海の声

漆湯講義

155.ウミの家

海美の家へと到着すると、海美母の車は見当たらず、俺は胸を撫で下ろした。そして海美は玄関脇の花壇に置かれた手のひらくらいの陶器で造られた犬を持ち上げ、その背中に空いた穴からキラリと輝くモノを取り出した。

『鍵の場所ナイショだよ!!』

海美はそう言って扉を開け、"入って♪"と玄関を上がり、右脇に見える階段を軽快に上っていく。

「お邪魔しまーす。」

『久しぶりだなぁッ♪おっ邪魔しまーす!!』

生活感のない玄関に元気な声が響く。そこで俺は、ふと下駄箱の上に小さな写真が飾られていることに気付いた。そこには海美母と共に写る小さい頃の海美の姿があった。元気そうな"その子"は満面の笑みでお母さんの手を握っていた。
『なに見とれてんだよッ、行くよ。』
美雨に手を引かれ階段を上がると、ドアに掛けられた"海美の部屋"と書かれたプレートが目に入る。

『どーぞッ♪』と部屋の中へ案内されると、そこには綺麗に整理されたピンクと白で統一された女の子らしい部屋が広がっていた。そしてすぐに目に付いたのが窓際に置かれた大きなベッドだ。それは部屋の雰囲気に似合わずガッチリとした造りをし、病院でよく見るようなテーブルがベッドを跨ぐような形で備え付けられている…そのベッドは綺麗に片付けられマットレスだけが海美の帰りを待っていた。

そして壁に置かれた本棚には様々な本が並べられ、まるで小さな図書館のようだった。

すると海美はタンスの引き出しを開け、ゴソゴソと何かを探している。

「何探してんの??」

『うんとねー、あれ??あっ、あった!!これこれ♪』

そう言って海美は引き出しの奥から白地にピンクの花柄模様のついた布を取り出した。


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