海の声

漆湯講義

185.思い出のカケラ

「その"ヘンなモン"がこの島に売ってればの話だけどな」

『前の家から持ってきたかもしんないじゃん』

「バカかお前は…俺はそんなん興味無いのっ、わかった?」

『そうなんだ、興味無いのか』

「そういう商品にはってコトだよッ!あぁもうっ、早く掃除するぞ!」

そんな、恥ずかしくなるようなやり取りをしつつ、埃の積もった箇所を片付けては掃除機をかけていく。
意外にも美雨はこういう事が好きなようで、鼻歌交じりに掃除機をかける姿は可愛…っとまぁ今までにも美雨は俺の部屋の簡ら単な掃除はしてくれていたが、さすがにもうほっとけなくなったらしい。
すると美雨が腰に手を当て掃除機を止める。そして俺に"棚を動かして欲しい"と言うとそっと棚の後ろを覗き込んだ。

『きったなぁーい!ほれ、見てみてよこのホコリっ!…ん?』

そう言って美雨が無言で手招きをする。俺がその手の方へと目をやると、ホコリの溜まった棚と壁の隙間に何か尖ったモノが目に映った。

「なんだあれ?」

『折り紙?じゃない?…セイジ、取ってみて』
 
ホコリにまみれたその物体を取れなんて!と息を吸いつつ美雨を見たが、その空気は喉で震える事なくすぅーっと吐き出される事となった。
それは、美雨が頭の中の何かを必死に探しているように、その物体を見つめたまま固まっていたからだった。
俺はよく分からないままにその物体を摘み上げる。するとその物体が鶴である事に気付いた。三匹の鶴が手を繋ぐようにして連なるソレは、俺たちに見つけられるのを待っていたかのように、羽をピンと伸ばし、まっすぐに伸びた首を俺に向けている。
俺は静かにその鶴たちを窓まで持っていくと、窓を開いて外でホコリを払った。

そこで俺の背後から美雨の少し強張ったような声が出てきた。

『セイジ…それ、セイジが作ったんだよね?』

「んなわけねぇだろ?俺こんなのどうやって折るかわかんねーし」

『うっ…じゃぁお母さん?』

美雨はそう言いつつ、こめかみの辺りを手で押さえ、そちらの目をグッと瞑った。

「母さんでもないと思うけど…お前大丈夫かっ?」

『うん大丈夫っ、何でだろ、ちょっと昔の事思い出しちゃって…ちょっと貸して、カクニン』

そう言って美雨はその鶴たちを手に取ると、その羽を休ませるようにゆっくりと内側へと閉じ、丁寧にその鶴たちを展開しだした。


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