海の声

漆湯講義

149.初登校。

『ご馳走になってばっかでゴメンね。』

部屋のドアを開け、海美の姿が見えると焦燥感に近い感覚が室内の冷えた空気に乗って飛んでいく。

「気にしなくていいよ。さっ、食べよっ。」

食事中も、海美のその姿を確かめるように俺は何度も海美に視線を向ける。
"あんま見ないでよぉー"と恥じらう海美だったが、意識して見ないようにしても自然と海美を見てしまっている自分がいた。

翌朝、俺たちは美雨のおじさんに車で送ってもらい、学校へと到着する。

『久しぶりだなぁーッ♪』

車を降りた美雨が腕をうんと伸ばして校舎を見上げた。

『ここが私の学校かぁ。』

その言葉に海美が少し可哀想に感じる。

「海美って自分の学校来たことないの??」

『こんな身体だからね…って今はピンピンしてるけどさッ♪なんかそう思うとこのまんまでもいい気がしてきたッ。っなーんてねッ♪』

そう言って舌を出し美雨の元へと駆けていく海美。
…顔がマジだったっての。
海美はこのままの方が幸せ…なのかな。

『おいセイジーッ、なにボサッと立ってんの??学校探検行くよーッ♪』

そもそも急に押しかけてきて突然"学校行こッ♪"なんておかしいだろ。

まぁコレも海美を考えてのコトなんだろうけど。美雨のヤツも意外と色々考えてるもんな。

「待てよッ!!俺まだ学校の中よく分かんねーし!!」

夏休みとあって無駄に広い運動場には生徒の姿は無く、校庭の周りに聳え立つヤシの木みたいな木々たちが蝉達と共にサラサラという涼しげな葉音を奏でていた。
そして俺たちは静まり返った校舎へと入り、薄暗い下駄箱へと上がる。
下駄箱といっても俺が通っていた学校なんかよりずっと小さくて、一クラス分程の下駄箱が一つ置かれているだけだ。

『ココ、ボクの靴入れ♪』

何故か自慢げに靴箱を披露する美雨。"ふーん"と無関心な返事をして俺は足元のマットに靴を並べた。


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