海の声

漆湯講義

179.夜空に散りゆく光

"ドーンッ"

突然、大きな音と共に夜空へと鮮やかな光の粒が開いた…

そして、その光の粒はパラパラと音を立てて沖洲の町へと降り注がれていく。

『綺麗…』

俺は夜空に咲いた光の粒にキラキラと照らされ、目を輝かせている海美の顔へと視線が強く結びつけられてしまう。

その光の粒が散って、再び夜空に沈黙が訪れると、空を見つめていた海美の視線が俺の視線に重なった。
俺は急に恥ずかしくなって「で、何て言おうとしたのッ?」と町の光へと視線を落とした。すると海美はそれには答えずに、ポケットの中から何かを取り出した。

『これ…その時が来たら読んで♪』

そう言って俺の手のひらに小さく折られた紙の塊を乗せると、それを包み込むように俺の指を曲げた。

「なにこれ?てかその時って何だよ?」

『いいからッ♪』

俺は海美の意味深な言葉を気にしつつも、懐へとその紙をしまった。
先程からなかなか上がらない花火に「来年も花火やるのかなぁ?」と海美を見る。
しかし海美は夜空を見つめたまま黙ったままだった。
そしてしばらくすると、海美は少し寂しげな声で夜空に向かって口を開く。

『私ね、渡し子ってすごいやりたかったんだぁ…でもね、そんな事よりも、こうやって友達と遊んだり、お祭りに出たりして、おいしいモノ食べて、何でもない事話したり…そういうコトしたかった。』

突然そんな事を言う海美にゆっくりと視線を戻すと、月明かりに照らされる海美の目に煌めくモノが溢れつつある事に気付いた。

『あのね…私…あの日、自分が死んじゃうって分かったんだ…』

俺は海美の話している事が分からずに「え…、何の話だよ?」と海美に聞くも、海美は真っ直ぐ空を見つめたまま続ける。

『ほんの一瞬の…ホントに短い間だったケド…私の人生で一番長い一番幸せな時間だったよ』

海美がそう言って俺へと微笑みを浮かべた…頬に一筋の涙を伝わらせて。

「ちょっ、何言ってんだよ!訳わかんねーよっ!えっ…」

その瞬間、海美の肩掴もうとした俺の手が、そこに居る筈の海美を通り過ぎた。そしてその時、俺の目に映った海美の身体は背後の景色を映す程に…薄くなっていた。




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