこで俺は最悪な予想を一つ立ててしまった。今の状況を整理すると、現実的では無いが思い当たる節がある。

  ──ここは天国なのでは?──

絶句した。俺って死んだの?  さすがにそれは悲しいよ!  まだ少ししか生きてないのに……

なんて思っても事実は変わらない。だからといって行く宛も無い。この天国っぽい場所を永遠にさまよい続けるのかと思うとゾッとする。

「やぁ、お目覚めかい?  お客人」

頭の中で大戦争を繰り広げていたとき、急に背後から声が聞こえてきた。その声は少し幼めの男の子のような声だった。声のする方に顔を向けると、そこには一匹のハムスターがいた。いや、正確に言えば言葉を話している時点でハムスターではない。だが見た目はごく普通のハムスターであり、ちょっと違うとしたら尻尾が二本あることだけだ。しかもちょっと長いし。

「うわあっ!」

さすがに俺も驚いた。動物が喋ってるのはおかしいからだ。実際に普通の町に飛んでいるハエが喋りだしたら、誰もが腰を抜かすことだろう。

「いきなり失礼だね。まぁ驚くのも無理もない。」

「お前何者だよ。天使ハムスターかなんかか?」

俺はとりあえず、思い付いたことを言っていた。さっきは驚いたが、孤独でいるよりは頼りがいがある。聞きたいことも山ほどあるからだ。

「悪いけど、何言っているのかさっぱりだ。別に僕は天使じゃないし、ハムスターでもない。もし僕がハムスターなら、君なんて踏み潰しちゃうさ。」

「ハムスターはそんなに凶暴じゃねぇよ。」

「ごめんごめん、まだ君に説明していなかったね。」

「何をだよ。ハムスターの凶暴性か?」

「そうじゃないけどね。まぁ簡単に説明すると、君は今とてつもなく小さい。」

最初はその言葉の意味が分からなかった。器の話なのか体の話なのか、少なくとも体はそんなに小さいほうではない。背の順では後ろから数えた方が早いし、家族のなかでは一番背が高かった。

「は?」

「君は人だけど、実はちょっと違う。体の大きさは細胞よりちょっと小さいくらいだよ。つまり小人ってこと。」

『細胞』という言葉は、学校でもう聞き飽きるほど聞いた。細胞サイズと言えば、だいたい顕微鏡の対物レンズで400倍の大きさだ。小人ってレベルじゃない気がするのだが……。

「さらに付け加えると、君をここに連れてきたのは僕だよ。君が蹴った落ち葉の山は僕が作った魔方陣みたいなもので、体を小さくする効果を付与したんだ。」

「今サラッとすごいこと言ったな。お前魔法が使えるのか?」

「そうだよ。ちなみに僕の名前はハディ。よろしくね。」

いろいろと全容が見えてきたが、まだ半信半疑である。俺はもともとアニメやマンガを見ない。だから魔法なんて信じたくもない。だがここが本当に小さな世界なら、細胞達はいいところに住んでいるんだなとか思える。

「最後に1つ聞きたいんだけど、お前は何で俺を小さくしてまでここに連れてきた?  さっきお客人とか言ってたけど……」

「わざわざ名前を教えたのに、お前って呼ばれるのは悲しいものだよ?  まぁいいけどさ。」

確かにさっきハディって名乗ってたが、既に忘れていた。俺って結構そういうことに関心が無いのかもしれない。でも名前くらいは覚えておいてあげよう。

「さっきの質問の答えだけど、この縮尺の世界でも平和じゃないときってのがあるんだよね。それが今なの。つまり、助けて下さいってことだよ。」

なるほど非常に分かりやすい説明ありがとうございます。なんて思うわけが無い。何で俺なんだよ。

「おいハディ、肝心な部分が欠落してるんだが、俺を選んだ理由は何だ?」

「人間なら誰でもよかったよ。その頭脳は微生物には無いんだ。だから頭のいい生物を連れてきただけのことだよ。それで平和になるかもしれないからね。君が選ばれたのはたまたまなんだ。」

まじかよ。あんな落ち葉蹴るんじゃ無かった。面倒なことに巻き込まれたものだな。

「あ、そういえば他の生物とも接しやすいように、他の生物全てに擬人化の魔法をかけておいたよ。じゃあ、行こうか。楽しい細胞ライフを送ろうね。」

「行くってどこへ?」

「こんな世界だけど、町があるんだ。」

俺は細胞や微生物が作る町や建物興味が湧いた。授業で習ったように細胞膜とか核とかがあるのかな。

俺はハムスターっぽい生物のハディと共に、町へ向かった。



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