神々に育てられた人の子は最強です
毒の理由
毒竜蛇。
体長最大20mにも届くと言われている、世界最大の蛇。その体を覆う鱗はドラゴンよりは硬度が劣るものの、かなりのものだと言われている。生半可な武器で戦うのはただの死にたがりだ。
その上世界でトップクラスの毒を持つ蛇でもある。
毒竜蛇はそれ程の脅威の魔物なのだ。
「まさか、先程の一瞬で………!?」
「はい。すみません。昔から、初めて出会った人はよく観察しておけと言われていたので、つい」
「い、いえ」
サーナス様は驚き、戸惑うような顔をして、ネルとルティーは口を開け驚いている。
それもそうだ。毒竜蛇とは、冒険者のクラスで言うところの、S+に値する魔物だ。そんな魔物の毒に、一国の王が侵されたのだ。その反応をするのも当然だろう。
「どうしてこんなことになったんですか?」
サーナス様は黙ってしまった。
色々考えているのだろう。これをネタにこれからもテンプ王が死ぬまで、何かを要求されるのではないか。そういうのを考えていそうな気がする。
なので、先に言っておこう。心配だ。
「あの、別に知ったからって何かを要求する訳でもないので、心配しなくても言いですから」
「………」
そう言っても、話す気配はない。まぁ、突然やって来た者に言う話ではないからな。仕方がないだろう。
「まぁ、だいたいはわかっていますよ」
「………!?」
「国土の小ささ、領地の狭さ。それとは逆に、人口は増えていく。金の問題は少ないはずですね。
何故ならこの国には湖がある。他の人は勘違いしているが、あれは海ではなく、巨大な湖です。しかし、湖だが、そこでは高級魚の魔物が取れる。ならばそこで稼げるはず。
だから残る一番の問題が、最初に話した土地です。あまりにも小さすぎだ。ほとんどが町のようなもの。しかし、それは他国も同じ。理由も一緒でしょう。だが、流石にこれは話せることではないからよしましょう」
サーナス様とネルとルティーは呆然としていた。
今話したのは全て真実だ。それにしても驚いた。盤上の地図で確認したが、海ではなく湖だったとは。
それに、国土と領地の理由。それは、最初から気になっていた。この世界に召喚され、帝国で最初に行ったダンジョンで盤上の地図を開いたが、その時はあそこから帝国とルミナ王国が見えていたからだ。
俺の盤上の地図の効果範囲は10km。しかし、今回ルミナ王国からクルウェント王国までの道のりが約6kmだった。もしかすると、他の国も同じように、国と国の境は無いんじゃないのか?
一つの領地のようなものが国自体ではないのか?
そう考えた俺は、盤上の地図の上位のスキル、盤上の世界地図を使い、確認した。
盤上の世界地図。
それは盤上の地図の上位種に位置するスキル。
効果は、星の形、表面にある建物などを盤上の地図のように立体化して視界に生み出すスキルである。
結果は当たり。予想通りだった。
この世界の大陸のほとんどが、死んでいる。
盤上の地図で見たが、ここと他の国は大陸の中心部に位置する。しかし、その周りの大地には、木、水などの自然が無くなっていた。
その答えは簡単。
【魔眼】魔力可視化を発動する。
そこにはこの世界では、欠かせないものが無くなっている。
そう、答えは魔力だ。
この大陸のほとんどの大地が魔力を何かから吸い尽くされ、周りの土地のほとんどが枯れ果て死んだ大地となっているのだ。
これでは建物を建てることも、畑を耕すことも、水を流すことさえも出来ない状態だ。
「つまり、その土地の問題のせいで、恐らく他の貴族に怒りを買い、毒竜蛇の毒を盛られた。そんな所でしょう」
俺は自分の考えを話し終わると周りを見渡した。理由は、この部屋からは息を吸う音しか聞こえないからだ。
見れば、全員が固まっていた。呼吸はちゃんとしているが、それ以外何もしていない。いや、何も出来ないのだろう。
「そこで良いお知らせがあるのですが……。いいですか?」
「は、はい……」
「俺だったら、その状態異常を治せるんですが」
「それは、毒竜蛇の毒に侵されている状態を回復させることが出来るポーションの素材を採ってくる、ということですか?」
「いや、普通に魔法でですが……?」
その言葉を聞き、これまた驚いたサーナス様。
「シンヤ、毒竜蛇の毒は特殊な素材を使って状態を回復させるの。魔法で治すことが出来るなんて、そんなことが出来る人は、この世界のどこかに居る『賢者さま』しかいないわ」
そう教えてくれたのはルティーだった。
「そうなのか?毒竜蛇の毒って、ただ魔力が自然と勢いよく漏れ出して失うことと、各内臓器官の細胞が破壊されるだけだぞ?」
「細胞……?って、魔力が自然と勢いよく漏れ出して失うって、命の危険があるじゃない!」
確かに。俺がいた世界は魔力が無く、魔力の消費によって死ぬことはなかった。しかし、こちらの世界には魔力は存在し、生物が生きていく中で必ず必要なものだ。だから魔力を失うと、この世界の人は死んでしまう。ルティーはそう言っているのだ。
そうか。俺は子供の頃、色々な毒の抗体を持つため、様々な毒を摂取し、抗体を得てきた。そのお陰で、状態異常の一つである、【毒無効】を身につけたのだ。
それから本当に色々な状態異常を受けても平気になる為、子供の頃から地獄を見てきた。………懐かしいな。
「まぁ、毒竜蛇の毒はそれほど危険な効果を持つものだってことだ。そこでサーナス様、もう一度言います」
「………」
「俺はその毒竜蛇毒を、治すことが出来ます」
「…………それが本当なら、どうか、よろしくお願いします」
「わかりました!」
そういうことで、俺たちはまた最初に案内された国王が眠っている部屋に向かった。
ベットには、顔を真っ青にしながら息苦しそうに眠っているテンプ国王。
「これは少しやばいですね。早く回復させなければ、今日中には死にますよ。毒竜蛇の毒は、効果が強力な為、侵攻速度は通常の毒よりは遅い。この状態を見れば、盛られたのは昨日の晩、って所でしょうか」
「っ!?」
「そんな顔をしないでください。サーナス様。ちゃんと治しますよ。ふぅ………。女神の息吹」
俺は右手を国王の身体の上に出して言う。
テンプ国王の身体が虹色に輝き出す。
女神の息吹。
あらゆる状態異常を治す魔法。
治癒魔法の中で完全治癒と並ぶ最上位の魔法である。
テンプ国王の身体は、虹色に輝き出した途端、顔に赤みが戻り、呼吸をするのが安定した。
輝きは止まり、その様子が見て取れる。
そんなテンプ国王の姿を見て、サーナス様は気品を保ちながらも、涙を流しながら喜んでいる。
どうやらテンプ国王とサーナス様はかなり仲睦まじいようだ。
「これでもう大丈夫。ちゃんと毒竜蛇の毒は体内から失われ、元に戻りました。あとはいつも通りの生活をしていき、魔力の回復を待つだけです」
「そう、ですか。ケルビンとマミーの件も含め、本当にありがとうございました」
サーナス様はまたも、深々と頭を下げられた。普通、平民に頭を下げるなどのことはしない王族が、これを含め、俺たちに二回も頭を下げた。こんなことがあるとは。
「ここまでして頂いて。どんなお礼をしたらいいか」
「あー、その事なんですが、一つ、お願いがありまして。それをお礼にしてくれますか?」
「はい。どんなものでも構いません。私の身体以外は」
「……当たり前ですよ……。えっと、俺の願いは、この子達を、ケルビン王子とマミー王女の友達にしてもいいですか?」
その言葉に、サーナス様は呆気を取られたような顔をしている。
「そ、そんな事でいいですか?」
「はい。この子達には、同年代の友達がいないので。流石にこの年で友達がいないのは、自分としては可哀想と思ってしまう」
俺の時は、愛菜と雫がいて、家に帰れば神様たちがいて何もなかった。
しかし、ハクとルナはまだ生まれて友達がいない。いると言えば、ネルとルティーだが、二人ともハクとルナからは歳がかなり離れている。自分の娘が友達もいないとなれば、少し残念だ。
「わかりました。では、ケルビンとマミーに言っておきます」
「あ、それと、一ついいですか?」
「はい。なんでしょう?」
「えっと、この子達を魔法学園クルウェントに通わせたいんです。あと、ネルとルティーも。お金はこちらで出しますので」
「「!?」」
ネルとルティーに驚きが現れる。
「それはまた、どうしてですか?」
「もしかすると、今回の国王暗殺が失敗したせいで、ケルビン王子とマミー王女に被害が出る可能性があります」
「………」
サーナス様はあまり驚いた様子もない。少しはわかっていたのだろう。その可能性があることに。
「まぁそれはこの子達が護ってくれるでしょう」
「では、その御二方は?」
「ネルは魔法使いなので、クルウェント魔法学園のようにしっかりした学園で学ばせるのがいいと思いました。ルティーはまだあまり魔法を使ったことが無いようです。どうせずっと遊んでいたんでしょう
「うっ」
「しかし、こいつにはネルと同等の素質がある。魔法を学ばせて、損は無いでしょう」
「ネルさんの素質と言うのは、どれ程なんでしょうか?」
「冒険者のランクで言えば、SSランクといった所でしょうか」
「そうですか」
サーナス様は少し何かを考えているようだ。何だか嫌な予感がする。
「わかりました。そちらの方々を入学させる代わりに、貴方も入ってもらいましょう」
「………!?」
俺はついどういうことかわからなくなり、考え込んでしまう。だって俺が頼んだのは、ハク、ルナ、ネル、ルティーの学園入学。俺が別に入りたいとは言っていない。
「あっ、でも、シンヤさんは生徒ではありません」
「まさか……」
「はい、教師として魔法学園クルウェントに入ってもらいます」
これか、俺の感じていた嫌な予感は。どうしてそうなったんだ?
「さっきも言いましたよ?ケルビンとマミーが『いつ発動したかわからない速さで魔法を放った』と」
「確かに……そんなこと言ってましたね」
「はい。なので、これからは、学園の方でも、よろしくお願いします。シンヤ先生」
「はい……。わかりました……」
そう言うことで、何故か俺までもが、クルウェント魔法学園に入るハメになってしまったのだった。
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