海の声

ある

146.眠れる家の…

………どうすりゃいいんだよ。

『誠司ぃー、ご飯出来てるわよー!!』

下から聞こえる母さんの声も、今は俺の耳を通り抜けるだけだ。

じきに階段を昇る足音が聞こえ、部屋の前で母さんが再び声を上げる。

『ちょっと誠司!!バ・ン・ゴ・ハ・ン!!』

「うるさいなッッッ!!それどころじゃないんだよッッッ!!」

…あの時、俺が木の陰から出ると、先程の場所で海美が倒れていた…
そしてそれを見た俺は、色々な負の感情がぐるぐると頭の中を駆け巡り、その場を暫く動くことが出来なかった。
我に返り、真っ白になりそうな頭のまま海美へと駆け寄ると、突然眠りについてしまったかのような柔らかな表情で海美は路上へと力無く横たわっていた。

咄嗟に"診療所へ行かなきゃ"と思うも、そんな事が出来るはずもなく、俺は泣きそうになりつつも海美を抱き抱えて家に戻ったのだった。

海美は消えてしまいそうな呼吸のまま、目を覚ますこと無く眠り続ける…

"海美…目を覚ましてくれよ"

海美と出逢ってからの日々が次々と脳裏に浮かんでは消えていく。
それは俺を、まるで物語のエンドロールを見ているような気持ちにさせた。

"もっと何か出来る事があったんじゃないか"、"海美は幸せだったんだろうか"…そんな気持ちが俺の胸を締め付ける。

そして不意に頬を伝った涙が海美の手にポツリと落ちていく。
あぁ…昔見た何かのドラマかアニメでは、その瞬間奇跡が起きて眠り続けていたお姫様は目を覚ましていたのに…
そんな小さな期待もただの妄想で終わってしまい、海美はその目を閉じたまま起きてはくれない。

"ちくしょう…"

俺はベッドに横たわる海美の手を握り、マットレスへと顔を埋めた。


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