海の声

漆湯講義

142.最後くらい…

『セイジが"立ち入り禁止"って看板を作って置いてくれるからだッ!!』

え、何言ってんのこいつ。ばかだろ。

「海美、穴場じゃないみたいここ。」

『おいっ!!いい考えでしょ?!ボクはそーゆーの作るの苦手だからお願いッ!!』

『でもみんなの場所なんだしそーゆーの良くないよー。ダメって美雨ちゃんに言ってあげて。』

確かにそうだけど…よくよく考えると海美も花火見たいって言ってたし、人がたくさん来て綺麗に見せてやれなかったら嫌だな…

「ヨシ!!乗った!!ごめん海美ッ!!だけどさっ、暗い中で他の人がこんな苔だらけのとこ上って怪我しちゃ大変だろ??それにこの手摺だってもしかしたら倒れるかもしんないし!!別に独り占めしたいとかそーゆーのじゃなくてあくまでもみんなの安全を守る為ってことで!!ねっ!!」

『誠司くんサイテー…なんて、嘘っ。うん、いいのかなぁ…でも、いいよねッ…私は花火見れるのそれで最後かもしんないし♪』

…また"最後かも"か。なんで海美はそんな風に思うんだろ。また元に戻って来年もまた次の年もみんなで来ればいいのに。

「最後ってどういうこと??海美は元に戻れないって思ってるの…?」

場が静まり返り風と蝉の鳴き声だけがやけに大きく耳へと流れ込む。

『違うよ…そう!!沖洲の花火が来年もやるとは限らないでしょ??だからだよッ、そんな"元に戻れない"なんて考えてないから心配しないでっ♪』

ホントにそう思ってんのかな…そうだとしてもそれって…完全に自分の為じゃん!!海美も案外ちゃっかりしてんだな。
そう思うと思わず笑みが零れた。

突然に笑い出した俺を見て、始めは困惑していた海美たちも何かがふっと途切れたように笑い出す。

『じゃぁ決定だねッ♪セイジの親方ッよろしくー♪』

俺たちがその場所を離れる頃には賑やかな蝉の鳴き声にヒグラシの透き通った声が混じり始めていた。

そこで俺はふと思った。"楽しいな、この2人と居ると"って。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品