神々に育てられた人の子は最強です

Solar

精霊の羽とエルフの里

 
 精霊族の羽。

 それは曰く、人間が持つことのできない量の魔力を溜め込み、すり潰せば万能薬となると。

 曰く、そのまま食せば魔力が爆発的に増え上がり、魔力そのものを感知することができると。

 曰く、羽を手に入れた者には幸運が降ってくると。


「そんな精霊族の羽が出品したんだ。権力者は当然得ようとする。結構な高値で売れるだろう、一般の者が出せる額ではないほどに」
「じゃあ、その羽が付いていた精霊族の者は?」
「わからない。一緒に出品されているかもしれないし、殺されて身体の構造を見られているのかもしれない。もしくは、捕まえた者がどこかに隠しているのかもしれないよ」

 クロントは少し悲しげな表情で言う。

 ほう、まさかそんな事をする奴らがいるとは。さすが人間だな。腐っている。

「………だって精霊族の本体の効果を知っている者は限りなく少ないから……」
「それは、どういう事だ?」

「先程話したのは、羽だけ・・の効果なのさ」

「羽だけの?」
「うん。それはつまり、本体自身にも別の効果があるということ」
「っ!」

 誰かが息を呑む。
 元々この場にいる全員が、真剣にクロントの話を聞いていて、最初の精霊族の羽の効果だけでも驚きのことなのに、精霊自身にも効果があるという。そんなの、当然言葉がでない。


 曰く、精霊の涙を飲めば人知を超えた力を得ると。

 曰く、精霊の涙は希に結晶体として現れ、それを体内に取り込めば不老不死なると。


 何とも驚くべきことだ。
 それ程の効果を持っていたとは。

「まぁまず、羽の事と本体の事を知っているものは少ない。大抵の一般人は知る由もないだろう、神話のように、見つけたら羽をもぎ取り売り飛ばし金にする。そんなものだよ」
「なるほど。それもそうだな」
「でもまさか、神話に出てくる精霊族が本当に実在するとはね。まだ多くの人は信じていないとは思うけど、本当だったら精霊族が見つかった場所に、多くの捜索隊が派遣されるだろう」
「お前は信じているのか?精霊族が存在するということを」
「まあね」

 クロントは何故だか懐かしそうに、そう言った。

「笑わないのかい?」
「どうして?」
「精霊族とは神話に出てくる存在。今もいるかわからないし、元々存在していたかすらわからないもの。そんなものに興味持って探していた僕は、小さな頃から周りの者に笑われてきたよ」

 あはは、そう乾いた笑いで頬を掻くクロント。

「なんで笑うんだ?」
「えっ?」
「いや、今ので笑う部分なんてあったか?」
「………」

 クロントは呆然としてこちらを見る。

「だって興味を持ったんだろ?それを求めて探していたんだろ?何が面白いんだ?俺はすごいと思うぞ」
「すご…い?」
「ああ、すごい。普通の奴らなら笑われたらすぐ諦めて自分を蔑み、他の奴らと同調して笑い合う。でもお前は笑われても頑張って探していたんだろ?ならすごいじゃないか。俺はその努力を否定するつもりはない」

 呆けた顔をするクロント。隣で座っているハクとルナはなんの話かあまりわかっていない様子。ネルは今も真剣な顔だ。

「はは、そう言われたのは初めてだよ」

 クロントは嬉しそうな表情で言う。

「さて、俺たちはこれからどうすればいい?そっちでは用心棒って宣言したけど」
「どうもしなくていいよ。うちは基本自由だからね。まあ、僕が動く時は一緒に来てもらうけど」
「そうか。すまん、早速だが、俺たち明日動けないんだが」
「何か大切な用事でもあるのかい?」
「ああ、めんどくさいが行かなきゃいけないようだ」
「わかった。では明日は休みでいいよ」
「ありがとう」

 俺は礼を言い、トイレに行くため少し席を外した。

『主君よ。報告がある』

 突然頭に響いた声は、この前愛菜と雫にあった時に一緒にさせた八咫やたの声だった。

『どうした、八咫やた
『勇者の何人かがいなくなっている』
『いなくなっている?』
『ああ。クエスト等で多大な功績を挙げなかった者の多くが姿を消しておる。帝国からは常に騎士と一緒に動くよう言われているため、その騎士から死んだと報告されておるわい。
 しかし、事実は違った。いなくなった者はその騎士に連れていかれ、帝国の地下へと消えてった』
『そいつらはどうなったんだ?』
『わからなぬ。消えた者は一度も帰ってきえおらぬゆえな』
『わかった。では、そのまま愛菜と雫のことを頼む。俺は少し、帝国の調査に向かうよ』
『了解した』

 八咫との通信が切れた。

 まさかクラスメイトが消えているとは。これって知っているのにほっといたこと愛菜と雫に知られたら、怒られるよな。二人とも正義感強いし。って言うか、八咫がチクるかもしれないから、やっておくか。

【分身】

 すると俺の背中が引っ張られたと思うと、俺と同じ服を着て、同じ顔をした、全くの同一人物が生まれた。

「じゃあ頼む」
「ああ、任せておけ」

 もう一人の俺は隠密に必要なスキルを全て使い、視認できないようになり消えていった。

「ふぅ。これで大丈夫だろう」

 俺はそう言って、またトイレに向かう。
 すると、違和感が起きた。
 自分の身体が浮遊感に襲われた。
 そして俺は、ヒュンッ、という音を出し、この国、クルウェント王国から姿を消した。





「わああああああああ!!」
「あははははっ。まてまてーー!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!」
「おいおいもう逃げるのは終わりかーーー?」

 次に目を開けた時、目の前に広がっていた光景は、ゆらゆらと真っ赤に燃える木々と家、血で赤く染まる大地、泣き叫ぶ声を上げながら逃げ惑う者と歪んだ笑みを浮かべながら半狂乱な声を上げ、逃げ惑う者たちを追いかける者。
 逃げ惑う者は追いかける者に剣を向けられ、刺され、斬られ、薙ぎ払うなどされ、鮮血を飛び散らせ、血を身体に纏わせた。

 重なった。そう思った。あの、真っ黒な箱から漏れ出した何かに。

「シンヤ!」

 自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。一瞬反応が遅れてそちらを見る。
 そこには、身体に沢山の切り傷を持ち、元は美しく輝いていた金の髪が、血と燃え盛る木々の炎によって赤に染っている。そして、首に掛けているのは俺がここに来た時に渡したペンダント。

 ルティーだった。

「シンヤ!助けて!」
「ああ、わかっている!空間凍結タイムカプセル!」

 途端、地面に十二時ぴったしを指す時計が浮び上がる。
 そして、その時計はゆっくりと動きだし、ガコンッと重い音を鳴らせながら一定のリズムで秒針を進ませる。

 空間凍結タイムカプセル

 この場にある空間の全てのもの、一分間の間、静止させる。
 ゆらゆらとその身を揺らし真っ赤に染まる炎も、俺以外の生き物の動きも、何もかもがこの場では意味を無くし動くことを止めさせる。
 俺はすぐに走り出し、逃げ惑う人達と追いかける人達をその場で分け、追いかける人達を影の縄シャドーウィップで縛り上げる。
 次ぎに、炎を消すため水魔法が一つランクアップした魔法、流水魔法を使う。

 流水砲撃ウォーターカノン

 水球ウォーターボールの数倍の球が幾つも現れ、それらが赤に輝く炎目掛けてドゴンッという音を出しながら飛んでいく。そして炎に当たった瞬間、ドッパァァァンと派手な音を立てて炎があった場所が消し飛んだ。

 ガコンッ

 作業中にも鳴る秒針が進む音は、もうすぐ一周して一分間空間を凍結させるという役目を終える所だった。

 範囲治癒エリアヒール

 自分を中心とした円の中に入っている人の全てを癒す魔法。
 これで、エルフ族のみんなについていた傷は癒された。
 捕縛した人達から武器や防具を取り上げる。
 作業中は素早く終わらせるため見ていなかったが、よく見れば逃げ惑っていたのはエルフ族、追いかけていた甲冑を被った者達は王国兵と数人のクラスメイトだった。
 たった数週間会わない間に、アイテム一つでここまで変わるのか。

 そして、秒針と分針が重なり合った時、役目を果たした時計は音もなく姿を消し、凍結された空間が砕け散り、再び動きを取り戻して時間が進み始めた。

「わははははふべら」「どわっ」「ぐえっ」「ごわっ」「にゃりっ」「げふっ」「だっぺ」

 影の縄シャドーウィップにより動きを止められた王国兵とクラスメイトは、走り回っていたその勢いを止めることが出来ず、何があったかわからないまま間抜けな声を出してほとんど同時に地面に顔から倒れ込んだ。

「いてぇぇぇぇぇぇええ!!いてぇぇぇぇえよぉぉぉお!ってあれ?痛くねぇ」
「きゃぁぁぁぁああ!!ってほんとに痛くない?」
「えっ?どうなってんの!?」「誰か癒してくれたのか!?」「誰が!」「知らないわよ!」

 王国兵とクラスメイトとは逆に、エルフたちは自分たちの傷がいつの間にか治っていたことに戸惑っている。

「えっ?あれ?」

 俺は移動していたため、突然横にいた俺がいなくなっていることに気づいたルティーは、周りをキョロキョロと見回す。そして俺に気づいたらしく、こちらに走ってきた。そしてーーー

「シンヤ!」

 俺の胸元に飛びこんだ。俺はそのまま受け止め、ゆっくりと地面に足を着けさせる。

「ありがとう。本当に……ありがとう」

 ルティーの身体が微かに震えていた。長い髪の毛で隠れているが、薄く見える頬からは、ツーっと滴が流れ通っていた。泣いている。

「よく俺を呼んでくれた」
「うん……うん……。うぅぅうわぁぁぁぁぁぁ!!」

 ルティーは俺が渡したペンダントを胸元で握りしめ、大声を出して泣き叫ぶ。

「ルティー!」「ルティーちゃん!」「ルティー!」「ルティー!」「ルティー姉ちゃん!」

 ルティーが泣き出したことに気づいたエルフたちは、こちらに一斉に走ってきて、俺に抱きついているルティーを離し、俺は囲まれエルフたちに睨まれた。

 ん?なんだ?

「お前が!お前が俺たちの住処の情報を漏らしたな!」
「確かあんたは前に、うちの里にルティーを連れてやってきた男よね!」
「じゃあうちの里の場所を知っていたのはあんただけだってことだ。俺たちの里にはあんた以外の人間は来ていないからな!ならば、漏らしたのはあんた以外に誰もいない!」

 なんと、いきなり俺は犯人扱いされてしまった。
 これは驚いた。エルフたちは俺と初めてあった時、すぐに俺の言うことを信じてくれた。
 しかし今回は、俺以外の誰も知らなかったエルフの里に、突然王国兵たちがやって来て、エルフたちを襲った。だからすぐに信用を失った、ということか。
 信用しやすいと言うことは、逆に言えば疑いやすいとも言うのか。

「ちょっ、ちょっと待ってよ!シンヤは私たちを助けてくれたんだよ!?どうしてそうなるの!?」
「そうなるだろ普通!この男以外誰も知らなかったエルフの里に、突然他の人間がやって来たんだ!じゃあこいつが情報を漏らした犯人だろ!」
「っ!」

 ルティーは反論できず、唇を噛みながら悔しがっている。
 まぁあっちの方が正しいことを言っているしな。

「で、でも………!」
「それにルティー!この襲撃のせいで、お前の両親も死んだだろ!」

 少し動揺してしまい、思わず横にいるルティーの顔を見る。
 微かに震え、目尻に涙を溜めている。

「本当……なのか………?」

 ルティー小さくコクリと頷いた。
 周りを見回せばあるのは焼け焦げた木々、内臓が見えていたり、焼かれていたりするエルフの姿。死体の強烈な匂いが残っている。
 ここではルティーの両親の姿が見えない。

「おい!俺たちを無視するな!」
「てめぇだろ!早くこの魔法を解け!」

 王国兵とクラスメイトが自分が捕まっていると理解して、騒ぎ始めた。
 随分と理解が遅いものだ。
 俺は囲っているエルフたちの間を通り、彼らに近づいていく。

「お前達は、ほんの数週間会わなかっただけで、ここまで変わるのか」
「あ?その顔……見覚えあるような………」

 クラスメイトの男が、まじまじと俺の顔を見て言放つ。それを聞いて、他にいるクラスメイトも俺を見るがわかっていない様子だ。
 俺はクラスメイトに付いている【隷属の腕輪】に触れ、【全魔法無効】の効果により、【隷属の腕輪】の効力を無効化した。

「っ!ああああああああ!!」「きゃああああああ!!」「がああああああ!!」

【隷属の腕輪】の効力が失われた瞬間、クラスメイトが急変し、叫び出す。俺は影の縄シャドーウィップを解除する。クラスメイトは頭を抱え、激痛を誤魔化すかのように叫び続けた。
 数分後、叫び声はなくなり、力尽きたかのように、クラスメイトは横たわる。

「お、お前は……?」

 一人がこちらに手を伸ばし、質問を投げかける。
 俺は答えた。

「俺は、黒瀬神夜だ」

 その答えに、クラスメイトはポカンとした顔。

「はあああああ!?お前が、あの黒瀬だあああ!?」

 その声を聞いた他のクラスメイトは慌てて起きあがり、こちらに詰め寄ってくる。
 そしてーーーーー

 グサッ

 ブスッ

 ザンッ

 ドスッ

 クラスメイトは、自分が持っている武器で、俺の身体を刺し、斬り、斬撃を与える。酷く歪んだ笑みを浮かべながら。

「お前が黒瀬な訳ないだろ!」
「あいつは死んだんだよ!初めてダンジョンに行った時、あいつだけが死んだんだよ!」
「ひゃあっはっはっはっは!」
「ぎゃははははは!」

 しかし、

「は?」
「え?」
「へっ?」
「ん?」

 クラスメイトの俺に与えようとしていた斬撃は、全て俺の身体を通過していき、俺は怪我も何も負わず、ただ立っていた。
 エルフたちも呆然とした様子でこちらを見る。

【物理攻撃無効】

 敵と認識した相手の物理攻撃を無効化する。

 それを常時発動しているため、今回の攻撃が通らなかったのだ。
 しかし、俺は近寄ってくるまで、こいつらを敵と認識していなかった。まさか攻撃されるとは思わなかったからだ。だが、無意識に俺は、【魔眼】の効果の一つ、未来視を発動していた。その為、クラスメイトが俺を攻撃することが判明したので、こいつらを敵と認識したと言うことだ。

「さてと」

 俺は右手を空に上げ、振り下ろす。

 ボトッ

 何かが落ちた音がしたので、クラスメイトたちは地面を見た。そこにあったのは、自分たちが使っていた武器と、身体の一部である手首だった。

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!』

 自分たちの手首が落ちていることに、数分かけて理解したクラスメイトは、同時に叫び出した。
 手首があった場所からは、ドバドバと血が垂れ流れていて、斬られた綺麗に斬られた骨がまる見えだ。

「な、なんで!?なんで俺たちの手首がねぇんだよ!!?」
「どうやって斬れたの!?!?」
「はあああああ!?はあああああああ!!??」
「なんでぇぇぇぇぇぇええ!?」

 歪んだ笑みが、恐怖、痛み、動揺の表情に移り変わる。涙を大量に流しながら斬られた腕を抑えて叫ぶクラスメイト。
 そこで俺は、ネタばらしをした。

「簡単だ」

 俺はクラスメイトに右手を見せる。

「は?」
「へ?」
「なっ!?」
「え?」

 俺の右手には、ポトリポトリと血が滴れていた。

「ま、まさかぁぁぁぁああ」

 震えた声で言う恐怖そのものを吐き出したような声。
 そうだ、お前達が考えている通り、正解だ。

「俺は手刀でお前らの手首を落としたんだよ」
「嘘だぁぁぁぁぁぁああ!!」

 叫ぶクラスメイト。
 事実を受け止めきれないようで、ただ嘘だと叫ぶ。

「なんでこんなことをした。どうして人を殺した」
「ははは、そんなの決まってんだろ?楽しいからだ!」
「なんでこんなことをした」
「俺たちはそこの騎士について行ったのさ。じゃあこんな所にあのエルフがいるじゃねぇか。なら斬るきまってんだろあ!」
「お前達はこんなことをする奴じゃなかっただろ。他者を殺すどころか、武器を人に向けることすらできないひ弱な奴だったはずだ」
「私たちも初めは嫌だったさ。経験値を早く稼ぐため、皇帝様から冒険者になれと言われ、受けるクエストは盗賊の討伐ばっか。嫌々人を殺しているうちに、それは快楽に変わったのよ」

 喋っているうちにその顔は、エルフたちを襲いっている時の顔のように歪んでいた。

「人が泣き叫ぶ姿」
「無様に地を這う姿」
「己の身を差し出して命をこう女達」
「その身体を弄び、最後に殺すと告げた時のあの表情」
「絶念」
「恐怖」
「絶望」
「それらの類の感情に染まる顔が、俺たちをより興奮させ、快楽という感情に陥れたのさ」

 もう、壊れているのか。

「憐れだな」
「んだと?」
「さっきお前達が話した人達の姿と、今のお前達の姿、同じに見えるぞ」

 地に伏せ、這いているその姿。恐怖を吐き出したようなあの表情。痛みを耐え、目に沢山の涙を溜めているその顔。まるで話していた人達と同じだ。

「これ以上、お前達はここにいる意味は無い。来世で普通に生きれることを祈っている」

 クラスメイトは何も言えないまま、俺の手刀によって、その首を斬り落とされた。
 俺は王国兵の元に行く。

「何故、このエルフの里の場所を知った。何故、彼らに人殺しをさせた」
「ふっ、言う義理はねぇなぁ」

 王国兵は鼻で笑う。
 こいつらの心、黒く染まりきっている。神様たちみんなが人間を見捨てた理由が、こうゆうことなのだと、理解出来た。

「早く答えろ」
「ぐっ!」

 胸ぐらを掴み、身体を持ち上げる。
 声からして男だろう。男は苦しそうにジタバタし、暴れて俺の手を振りほどこうとしている。しかし、俺の手は一向に動く様子はない。
 すると、俺が胸ぐらを掴んでいた男の身体から、急に力がなくなり、手足がぶら下がっている状態だ。
 王国兵の兜の隙間から、泡がぶくぶくと垂れ落ちてくる。
 俺はその王国兵の兜を外し、顔を見る。四十代半といった所か。瞳には光がなく逝っており、口からは次々と泡が吹き出ている。脈を取れば動きはない。死んでいる。
 周りを見れば、他の王国兵も同様に動かなくなっていた。確認してみれば、最初の王国兵と同じように死んでいた。恐らく、元々口の中に毒でも仕込んでいたのだろう。

 さっきのクラスメイトの話からすると、【隷属の腕輪】が効果を発揮している間、心は正常だったということだ。
 そしてそのまま他者を殺していく間に、心は徐々に変わっていき、黒く染まって狂乱になってしまったのか。

 ことが終わり、周りを見ればエルフたちが俺のことを睨んでいる。信用よりも、疑いの方が長続きするらしい。

「さて、エルフたちよ。俺はここから立ち去ろう。そしてお前達の前に二度と現ることも、関わることもないだろう。じゃあな」

 さっさと帰るため、俺はそう言ってこの場を立ち去ろうとする。
 しかし、俺の手が後ろから握られた。振り返ると、握っていたのはルティーだった。

「ちょっと待ってよ。おかしいよ。シンヤは私たちのことを助けてくれたんでしょ?なんでシンヤは悪者のままどっか行っちゃうの?」

 弱々しく小さな声。そばにいる俺にしか聞こえない声量。

「仕方ないだろ。こっちの方がいい。それに、これのお陰であいつらも他人のことをすぐに信じるようなことはしないだろう。特に人間にはもっと警戒するはずだ」

 そう言って俺は足を進める。しかし、ルティーは俺の手を離そうとしない。ギュッと握りしめられた俺の左手は、振り払おうと力を込める。そしてルティーの手が離れた時に、また足を進めるが、すぐにルティーは俺の手を掴む。

『風よ風よ、全てを斬り裂く暴風よ、身体を抉りその身に刻め』

 俺が立ち去ろうとし、ルティーが手を掴むというループ状態を繰り返している時、唐突にエルフたちが、こちらに魔法の詠唱をし始めた。しかも、あとは魔法名を言うだけで発動する状態。

「ルティー!その男から早く離れろ!」

 エルフの誰かがそう言った。
 ルティーは目を大きく開け、驚いた顔をする。周りから他のエルフたちも声を上げる。「早くこっちへ」「離れろ」「戻ってこい」、色々な声がする。
 その声を向けられている本人のルティーは、俺の手からようやく離れた。

 それでいい。今は俺といるより、同種であるエルフと一緒にいて新しい生活する場所を探すなど、やることが沢山ある。

 そう思い、俺は魔法を放とうとするエルフたちに背を向けた。

「ルティー!?」

 後ろから怒りの声が鳴る。何故かと思い振り返ると、俺の背の前に、両手を大きく広げ立ち塞がっている、ルティーの姿があった。

「ルティー!まさかお前、その男を庇うのか!?」
「ええ、そうよ!シンヤは私たちを助けてくれた!その命の恩人に、攻撃させるわけにはいかないわ!」

 ルティーは反発する。その顔は、涙を溜めていた時のように、弱々しくではなく、強く何かを決心したような顔だった。

「私はシンヤを疑わない!シンヤは私たちを助けてくれたから!それでもみんながシンヤを攻撃するのなら、私はシンヤと共に、この地を去る!」

 決心したのはこういうことだったようだ。
 その言葉に衝撃を受けたエルフたち。
 俺は、これで魔法を発動するのを止めると思った。しかし、そう簡単にはいかないようだ。

「ならば!お前はエルフ族の裏切り者として、エルフの長に報告する!」
「っ!………それでも私は構わない!」

 エルフの長。つまり、エルフ族のトップに立つ者へ報告すると言われたルティーは、一瞬怯んだが、思いを変えず、貫いた。

「仕方がない。……『風刃ウィンドエッジ!』」

 エルフたちはルティーを本当に裏切り者として認識したらしく、その瞳には殺気があった。放たれた魔法は、ルティーにも当たるようにされている。ルティーは目を瞑って魔法を避けようともしない。
 俺は、そんなルティーの前に立つ。

 パリィィィン

 魔法は粉々なって形を保てず消失した。
 それを見ていたエルフたちは驚きの顔をして、後ろのルティーはもっと驚いた様子だ。

「ひっ!」

 小さな悲鳴。
 エルフたちが一斉に後ずさる。

「し、シンヤ?」

 その理由は、俺が無意識に殺気を放出していたからだ。呼吸を整えて殺気を抑える。

「今の魔法でわかった!本当にルティーを裏切り者として扱うのだと!ならば、俺はルティーを連れてここを去る!」

 ルティーの方をこちらに寄せる。

「まて!」

 エルフたちはすぐさま俺たちの元に向かって走ってきたが、もう遅い。

【魔眼】発動。転移!

 こうして俺は、ルティーを連れて追いかけてくるエルフたちを置き去りにし、クルウェント王国へと帰還した。

コメント

  • トクさん

    重白異

    0
  • べりあすた

    腐ってやがる…
    面白ーい

    0
  • NULL

    思しろいです。これからも頑張って下さい

    1
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