海の声

ある

184.あれから

島全体が紅く色づいた秋、
雪こそ降らないが、透き通るような静かさで、波の音だけが響いていた冬、
芽吹く草花たちが島全体に新緑の絵の具を鮮やかに散らしていった春、
そして、この島で迎える二回目の夏…
それからまた季節は巡り、再び島が祭の準備に追われだした頃には、島のあちこちから巨大な建設機械が顔を覗かせるようになっていた。
そして俺が渡し子をやる筈だった年から三回目の祭の日がやってきた。
そして俺は、やっとあの日からの心の整理をつけ、遂に美雨へその答えを告げることにしたのだ。
あの日から花火を見る時に訪れるようになったこの場所で、俺は美雨の目を真っ直ぐ見て言った。

「あのさぁ、二年前の答え、遅くなっちゃったけど、まだ美雨がいいなら…俺とその、付き合ってくれないかなぁって…」

そして美雨は強く目を瞑りながらコクリと小さく頷いたかと思うと、桃色に染めた頬にイタズラな笑顔を見せながら答えた。

『ホンット遅い!バカセイジっ!ずっと…待ってた』

そう言って俺の胸にドスンとした衝撃が伝わった。それとほぼ同時に俺を包み込む爽やかな甘い香りの中、俺は美雨のその小さな身体から伝わる温度を、忘れる事のないよう記憶のキャンパスに刻み込んだ。

俺たちの関係が変わっていくように、変わらなかった島の風景も瞬く間に変わっていく。
かつて風に揺られた竹林が奏でる小川のせせらぎのような音や、乾いた竹の擦れる音が響いたあの場所も、その殆どが伐採され、大きく抉られてしまった。
その場所には、全室から海を一望する事のできる20階建の大きなホテルが造られるらしい。
また、海沿いの道はその幅が今の倍に広げる計画があるようで、フェリーの運行回数も増やされるそうだ。
まだまだ先の話ではあるが、この島も大きく変わってしまうのだろうと少し寂しい気持ちになった。

『セイジっ、またここに居たっ♪』

振り返ると美雨の姿が目に映る。

『"父さん"がまたあの定食屋連れてってくれるってさ♪』

「えぇ?嬉しいけどあそこの爺さんいちいちめんどくさいんだよなぁ…」

『まぁいいじゃん、ゴハンは美味しいでしょ?』

いつからか、海美はおじさんの事を"父さん"と呼ぶようになった。きっと色々な心境の変化があって、おじさんの美雨に対する想いが伝わったんだろう。
そんなおじさんも、俺が美雨と付き合い始めてからは、今まで以上に良くしてくれるようになった。おじさんは不器用で愛想は無いかもしれないけど、ホントはいい人なんだって分かってきた。

そんな変わりゆく環境の中、変わらないモノがあった。
…俺の部屋だ。
引っ越したばかりで荷物も少なく、年末の大掃除なんかも特にする必要もない。そんな感じのまま今までやってきたが、最近になって、美雨との写真や綺麗な貝殻、棚の後ろ側などに積もった埃が汚いと美雨に怒られてしまった。

『とりあえずそんなに散らかってないんだからベッドの下とか棚の後ろだけでも一回掃除機かけなよッ、まぁベッドの下とかにヘンなモン隠してなければだけど?』

そうやってニヤつきながら目を細める美雨に根本的なコトを突きつけた。




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コメント

  • ある

    コメありがとうございます!!(。>ω・。)bラストスパート頑張ります(*`-ω-)b気づけばアイコン可愛くなってますね(。^ω^。)

    1
  • ミツキ

    今後の展開が気になる(・∀・)

    1
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