海の声

ある

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沖洲の灯りが遠くに見え始めた時、ようやく落ち着いた美雨が口を開いた。

『セイジの言う通りだった。』

遠くに見える港の光のように小さく、そして温かい感情が感じられる一言に、俺は"うん"とだけ言って舵をとるおじさんの背中を見た。
ああいう人を"昔の人"っていうのかな、自分の感情はあまり表に出さなくても、やっぱりちゃんと美雨の事考えてたんだな、なんて思いつつ心の中でおじさんにお礼を言った。"美雨を迎えにきてくれてありがとう"って。

『よくね、ここに座って捕った魚の名前を教えてもらってたんだ。』

美雨はそう言うと、俺の肩へ月明かりを浴びた艶やかに輝く髪を寄せた。
…爽やかな匂いが潮の香りに混じる。
たちまち俺の身体に緊張が走り、頬に当たる髪を妙に意識してしまう。

「お、おい…おじさんに見られたらどうすんだよッ!!つーかその前にそんな近寄んなよ恥ずいなぁ!!」

『うるさい。今は黙ってボクの話を聞くトコ。』

こんな状況にも関わらず周りを気にせずに俺へその身体を寄せる美雨。
波に揺られる度にその柔らかな感触が伝わって、どうしようもないままに俺は"早く着けッ"と考えていた。

『父ちゃんは"この海を知る事は生きるという事を知る事だ。海は誰の為にあるかを知れ"って言ってさ。ボクはそれ…分かった気がする。この意味分かる?』

意味って…なんだろう。食べていい魚とダメな魚とか?俺がソレを口にしようとした時、おじさんの携帯が鳴った。

おじさんは、"もしもし"と周りの音に消えそうな小さく低い声で電話に出ると、"あぁ"とか"心配掛けてすまんかったな"と言った後、"世話のかかる娘だ"と電話を置いた。

『ねぇ、分かんないの?セイジには分かんないかなぁ。ふふ♪まぁいいやッ、また教えてあげるッ。』

おじさんの会話聞いてなかったのか。
まぁいっか、コイツにはもうジューブン伝わったみたいだしッ。

船はスピードを落とし、懐かしくすら感じる沖洲の港が視界に広がっていく。

『着いたね、誠司くんっ♪降りよっか♪』

揺れるボートから慣れた様子で降りる美雨に続いて、海美と俺も沖洲の地へと足を下ろした。

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