神々に育てられた人の子は最強です
お別れ
そこは真っ白な世界。何もなく、ぽかぽかと暖かい空気が流れている。心が落ち着く、そんな世界。
「神夜よ、言い忘れていた事があった」
「その声は、お久しぶりです。絶対神ヴァイヌス様」
そんな世界に現れたのは、自分の多くの父親の一人であり、ここまで育ててくれた神様の頂点のお方、絶対神ヴァイヌス様だった。
「あの、ヴァイヌス様。ここはどこなんでしょう」
「ここはお主の精神世界だ」
「なるほど」
だから、何故か周りの空気が自分に合っている感じがしたのか。
「それで、言い忘れていた事とは?」
「それは、お主のスキル【創造】のついてだ。あれは神の者には誰にでも持つスキルだが、創造できる種類は一つだけ。だが、お主の創造は大きくわけて3種類ある」
「3種類ですか」
「うむ、その3種類は、スキル、魔法、物質なのだ」
ほう、物質は何度か創造したな。だが、スキルや魔法は本当に創造できるのか?
それに、今考えれば何かしらの代償は必要のはずだ。ポーションを作る時、薬草が必要なように、何かを生み出すには何かの代償が必要だ。
「うむ、よくわかっているな。そうだ、お主に言いに来たのはその代償のことだ。あと、お主はもうスキルを創造しておるぞ」
「何をですか?」
「リミッターだ。恐らく、自分の力が世界には耐えられないと思い、無意識のうちに創造したものだろう。今お主には三つのリミッターがついておる」
は?あれで三つのリミッターがあるの?俺、マジで人間やめてるね。
「それと代償だが、それは【神気】だ。神気のことはわかっているな?」
「はい」
神気について教えてもらった事、それは神にしか持ちえないもの、それは神を殺すことができるもの、それは人間には持つことができないもの、そして、神気は減ることもあるが、増やすこともできること。
それは信仰だと、そう教えられた。
「そう、その通りだ。だからお主からは神気が少し減っている。創造を使ったことによってな。だから、あまり創造を使うのはよした方がいいと言いに来たんだ」
「そうですか、そんな大事なことを教えていただき、ありがとうございます」
「うむ、これからも、しっかり生きて誰かを守るのだぞ」
「はい!」
俺は返事を言うと、その空間はどんどん遠のいていく。
「あのことは、まだ言うには早すぎるな」
絶対神ヴァイヌス様が何か俺に聞こえない声でを呟いたと思った時、俺はそこから消えた。
ゆっくり目を開けると、そこは幻惑の谷の中で周りを見れば子供たちやアリア、ネル、ハク、ルナがいる。他には食べ終わった後のお皿などが置いてある。
いつの間にか、寝ていたようだ。
みんな薄着なので、誰かと一緒にくっついてか、丸まって眠っている。なので、無限収納から毛布を数枚取り出し、数人に子供たちを固めて毛布をかけた。
まだ誰も起きてない。俺がここ、幻惑の谷に来た理由はハクと似た力を感じただけじゃない。ここはA級危険指定されていると言われる幻惑の谷だ。そんなところに入ってくる冒険者などいるはずがない。つまり、鉱石の取り放題だ。これから必要になるはずだ。なので、採掘するためという理由で来たのでもある。
だが創造を使って何かを作ると神気が減るとヴァイヌス様は言っていた。だから、これから創造を使わず物を作るため、錬金術とかあったら、覚えてみたいな。
「っんー」
「あれー、みんな寝てたのー?」
「ふわぁ〜」
「おはよー」
一人、また一人ともぞもぞと毛布から体を起こす。上からは幻惑の谷に入った時に上げた、小さな太陽が照らしている。涎を垂らしてる子や、目を擦ってる子、まだ寝息をたててる子もいる。
そして、全員が起き上がり使った物を魔法で洗っていっている。ハクとルナも手伝っている。この子供たちはあらためてちゃんとしていると思った。なのに………
「ネル、みんな起きてるぞ」
そう、ネルだ。
こいつだらしなく涎を垂らして、毛布に包まり眠っている。
「あれー?シンヤー?」
ネルは眠そうな目を擦り、弱い声で言った。
「ああ、俺だ。あと起きてないのはお前だけだぞ」
そう言って肩を揺さぶる。
ふぁ〜、とあくびをしたネルの目に薄っすら涙が。すると、ネルの目がパチッと見開いて顔が真っ赤に染まっていく。
「ってシンヤ!?」
大きな声を出すネル。
「はいはい、俺だよ。その前に涎を拭け。驚いてるせいで可愛い顔が台無しだぞ」
俺の指摘を受け、ネルは真っ赤な顔のまま自分の口に手をやり涎を急いで拭いく。
子供たちはずっとニコニコしてる。外れた【奴隷の首輪】が付いていた場所を確かめるように手を当て、ないとわかるとまた笑う。その笑顔からは、もう自分は奴隷じゃない!、と喜びを感じた。
ほんの数時間前までこの子たちが奴隷だったとは思えないほど、綺麗な笑顔だ。
「あっそう言えばシンヤ!」
「なんだネル?」
「どうして属性魔法付与出来たの!?」
ネルが大きめな声で言った。その声がアリアにも聞こえたようで、すぐさま近づいてくる。
「そうじゃ!お主、元々出来たのか?」
「いや?あれが初めてだが」
アリアとネルは口をパクパクさせている。まさに信じられない、といった顔だ。
「ちくしょう、我が本当に頑張って、何年もかけて覚えた属性魔法付与を一瞬で成功させよって」
 
アリアは悔しさのあまり、地面をドンドンと叩く。無意識に手を龍化しているせいで、叩いた地面からヒビが現れ広まっていく。
「さて、用事は終わったし行くか」
俺は地面から立ち上がり、服についた土をはらう。
「どこに行くんじゃ?」
「ああ俺たち、いや、俺が勝手にここに来たんだが、その目的はアリアに会うためだよ」
「へっ?」
なんともまぁ、太古から存在すると言われている、古き竜王とあろうものが、間抜けな声を出す。
俺が言った言葉を聞き、アリアの顔が赤く染まっていく。
どうして、そんなに赤くするのだろうか?愛菜や雫もよく赤くなるし。もしかして、怒らせているのだろうか。
「あ、アリア。ごめんな?怒らせるつもりはなかったんだ」
俺はすぐさま謝った。だって、アリアは古き竜王だぞ、ここで怒り狂って暴れると、谷の壁が崩れ落ち生き埋めにされる。俺ではなく、主にネルやハクやルナ、子供たちが。
「な、なんじゃ急に」
俺が謝ったことで、アリアはあたふたし始めた。
「だ、だってそんなに顔を赤くして、怒ってるんじゃないのかな?」
「ち、違うわい。べ、別に怒ってにゃんかにゃい!」
アリアは噛みながら言葉を発する。
「そ、そうか?本当に怒ってないか?」
俺はもう一度聞き直す。できるだけ機嫌を損ねないように気をつけて。
「怒ってにゃいと言っている!」
「そ、そうか?よかった」
少し、言葉が変だがよかった。
俺はホッと安堵した。
「あれ?そういえば、ルナちゃんの本当の姿は狼で、一度指輪を外した時の姿を見たけど、耳はあって尻尾はなかっよね?」
「あっ、それはですね」
ルナは【隠蔽の指輪】を外した、着ているスカートをペラっと捲り、ピンクの可愛らしい下着が見せた。その下着は、ポコンと膨らんでいる。そして、その下着も少し下ろし半分お尻が見えている状態にすると、ポロリとふさふさの銀の尻尾が現れた。
「おお、ルナの尻尾だ」
俺は素早くルナの尻尾に手を伸ばした。昔から、猫や犬など動物のことは好きだったので、よく尻尾や耳を触っていた。
うん、もふもふふさふさだ。気持ちいい。
俺は思わず、ルナの耳にも手を出した。
耳と尻尾。両方とも気持ちいいものだ。抱き枕にして寝たいぐらい。
「きゃん!」
俺がルナの耳と尻尾を撫でたり、もふもふしているとルナから可愛い悲鳴の声が出てきた。
「どうした、ルナ?」
俺は問いかける。何故ならルナの顔が赤くなっていたからだ。
「ご、ごめんなさい。ご主人。初めて触られたんですが、耳と尻尾は敏感なのでそんなに触られてわ」
すると、ルナの体がピクンとはねた。その顔は少しトロンとしている。
「ああ、ごめんな。ついキレイな耳と尻尾が出てきたので、食い付いてしまった」
「 べ、別にいいですよ?ご主人なら」
そう恥じらいながら言っているルナの尻尾は、もっと触って、と言っているようにゆさゆさ、ゆさゆさと揺れている。
だが、さっきの声を出させぬために俺は触るのをやめた。ルナは少し残念そうな顔をしたが、「また触るから」と言うと咲いた花のような笑顔をした。
「よしアリア、子供たちどうする?今までどおり、お前が見とくか?」
俺はアリアに視線を向けた。
子供たちはもう奴隷じゃない。それにこの場所にいるのは、少々危険な気がする。もしもの時、例えばアリアがいない間とかが。
「うむ、そうじゃのう。子供たちの言葉を聞く。お主に付いて行きたいと言うなら何も言わないし、ここに残りたいと言うならいつもどうりにする。ただ、まだ成人になっていない子供たちを外に出すのは心配じゃ」
それもそうか。この世界で成人と言えば、16歳だ。ここにいる子供たちは見た目からして、10歳前後の子たちが多い。
「それに、もし成人になったとしてもこの世界は強くなければ生きていけない世界じゃ。少し訓練させたあと、出たいと言った成人の子たちは出さしてやる。それでどうじゃ」
「おう、それでいいと思うぞ」
俺はそう応え、うん、と頷いたアリアは子供たちを自分の周りに集めこれからどうするかを聞いていた。
そしてその子供たちの言葉のほとんどが、ここに残ると言ったらしい。アリアは少し涙を零して笑っていた。
「さて、片付けと悩み事も終わったし行くか」
よいしょと立ち上がった俺は、ハクとルナとネルを呼んだ。
そして、谷に降りるときのように背負い抱えようとした時、
「ねぇ、ご主人様。勝負しない?」
「勝負?」
「うん、誰が先にこの谷を登りきるか」
「ほう、いいだろう」
俺とハクはニヤリと笑い、ルナは楽しそう、と言う眼差しを送ってくる。
だがしかし、一人涙目になる少女。ネル。見た目16歳ぐらいでAランク冒険者だが、ネルは魔法使いだ。しかも人に身体強化を属性魔法付与をかけることが出来ない。すなわち、谷を登れないのだ。
「大丈夫だネル。お前は俺が背負う」
「ありがとう。でも重くない?」
「なにいってんだネル、お前は逆に軽すぎだ。もっとご飯を食べろ」
「う、うん」
そう言ってネルは俺に背負われる。
「さて、ハク、ルナ。どれくらいのハンデが必要だ?」
「15m離れてから。ね、ルナ」
「うん、それくらいなら行けそう」
「わかった」
ハクとルナは登る壁の反対側の端っこまで下がった。
流石に助走なしじゃ、しんどいみたいだ。俺は大丈夫なので、その場所で立っている。
「じゃよーい「お兄ちゃん」ん?」
後から声をかけられたので振り向いて下を見と、ミネアがいた。
「お兄ちゃん、どっか行くの?」
「うん、そろそろ旅の続きをしないと」
「また会える?」
ミネアの弱々しい声から何故か不安が感じ取れた。
「わからない」
「えっ」
ミネアの目から涙がたまる。
その涙には、色々な感情が篭っているのだろう。
俺は小さく、ほんとに小さく息を吐き、仕方なく創造を使った。
「ミネア、これをいつまでも持ちな。これは【呼び寄せの石】と言う。これを握って誰かの名前を呼ぶとその人に喋りかけることができる」
「どこにいても?」
「ああ、どこにいても」
そう言うとミネアは笑ってくれた。
すると、俺とミネアの横を風が通った。ミネアや子供たちには見えてなかっただろうが、今のはハクとルナが通ったのだ。
後ろを振り向けば、もう15m以上先にいた。
「じゃなみんな」
俺はハクとルナを追いかけるため、壁を走る。そして後ろを見ながら手を振った。
子供たちはありがとうー、とか言いながら涙を流す子もおれば、笑いながら手を振ってくれる子もいた。
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コメント
咲
壁を走る
やってみたいものだ。